190.外へ part2

「エンリさん!無茶するから舌を噛まないようにして!」


 俺は彼女を抱き上げて急加速!

 斜めに大ジャンプ!屋根から屋根に蹴り跳ぶ!

 バレた!

 この一帯の魔力の流れが、明らかにその波の行く先を変化させた!

 渦だ。

 俺達を中心とした渦!

 音も伴わず、伝達が走った!

 俺達人間が、ここに居るって、伝わった!

 G型共が速さを増して向かって来るのが分かる!

 隠密行動はもう意味が無くなった!

 町から出ないと、

 奴等の目はそこら中にある!

 “精螻蛄トゥイッチン・ウォッチン”のような偽の視線じゃない!

 本物の監視網によって地面の下から掌握されている!


「はっや!?」


 G型が思った以上に機敏だ。

 縦に伸びて、上の端を地面に付け、そこに身の全てを寄せてから、また縦に伸びる。

 俗称をレインボースプリングと言う、デカいバネの玩具が、階段を降りる時と同じ動き。

 それで屋根伝いにこっちを目指して来ている!

 だが俺の方がまだ「前!?」

 カーテンのように、噴水のように、下から飛び出し壁を作る黒い液体!

 あれは、地中から出たV型か!

 複数体が一繋がりとなっているのか、かなり大規模に連動し、一つのモンスターの大口ように俺達を囲う!

 圧力で家屋を両断し、その破片を呑み込み武器とする様は、シエラ先輩の魔法を思い出させる。だが、破壊力と、スケール感が、違い過ぎる!

 俺はシエラ先輩の魔法に対してだって、無傷ですり抜ける事は出来なかったし、軽傷にする為にも、極度に集中してタイミングを計る必要があった。


 じゃあ、これは?

 あれより分厚く、汚く濁り、暴力的なこの奔流は、

 エンリさんを抱えながら、

 超えられるのか?

 

「超えるしかない!」


 前後左右上下がそれに閉じられ、ドーム型の牢となって俺を包む!

 だったらぶち破る以外にない!

 出来るかどうかを考えるな!出来なかったら二人とも死ぬ!


「す、ぅぅぅううう……」


 思い出せ。

 校内大会準決勝。

 プロトさんを前にした、にっちもさっちもいかない閉塞感を。


「ふ、ううぅぅぅ……」


 手加減ナシ。

 ここから出る事だけを考えろ。

 最近ずっと、夢の中でも繰り返してた事。

 魔力の廻転、その軌道を正三角形に。


「す、ぅぅぅううう……」


 落とさないよう強く、

 潰さないよう丁重に、

 エンリさんを抱き締めて、


「ふ、ううぅぅぅ……」


 曲げる。

 繋げる。

 加速。

 より広く、詳細に、見たくないものまで、

 俺には見える。


「す、ぅぅぅううう……」


 汚臭おしゅうが口の中にまで侵入し、脳を直接揉み混ぜる。

 受容体の鋭敏さが、シナプスの苛烈さが、

 神経に牙を立て内から荒らし、

 皮膚も骨も喰い破る。


「ふ、ううぅぅぅ……」


 その苦みを、エグみを、

 血流を下水道に置き換えてしまう汚染を、



——カンナ、

——そこに、居るんだろ?



 噛んで、舌で嘗め、吟味し、嚥下する。

 拒否反応を示す肺や胃を黙らせ、

 脳に全てを記録させる。

 記憶させる!


SAaaawwwwW見えたあアアア!」


 V型に運ばれ目の前に降って来たG型2体を魔力噴射による肩からの体当たりで撃ち抜き、黒壁に魔力爆破を当て、彼女のシールド手動発生スイッチを入れてから突入!瓦礫に当たらないルートを辿り魔力爆発で何度も前を塞ぐ物を退かしそれでも避けれない分は流動魔力で受け、


 抜けた!

 向こう側へ!

 その先に!

「あれは」



 もう、一枚。



「な、何重に、なってるんだ…?」


 駄目だ。

 弱気になるな。

 魔力が持つ威力も、精神に左右されると言う。

 ぶち抜けて当然、そう思え。

 1回出来たんだから、何度だって出来るさ。そうだろ。


「うおおおおおお!!」


 魔力を当て、再突入!

 空気の層を超えて空へと乗り出す宇宙飛行士の如き心細さ。

 だけど足を止める事は出来ない!

 道は前にしか無い!

 爆破して噴射!前進して貫通!

 爆破!爆破!爆破!

 抜けた!

 

「もう一枚!」


 何度やろうと同じ事!

 爆破!突入!前進!貫通!爆破!爆破!爆——


——これは!?


 この、

 肌触り!

 ただの建材じゃない!

 G型だ!


 V型の中で、G型達が流れ、一箇所に、俺の前に固まって来た!

 厚くなっている!

 密度も増している!

 重い!

 進め、ない!

 爆破しても、爆破しても爆破しても!先が、見えない!一度の攻撃で、払える体積が、小さくなっていってる!どちらに注意を、飛ばしても、満遍なく、同じだけ、密閉されている!動きも、数も、分からない!手も、足も、動かせなく、なっていく!固定される!固着してしまう!魔力噴射の抵抗で、触れさせはしていないが、このままでは、閉じ込められる!衰弱して、魔力を弱めた瞬間、毒の河が、皮膚を浚う!いや、その前に、彼女のシールドが破れ、死んでしま——


 急に、全身が楽になった。俺の後ろへ、泥が流れていき、前が開く。

 訳が分からないが、しかし呆けている場合ではない。

 再度加速、外に出て、その先にはもう、V型の壁は無かった。


 車道を辿り、別の町へと続く、山沿いのルートへ。


 黒く冠水した田園風景を横目に、


 川村田町から、


 脱出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る