182.全ては見え方による、って便利な考え方だな part2

「“魔力の色”のルールのヒントとなり、“体内魔力経路”を自在に使い、“体外遠隔魔力操作”に優れた精密性を持つ方が、いらっしゃるではありませんか!」


 え、この人誰?

 パンパンのバックパックを入り口に詰まらせながら、肌が濃く、灰色の髪は適当に刈られ、白い髭を口周りに生やし、小さな丸眼鏡を掛けたおじさんが、入って来た。

 いや、どこかで見た事はある、か?

 うーん、極東圏を出ちゃうと、人の見分けってあまり付かなくなって来るんだよなあ………。

 横を見てみると、みんな総立ちになってる。流石にこれには驚いたみたいだ。


「馬鹿な…!?何故ここに…!?」

「ちょ、あの人、遊んでられる程、暇じゃない筈だけどねぃ?」

「マジでぇー!?こんな所で、何やってるんですかぁー!?」


 あ、やっぱり有名人みたい。

 しかも、プロトちゃんさんまで驚いている。

 

「え、ごめん、誰だっけあの人」

「ちょ、お前さあ…!?チャンプの顔くらい知っとけ!信じられないんですケドぉ!?」

「え、チャンピオン…?………ああッ!」


 分かった!あの人だ!

 ガネッシュ・チャールハート!

 シンド出身!チャンピオン4位!

 ダンジョン研究最先任!


「え!?なんでここに居んの!?本物!?おかしくない!?」

「だからさっきからそう聞いてるんだろうが!」


「ガネッシュさん!そんなにお誂え向きの方が!いらっしゃるのですか!?」


 で、俺達を放って、寸劇は進行していく。


「そう!この明胤学園が誇る!史上最強の漏魔症罹患者!」


 世界でも十指の戦力と貢献度を持つ個人は、太くて硬そうな腕で俺を示し、


「ススム・カミザ殿が!そこに!」


 と、ここで3人が、ビシィッ!と変なポーズを取った。


「と、いう訳で日魅在先輩は、ダンジョン研究において、歴史的にも最重要と言える存在だと、世界的権威から認められたのだ」

「うわあ!?急に冷静にならないでよ!?」

「分かって頂けただろうか?」

「スペシャルゲストが豪華すぎて、記憶全部持ってかれたよ!話分かんなくなっちゃったよ!?」


 みんな目が点になってるよ!

 拍手してるノリのいい人が一人いるくらいで(((名演ですね)))カンナだこれ!


「慌てなくても、お願いすれば、サインはして下さるぞ?」

「いや、ちょっとそれどころじゃ……」

「僕はもう貰った」

「………殊文君、もしかしてテンション上がってるの?」

「はて?」

「分かるかい?実はそうなんだ」


 本人は惚けたが、助手さんから情報提供が来てしまった。


「お初にお目にかかりますなあ!ガネッシュ・チャールハートで御座いますぞ!どうぞ是非ともガネッシュと!」

「ど、どうも、日魅在進です…。丹本語お上手ですね?」

「学者ですからな!」


 何の説明にもなってなくない?


「是非貴方と話がしてみたかった!いやいや、お会いできて光栄ですぞ!」

「いえ、こちらこそ………」


 ドシンドシンと歩いて来て、俺の手を取りブンブン振るチャールハート……ガネッシュさん。

 力強っ!?

 素の肉体からしてインパクトがデカい!

 ダンジョンがあるなら、世界中何処にだって、中東からイフリ大陸の北に掛けて広がる、“不可踏域アノイクミーヌ”の中にすら、行った事があるらしい、筋金入りのフィールドワーカーだ。

 「体が資本」系の職種では最前線だから、こんな岩みたいな肉を付ける事が出来るのかな?

 ………触らせてくれたりしません?

 

「この部で最近、貴方の体質について研究していると聞き、居ても立っても居られなくなりましてなあ!どうにか参加できないかと考えていた所、体内でより複雑な魔法陣を作る事に挑戦すると聞き、それならば是非、助力させて下さいと、そうお願いしたのです!何しろ未知数な試みですので、優れた専門家による安全管理を、学園側も欲していたようですなあ」


 どうやら機会を窺い、自力で捩じってきたらしい。

 この学園、夏休みであっても外部の人は、地下のメンテナンス用業者くらいしか、入れないらしいのに………。

 行動力に色んな意味で震えるが、本人はケロッとしている。


「我々は貪欲になるべきなのですぞ!欲求も欲望も各個人だけの物!そして、その人物を形作るの物なのですからなあ!」


 との事である。

 

「そういうわけで早速お願いしますぞ!」

「はい!頑張ります!」


 なんか、夏休みの自由研究くらいの感覚だったのが、こっちの準備を待たず、一気に世界スケールになってしまった。

 

 ま、まあいいか!深く考えるのはやめよう!怖いから!

 

「……あ、でも」


 これは事前に、殊文君や白取先生には言ってあるけど、


「僕、夏休み中ずっと顔を出せるわけではないんですよ」

「はい、存じております。例の配信活動ですよね?」

「それもそうなんですけど」

 

 実は、


「里帰り、しようと思ってまして」


「ほほう?しかし、言いにくいのですが、確か親御さんは……」

「あ、はい。なので、両親じゃなくて、祖父母ですね。父方の」

「どちらまで?」

「城社県まで。もしかしたら、何泊かするかもしれません」

「成程成程……」

「すいません。ガネッシュさんみたいな、凄い人が来ると知らず、予定を入れちゃって……」

「いいえ!私の為に、貴方のプライベートを犠牲にする事もありますまい!」

 

 気を悪くした感じもなく、彼は頭を縦に振り、


「『何をしたい』か、『何をする』か、それは『何者なのか』と同義!特異な貴方の在り方は、貴方らしい生き方の中でしか生まれ得ない!貴方が我々の研究対象である以上——」


——貴方が貴方を失わない事が、

——我々への貢献ですから。


 

 人の好い笑顔で、そう言ってくれた。

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