182.全ては見え方による、って便利な考え方だな part1

「魔法とは、解釈です!ゲホッゲホーッ!」

「そ、そうですか……」


 おはようございます白取先生。

 会話中にいきなり部屋の外から参加してくるの、びっくりするのでやめてください。せめてボリュームを加減して。


「世界を読み解く際、解読プログラムが必要になります!そしてそのコードがそのまま、魔法効果の形成の基礎となるのです!」

「そ、それは分かります」

「人は世界をあるがままに受け取れません!脳が余計な情報を処理しなければ、生きていけないからです!そして我々は、全ての生物の中で、最も自惚れ深い!」


 自分が世界の中心で、

 世界は自分の見た通りに変わる、

 そう信じている。


「だからこそ!ゴホッ!だからこそ!あるがままでない世界を生み出し、そこに本物以上の価値を置く、“物語”の中を生きる我々人間のみが、“魔法”という外れた力を使う事が出来る!つまり、魔学とは、自然科学の中には無い、“偽物”、或いは“空想”の法則である!自然との相違こそがその本質!ええ、一見理に適っています」


 「それが殊文君の主張ですね?」、

 と、新開部室に入って早々、先生は論戦相手の言い分を噛み砕いてくれた。


「ただそれは、“自然”という物を、狭く見積もり過ぎている、と言わざるを得ません!ガホガホッ!良いですか?“自然”はよく“人工”と対比されますが、人もまた自然の一部です!冷蔵庫も、ビルも、車も、仮にダンジョンまでもが100%人間の産物であったとしても、それらは“自然”に包摂ほうせつされる物なのです!ええ、自然とは、懐の広い概念ですね」

「しかし先生、その、『人間とは自然の外にある物だ』、という思い上がりを、その世界観を反映するのが、魔法です。であれば、魔法が自然を超越する、という事も有り得るのでは?」


 んで、殊文君は良くそこでそれっぽく聞こえる反論が思い付くね。

 俺もう、どっちの意見にも聞いた傍から、ウンウン頷いてるよ。正しいように聞こえるから。掌がドリルみたいに数回転してる。


「その、『自然を超越する物』とは、具体的にどういった事なのか?我々の想像力が、それを生む事は不可能です!どんなイメージにも、突飛な作り物にも、必ず元となる自然があります!そして魔法は、その“元”を引っ張って来た上で、我々のイメージを再現します!

 例えばドラゴンを生むとき、蜥蜴や鰐、恐竜や翼竜を元に身体を作り、内部に発火機構を装着します!何も無いくうから炎を出せる、存在しない材質の新種を作れるわけではありません!魔法に使われるのは、既に何処かにある何かであり、未知であっても架空は無いのです!ええ!我々に自然は超えられません!」

 

「それは、我々が知り過ぎているだけなのでは?何も知らぬ者がドラゴンを描けば、中身が空洞であるのに、膂力を思うさま振るう不可思議な生物が現れるかもしれません。“弧弦のジャンヌ”の例があります。彼女は無知であるが故、その魔法は誰よりも強力だったと言う話です。優勢だった一国の軍隊を追い返す程に」


「それについては、誇張が入っていますね。彼女は一人で勝ったわけではありません。ゴホン、彼女はその異常な、そして戦争のルールから外れた行動によって、味方に士気と勢いを、敵に委縮と嫌悪を与えました!無知や白痴ほど魔法が強いというのは、迷信の類でしょう!

 縦しんばそういったケースがあったとしても、それはその人物の中で、常人とは違う理によって、物と物が結びついているという事!」


 「例えば!」

 先生はそこにあった黒板に、たぶん炎を表すイラストを描く。


「炎の壁、という物を想像した者が居るとします!炎は物質でなく、可視化されたエネルギーです!そこに実体は無いので、本来なら“壁”とは呼べません!だから炎が、突撃する巨大な質量を止めると、そこに超自然があると思われてしまう!」


 「しかしながら!ゴホゴホゲホーッ!」、

 それで喜んではいけないらしい。

 って言うか、無理しないで欲しい。

 聞いてるだけで、こっちも喉がイガイガしてくる。


「炎と、それとはまた別のエネルギーの流れが発生していると考えれば、話は別です!例えば、原子が二つあると、外に配置された電子同士が、反発し合います。マイナスの電気とマイナスの電気、つまり同極が互いに反発する力です!ゴッホン、そして物に触れる、物を押すと言うのは、この電磁力による反発が正体です!」


「え?そうなんですか?」

「黙って聞けハイスピードチビ」


 横に居たミヨちゃん、訅和さん、ニークト先輩に、驚いた様子は無い。

 どうやら割とみんな知ってる事らしかった。


「電磁力、または光。これは炎から発されている物であり、これを操作出来れば、『実体のある炎』という無理難題を再現可能です!或いは色を発する、つまり光を発すると思われる魔力なら、電磁力と似通った働きを——」


「そう!それです!“魔力”!そして“魔力の色”です!」


 殊文君は、待ってましたとばかりに、勢い込んだ。


「魔力に関して、我々は無知過ぎるんです!光を、電磁力を発するのなら、それがどう発生しているのか、それが分からない!自分の身体から離しても、遠隔操作出来るというのも謎です。電流エネルギーを分けられ、意思によってそれを発散、起爆するという話ですが、ではその“意思”は、何によって伝えられているんでしょうか?意思の強弱で、効力が変わるのは何故でしょう?

 それに“魔力の色”は、厳密に言えば光なのか怪しいでしょう?脳が何かを受け取り、それを“色”として認識しているに過ぎない。盲目であっても、魔力はと言います!どうやって?光を認識する受容器官が、機能していない筈なのに?“色”という概念も知らない筈なのに!」


「それは視覚以外で、嗅覚や聴覚といった物で受け取った上で、脳の視覚野が連動して刺激されるのでは?」


「そこもまだ不明です!不明!不明!不明!不明だらけ!“魔力”!これが!これだけが!人の時代にしか存在せず、自然科学による理解を弾いてしまっている!」


「それは同感です。私は魔力が法則外であるという見方には反対の立場ですが、それが属する何らかのルールを、まだ発見出来ていない、とは考えます!ええ!深淵は深遠なりて!まだまだ深く!ゴホゴホーッ!」


「そうです!つまり我々は、それをこそ解かなくてはならない!魔力の色、それが脳からの指令を受け取るメカニズム、魔法の性質と体内魔力経路の関係性!」


「魔法は時に、使い手の認識の変化によって、その能力を変えます!その時、体内魔力経路の変化があると言う!ええ!魔力が肉体をどのように通るか、それもまた重要!だからこそ“魔法陣”という概念が生まれるのです!」


 ん?

 なんか変じゃない?

 討論、って言うより、

 

「ですが先生、それをどう追っていくべきでしょう?」

「そうですねえ…。サンプルを多くするか、或いは例外的な存在があれば……」

「例外、ですか?」

「はい。一見仲間外れに見える存在は、我々の想定する“法則”が、不完全だと思い知らせてくれます。“通常”との共通点、相違点、そういった物を突き詰めれば、全体像が見えて来るかもしれません」

「成程……。しかし、『例外』と言うからには、見つけるのも難しいでしょう?」



「いいや、そうとは限りませんぞ!」


 

 と、スライドドアが開かれ、新たなる闖入者である!

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