159.そんなんアリかよ!?の連続 part1

「アタシが思ったよりさあ、頑張ってんじゃん?」


 彼女の能力は、後手からでも相手を撃ち抜ける。

 迂闊に手を出すのは禁物。

 だけど奥手になり過ぎて、いつまでも攻めあぐねてしまうと、複数を相手にしてるミヨちゃんが、脱落してしまう危険がある。


「そっちこそ、一回戦、二回戦と随分張り切ってたみたいだけど、具合悪くなったりしてない?小学生の体力って無限に思えて、急にねむねむしちゃうから、ペース配分に気を付けてね?」


 エカトさんからの仕掛けを待つか?

 挑発に乗って完全詠唱を試みてくれれば、結構大きめの隙を晒してくれるのだが……


「プッ、ププー!声も足も震えてるよー?強がっちゃって、カワイーね?お、に、い、ちゃ、ん?」

(((まことに。威嚇行動を取るススムくんは、実に乙なものです)))

 

 ぐぅ…!

 弱い犬に吠えられたくらいじゃ、揺るがないだけの成熟度もある…!

 精神面も学園によって、しっかり教育済みか。

 もっと短気ならこっちも助かった……いや、その場合だと、日頃から被害者が出るな。ダメだわ。


 え?なんか師匠サイドから野次が飛んでるのはいいのかって?

 ハハッ、あんなのBGMですよ。あなたも同じ立場ならすぐに慣れます。


「ま、いーや。似たり寄ったりなドングリ共を踏み潰すの、飽きてきたんだよねー!時短しまーす!」


 来た!

 魔力が指先に集められる兆候を見た俺はすぐに距離を詰めに行ったが、


「“欠蝶ラブ・ラヴ”!」


 彼女が指ピストルを作って俺に向ける所作が先んじる!


「ってかはっや!?」


 ライトイエローの残光を残したその右手は、それだけで攻撃になる程の超スピード!

 更に指先から光線が発射される!


「アンタもねー!ゴキブリみたい!キモい!クサい!」


 それはレーザービームと言うより糸に近いもので、撃ちっぱなしで途切れず俺目掛けて振るわれる近接武器になる!


「臭いは、関係、ないだろ!」

 


 魔力の配置や動線から先読みしてようやく躱せる代物だ!

 しかも彼女の腕の動きには、惑わせる為のダミーが混ぜ込まれている!

 実際に振るわれてから避けるのではどうやっても回避不能!


「ゴキブリなら!ゴキブリらしく!潰れちゃえよ!叩かれて!」

「別に俺は!ゴキブリを自称!してないからな!?」

 

 横振りを潜りながら殴りに、行こうとしたが根本がたわんで目の前に落ちて来る気配がしたので退却「んおっ!?」するけれど電線の先が真後ろで俺の背の方を向いたのでそのまま刺し突いてくると予想して右にスライド回避!「当たる!」側面から拳を放つ「はいバーリア!」より先に空振った先端部が俺の目の前を通って彼女に巻き付き高圧電線防護を形成、帯電空間が彼女に指一本すら触れる事を許さない!


「千切れちゃえ!」


 次にその線が解放されて逆袈裟に振り抜かれるのを察知、「殺意ィ!」左に転がって回避しつつその後の連撃も警戒してリーチの外へ!

 

「そのオモチャ危ないよ!?最悪三途を横断するって!!」

「アタシは困らないからー!元より殺す気だもんねー!」

 

 不穏。

 電線の先端に、何かが集まっている?

 と、背後の地面に魔力の気配!


「あれか!?」


 側転回避!

 俺が立っていた場所を横切る雷撃!

「づッ!?」

 全身の血管が一瞬だけ糸鋸いとのこぎりになったような激しい奔痛ほんつう

 避けられてなかった……?

 いや、グラウンドの床が、濡れている。

 しかも、「“海”を出す」という能力故か、通電しやすい塩水だ。

 それも含めての編成かよ……!?


「あれれ?耐えるの?無知なアンタに教えてあげるけど、虫けらは今ので即死しなきゃいけないんだよ?」

「目と耳が悪いらしい君に教えとくと、俺は虫さんではないからね?」


 「それとも“虫”っていう言葉が分かってない?本当に小学生?」と、笑いながら全力で見下しに行ったこの男、

 内心では汗ダラッダラである。

 

「『頼むぅ!キレて冷静さを欠いてくれぇ!』みたいな?」


 はい、図星です。

 私は小学6年生との心理戦に負けた高校1年生です。

 さっきシャチと殴り合ってましたが、今それ以上に恐怖してます。

 マッコウクジラか何か?


「んー、ミョーインのスーツの、耐電性能のせーかなー?んじゃあ、アンタそうそう死なないみたいだしぃ、」


 周辺の地面のあっちこっちが魔力を溜め始めた。

 嘘だろ……?こんな広範囲に……?

 射程はどうなってんだよ!?

 やっぱ地中の方が、空気中を伝えるよりも届かせやすいのか!?


「ちょっぴりだけ、マジで行こー」


 左手の親指が立ち、人差し指が伸びたあの形は、

 指ピストル2ちょう目。

 

「砲門も——」


 その指先からライトイエローが——

 

「——増やすのねえ!?」


 魔力ジェットで地に足が付かない所まで退避!

 直後地面の水分が暴力的直流によって瞬間加熱!

 更に小さな雷が幾本もあらわれ地を凹ませる!


 いや何本も出せるのは知ってましたけど!

 直に魔力を感じてみると、これスッゴイなあ!?

 命一つじゃ足りないよ!?


「いつまでもお空でプカプカしてるつもりぃー?」


 グラウンドの惨状に青くなった俺の上に、たった一度のジャンプで到達するエカトさん。


「あんえ゛!?」

「その顔おもしろーい!!」


 その指から伸びるライトイエローが個別の生き物であるかのように俺を襲い——




——電子の速さがどれくらいか、分かるか?

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