157.今までで一番「連携」してる気がする!

 海の中をスイスイと泳ぐ、ダークブルーの狩猟者。

 その「海」全体もまた、敵を追い掛け喰らう、危険な生物。

 広い屋上の半分以上が水流で覆われ、更に安全な足の踏み位置を、コロコロ変えてしまう。

 水場から遠くても、安心は出来ない。

 断続的に撃ち出される瓦礫類が、多重複製によって怪物の形を作り、陸地から追い遣ろうとして来るのだから。

 そしてコピペ使い魔達は、水中にも潜り込んでいる。

 油断した者をその大顎で咬み掴んで、海中深くに連れて行こうとするのだ。

 そして、濡れた足元を滑らせ、落ちた先には、これからやって来るであろう、エカトさんから見て何も遮る物の無い、広く平らなグラウンド。



 以上が旧校舎の屋上に、ミヨちゃんを助けに行った俺が見た、嫌過ぎる囲い陣です。


 これを相手に、一人で数秒持たせてた時点で、うちのKキングの実力の程が、分かろうという物だ。


「ミヨちゃん!」


 東側で固まる彼らへ駆け寄ろうとした俺へ、ノータイムで殺到する波濤はとう


「邪魔ァ!」


 さっきより薄い!

 ミヨちゃんを倒す方に比重を置いて、俺に対しては破片入り奔流攻撃でもしておけば止めていられるという考え方だろうが、こんなもの避けるまでもない!


「ジェット噴射ァ!」

「ウソでしょん!?」

「マジだよ!」


 流動防御も利用して驀進ばくしんしながら最短距離突破!

 前でクロスした腕や、頭や肩などに幾つか刺さったみたいだが、俺に目が行った時点でこっちの狙いは完了している!


「こん!」

「あ!」


 ミヨちゃんが屋上から飛び降り、たと思ったらリボンの一つで真ん中にある時計台を掴み、ターザンロープみたいに使って滑空しながら俺の真上へ!


「こんこん!」

「ああ!もう!さっきからすごい外す!気まずいなあ!」


 和邇さんからの攻撃を振り切りながらもう一本で俺を掴みつつ逆の西側へと着地!


「ありがとう!」

「いえいえ!ススム君が来たからには千人力だね!」


 その方程式は絶対間違ってるから検算をお勧めします!

 

 なんて安心は長くは続かず、時計台に水球が十数発放たれ、着弾点からステンレス色の棘が生え立った。

 そしてそれらが広げる傷口を重ねなぞるように、高圧噴射水が何往復か横切って、バラバラに倒壊させてしまう。

 回避に使える建造物が無くなってしまい、更にコピペ能力者が、残弾を大きく増量した。


「今の、誰がやったヤツ?」

「多分辺泥先輩だな…。あそこまで高出力とは思わなかったけど」


 あの潮吹き、攻撃手段にもなるんすね……。


「あと雲日根さんが、本当に液状化しちゃってるから、殴ってもあまり効かないから気を付けて。私の能力で削る事は出来たんだけど、ちょっと長くなりそうかも」

「水を補充できる人と合流しちゃったしな…」


 センサーとかもドロドロに溶けてたりするのだろうか?よく機能するなあ…。

 それとも、なんか異空間的な所に、本体その他を収納しておく感じなのかもしれない。


「ま、いいや」

 

 向かって来る四人組を前に、ミヨちゃんから、頼りがいのある「いいや」が出ました。


「今こそ全投入の時だね。こっからは力をセーブとか考えなくて良さそう!」


 彼女は両手にキツネサインを作り、

「こぉん!」

 手首をかえしながら、二つを合体。

 一つの大きな狐頭を、その口元で模って見せる。



「“九狐旧亙倶苦窮涸キューティクル・クレプスキュール”!」


 完全詠唱と共にお馴染みの衣装を装着!

 更にその背から、

 正確に言うと、その、お尻の辺りから伸びるリボンが5本増え、合計9本!


 1本は彼女の五体を守り、

 2本は俺に結ばれ、

 残り6本が頭上に並び、

 「ここからが本番」と威嚇する!


「逃げ道が無いなら、開けばいいよね!」

 

 賢く強く、

 そして楽しく、

 物は試しの

 くれぷすきゅ~る。


 

 津波のように押し寄せる敵の一団を前に、6本全てのリボンを突き立てて障壁を作る!

 でも、「流石にいつまでも持たないんじゃあ!?」「どっちが?」

 え?「どっち」って、どれとどれ?

 

「持たないのは、私のリボン?それとも——」


——このちゃん?


 その6本の先端から、

 薄い金属屋根が捲り剥ぎ取られる!


 開いた空間に雪崩れ込んでしまう敵パーティー!

 その床を踏み抜いて教室まで落ちてしまった彼らの頭上からリボンの群れ第二波!

 “融合”の能力を持つそれらの先端が、彼らの肉と溶接し、付いた部分を抉り取ろうと降りきたる!

 まずシエラ先輩の海が、次に雲日根さん入り水膜が広がって守りの壁となりガラスの割れる高音!

 空中に煌めく粒子!

「すぅぅぅううう…」〈!アータ!〉

 速い!窓から入って和邇さんを急襲した俺に辺泥先輩が反応し割って入った!

「ふううぅぅぅ…」〈考えるわネ!〉

 だけどこうすれば、水使いの二人は上からの攻撃を見ざるを得ず、和邇さんは辺泥先輩が壁となって俺を攻撃できない!

「すぅぅぅううう…」

 この人を倒せば!

「ふううぅぅぅ…」

 瓦解する!

〈簡単にやられてアゲナイんだから!〉


 動態魔力探知を全開。

 どんなに微妙な動きも逃さない。

 水中に潜ったみたいに、

 あらゆる事柄が、鈍く流転しているように思えた。

 

 感覚が、鋭く尖り、

 痛みも苦しみも倍加しながら、

 情報を、

 気付きを、

 手掴みで得る。


 頭を狙った右拳。

 左に避ける。

 頬に傷。

 腕の側面に、ギザついた突起がある。ニークト先輩がやるのと似たような、体表面の任意の箇所に、牙を生やすやり方か。

 もっと大きく避けないといけない。

 頭の中で、相手の攻撃範囲を、修正。

 止まった腕が、振り下ろしチョップ攻撃に変化。

 左斜め前ステップ回避、からのサイドキック、が相手からも飛んできて相殺、いや若干押し負けた。

 彼は蹴り足とした右を踏みしめ、回転軸として、左足での回しローキック、

 を、俺は跳んで躱し、どこにも手足が届かない、空中の隙を晒してしまう。ジェット噴射があるとは言え、横の和邇さんからの攻撃も合わせた全てを、避け切るなんて出来っこない。


 だから、ここは避けじゃない。

 攻める。

 どうせ当てられるのだから。


 着地は辺泥先輩の方へ。

 俺の右手は既にナイフを抜いている。

 高速回転魔力刃。

 身体強化に集中しながら、潮吹きによって加速した、左脚を受ける。

 俺が攻撃を叩き込まれると同時、相手の足にもナイフの刃が食い込んでいる。

 左側の一部に流動防御。和邇さんの攻撃が、シールドだけ削って逸れて行く。

 が、流石のシャチがわ。回転刃でも、半減されると、引っ搔き傷程度で収まってしまう。

 その状態から膝が曲げ出され、ナイフが弾かれる。

 足首と爪先の間で、俺の首を取り、引き倒しながら、牙で首を切り裂こうとして

 思うように動かない事に、気付いたみたいだ。

 シャチの表情には詳しくないけど、眼を見た感じ、ちゃんと肝が抜けてくれてる。


 俺を治療する為に、ミヨちゃんが持たせてくれたリボンが、

 その脚に巻き付けられていると、

 今目に入ったか?


「すぅぅぅううう…」


 リボンの横、線上を伝い、途中で横断して反対側へ。

 真っ直ぐに伸ばせば、細い長方形となる循環経路。

 そこを通って表皮を削る、魔力の流れを作った。

 これならいずれ、脚を通る重要な血管を、傷付けられる。

 追加点も入る。


「ふううぅぅぅ…」


 辺泥先輩は、貫手の形にした両手を繰り出す。

 更に足下に波を起こす事で、俺のバランスを崩させ、それを安定させようとして、リボンを掴み、結果的に俺が彼の足で、自分の肩を押さえ付けてしまうよう誘導。

 右腕全体が使用不可、移動も制限される。

 左腕のみで、首を狙った二本の腕に、対処しなければならない俺は、

 下からの左手で、相手の右手を打ち上げ、

 もう一本の指先に、自分から頭を打ち付ける。

 インパクトのタイミングも場所も外され、適切な衝撃伝達を損なった彼の手、

 その指が関節に逆らって、外側に折れ曲がる。

 

 だが俺の頭は、前のめりに出過ぎてしまった。

 辺泥先輩最後の武装、数百kgとも言われ、サメに次ぐ咬合力を持っている大顎。

 そいつが文字通り牙を剥き、逃げ遅れた俺の頭蓋を、砕きに来る。

 のが分かっていたから、

 俺は右手と両膝から、力を抜いたのだ。

 床が揺れ、彼の左脚が、俺をのがすまいと注力する。

 だから、俺の姿勢は自然と下に、腰も頭も低くなる。

 それを追って、顎門あぎとも下を向き、


 俺の肩を踏み台にした狼がその口内を噛み破った。


〈ギャオオオっ!ちょっとお!?〉


 すぐにシャチ頭が噛み合わされ、狼の胴を両断し、


 ああ、流石ニークト先輩。

 俺が彼の立場だったら、それが一番不快です。


 俺は右肩を大きく下げ、

 力の緩んだ左脚から脱し、

 そこで狼が爆発、

 血肉をまき散らして視界を塞ぎ、

 俺はそこで腰の下に再度力を漲らせ、

 一歩後ろに出していた右足を蹴って

 相手の下顎を目掛けてサマーソルトキック。


〈ナメないでよネ!〉

 

 潮吹きの反動で無理矢理戻された右腕のガード。

 俺の動きが止められる。

 そこを狙うは和邇さん。

 多連装クロスボウから同時に5、6発のつぶてを発射。

 それらがまたコピペ能力で凶器の形を取り、

 流動防御で逸らされる。

 俺がサイドに注意を割いた所で、

 辺泥先輩が上から覆い被さるように拳を連打、

 釘付ける。

 この防戦一方から俺が抜ける前に獲り切ろうと、

 次なる矢弾やだまを作る和邇さん、

 を襲う狼2匹。

 彼はトンファー型警棒を両手で抜いて左手の一本は咬ませ、

 右手の物は回転させ8の字に振るい、

 メキメキと敵の骨を軋ませながら1匹撃墜。

 窓に爪を掛けて飛び込んだニークト先輩。

 振り落とされたもう1匹が蹴り殺されたのを確認し、

 右手のシミターを振りかぶりながら突進。

 斬撃に備えて警棒を頭の高さに掲げる彼に、

 減速ナシのタックルを叩き込む。

 その時右足が相手の足を踏みつけて、

 衝撃で逃げられないようにその場に留め、

 ガードが大きく仰け反ってしまった彼の頸に横振りで一断ひとたち


〈二人ともダメ!〉


 俺を倒そうと足を止めてしまっていた辺泥先輩の警告は遅く、

 シエラ先輩と雲日根さんが和邇さんを助けようと、

 水流の一部を伸ばしてしまい、

 上部の守りが薄くなった事で、

 ミヨちゃんのリボンが貫通。


「いいぞ見世物女!引き上げろ!ジェットチビも来い!今度は遅刻するなよ!?」

「別に遅刻癖は無いですからね!?」


 2本掛かりでニークト先輩を持って行き、

 俺も一緒に上へ。

 傷を完全に治して、仕切り直す為だ。


「やっちまった…、気まずい……」


 後に残された和邇さんの首輪が、

 赤点滅になった事を確認した上で。

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