156.中間発表会です!おさらいしましょう!頭ごちゃごちゃだろうし! part2

「その後が、実に複雑で、興味深い」




 メナロが、紅茶片手に、横目を向けて、


「ご解説戴いても、宜しいでしょうか?八志兼様」


 賞賛しながら、問うている。

 「我が一族の求めに応じ、能力の秘匿性を捨てる事が出来るか?」、

 そう探る裁定者は、「イエス」以外の返事を許さない。

 八志は口を開く。


「雲日根睦九埜むくの、水の精霊の伝説を核とする生徒です。能力は、自身の流体化」


 特に水中でなら、ある程度の範囲と同一化、自分の一部として使役する事まで。


「K或いはBポジションに対して、追尾魔法を発動」

「転移させる“海”に彼女が同化し、共に敵陣に送り込む」

「そういう事でしょうか?」

「そうなりますでしょうか?」

「お前等まともな考察落とせたのか」

「u、uhhhh~……。転移さえ発動してしまえば、確実に殺せる、わ、け、だ」

「あのKキングの少女ならば、それでも耐えそうですがなあ」

「それでもある程度の時間!後衛を機能不全にする事が出来ます!」

「パーティー全体を敵陣に移す、その為の時間を作る為に、Nナイトを直接送り込んだのだろう」


 シエテ・シエラの魔法によって生まれた“海”、その所有権は転移後、雲日根に移譲され、彼女が自身の一部として使う事となった。

 魔力や能力の相性が良いのなら、そのような生成物の完全譲渡が成立する事がある。

 

 例えばカミザススムは、“爬いレプタイルズ・タイルズ”のD型が撃った魔法弾へ、原始簡易魔法陣で魔力供給を続け、それが落ちて来るまで消失を防ぎ続けた。

 例えば訅和の魔法は、余程強く拒絶反応が出る相手でない限り、敵の魔力すら自身の維持に使ってしまう、という性質を持つ。

 

 魔力や魔法は個々人で変わるが、関係性の噛み合わせ次第では、共有や制御の移行を起こせるのだ。


 よって、


 特別指導クラスの後衛を、雲日根が操る水塊が攻撃しながら、

 強襲したカミザススムとトロワに対して、シエテ・シエラが“海”で応戦する。

 

 この二つを、同時進行で行う事だって、可能とした。


 そこまで手の込んだ方法で、特別指導クラスの指揮系統と連携をズタズタにして、その先にどのような狙いがあったのか?

 その答えが、Qクイーン、辺泥・リム・旭の動きにある。


「試合が始まるや否や、自陣の旧校舎まで走り、Kキング、パラスケヴィ・エカトと、Bビショップ、和邇八尋やつひろを回収。二人を抱えて折り返す。

 かっちりとした陣形ではなく、誰が何処に居ても、味方ユニット間でのやり取りが出来る、そのレベルにまで戦場そのものを狭める。面白い方針です」


 と、大して面白くもなさそうに言うメナロ。


「最初に人数有利にした上で、相手の集合すら遅らせ、3人から4人単位で、敵一人二人を囲む、これを繰り返す、か」

「本当に、killer whaleの狩りを見ているようだよ。自分達の庭へと、乱暴なpowerで引っ張り落とす。激しいねえ?実に、僕好みだ」


 国防の将来を担う者達、その手の内を解体される事に、平気な顔をする明胤側潜行者2名。壱萬丈目は、彼らが何の焦りも見せない事が、理解出来ない。

 カミザススムには、と言うよりも特別指導クラスには、このままあっさり敗北して貰い、パラスケヴィ・エカトの底は、見えず仕舞じまいで終わる。

 それが最も無難。

 丹本にとって最高の結末。

 だから、このまま互いが順当な動きを続け、八志教室が圧倒し、塩試合で終わる気配が漂い始める事自体は、大歓迎、だったのだが、




「ニークト様は、どうして詠訵さんに合流しに行かないんスか?」




 八守の疑問。

 彼の主は先程、中央の校舎を飛び出しKキングを守りに一直線、と見せかけて、途中の植え込みに繁茂する、背の低いくさむらの中に隠れた。


「方針の転換があったんだろうよ。八志教室が徹底して多対少を作りに来るのは分かった。これまでの2戦で取った、エカトを前面に出すパフォーマンス的なやり方とは、テンションがちげえ。セオリー通りの場当たり的対応を繰り返すんじゃなく、敵の予測を出し抜かねえと、ロックされた戦況を覆せねえ、って合点が成ったんだろうな。詠訵とルカイオス、どっちの提案か知らねえが」

「ヨミっちゃん検定1級の私から言わせると、あれ思いつくのはニクっち先輩の方だねぃ。向こうのNポジさんも、目の前でヨミっちゃんが無線で指示出ししてたら、友達の皆さんにも共有するだろうし」


 ニークトが詠訵の援護に行くのは、読まれている。当たり前の動きだからだ。

 彼はそう考えて、詠訵への攻撃に加わろうと、旧校舎まで移動する最中、そこに隙が生まれるのではと網を張った。

 それに、クイーン達がどう動くのか、あの時点では判明していなかった。

 敵の動きを見た上で、彼らが位置を把握していないはぐれ狼に、何処を突かれるのが最も煩わしいか、それを精査していたのだ。

 その為に、校舎回りに眷属の狼を走らせ、見張らせる事もしていた。


「で、エカトが前線に出て来るわ、トロワがその足止めをしている間に、他4人全員で日魅在の後を追い掛けるわ、状況が二転三転したってワケだ」

「だけど、遠隔攻撃係の波瀬さんが、折角出て来てくれてるんだから……あ、ほらほら」


 そこで日魅在が、波瀬を他の3人から少し離れた所に追い出し、彼女を守る為、その二人の間に壁が作られる。

 これまで必ず誰かの庇護下だった彼女が、数秒だが、孤立してしまった。

 ニークトは、彼女が体当たりをされた辺りで、既に飛び出しており、問題無く仕留めると同時に、爪や牙を付与エンチャントした剣で壁を破壊、日魅在を救出する。

 

「流石だねぃ。お互いの意図をしっかり汲んで、即興連携で流れを完成させちゃったよ」

「あ、あれ?カミザさん、なんでニークト様と息が合ってるんスか?ニークト様は詠訵さんと一緒に居るって思ってるハズじゃ?」

「さっき上に跳んだ時だな。あれで屋上を視認して、詠訵の奴が一人で戦っていると知った。後はお得意の魔力探知で、近くにニークトが隠れてやがるのを見つけ、ゴールを信じてパスを出した」

「トロちゃん先輩係にしてたから、あんまり分かってなかったですけど、意外とあの二人、良いコンビかもしれないですね~。咄嗟に無言であそこまでのコンビネーションを出せるのは、理解度が高いと言いますかぁ」

「ええー?自分はまだ認めないッスからねー!あの人、ニークト様をヒドイ目にあわせたの、自分は忘れてないッスから!」

「それはテメエの勝手にしやがれ」


 賭けの成功とファインプレーがあり、人数は5対3に。

 しかし到頭とうとう、八志教室の生徒が一堂に集ってしまい、更に遅れて最終兵器、一種の台風も接近中。

 ここからは後半戦。

 強みを十全に発揮する敵を、明胤最強が到着する前に、倒し切らなければいけない。

 

 パラスケヴィ・エカトを含む多対多になってしまえば、勝ち目は皆無と言っていい。

 彼女一人に対し複数で、百万歩譲っても一対一が最低条件。

 

 間に合わなければ、


「壊滅、だねぃ。あっと言う間に」


 誇張を抜きで、恐ろしげに語られる、生徒会総長への戦力評価。

 八志教室のエースを叩き伏せる、その困難と相俟って、

 その場のトクシメンバー以外、観戦組の生徒達には、

 

 「勝負が決まった」と、

 消化試合の空気が漂っていた。


 だが3人は、

 それぞれ別々のヒーローを信じる彼らは、


 まだチャンスがあると、

 勝てる試合だと、

 疑っていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る