156.中間発表会です!おさらいしましょう!頭ごちゃごちゃだろうし! part1

「や、や~……。八志教室に、殺意が漲ってるねぃ~……」

「何をやられようと“奇跡”を起こさせねえ、って腹積もりだ。八志のトコらしいと言えばらしいが、にしたってアホみてえに、トクシ潰しに躍起に見える」

「えげつないッス…、心臓に悪いッス……」


 明胤学園生が観戦する為の多目的ルーム。

 トクシ留守番三人衆の会話である。


「ま、また仲が悪いお相手なんスか?」

「んーん?八志さんチとは、特に因縁はナイねぃ。あそこの先生は、漏魔症だからって、『出て行け』って言う器でもないし、裏工作にも不参加だと思うよ~」

「八志のババアは慕われてやがるから、生徒側が勝手にのぼせてんだよ。漏魔症相手の黒星なんて、ババアには似合わねえ、とか本気で思ってるに違いねえんだ、あの教室の連中は」

「流石ぁ。経験者が言うと説得力が違いますねぃ」

「言っとくが俺はそういう手合いじゃねえからな?過去も今も」

「別に何も聞いてないのにぃ?」

「あんだと?」

「あのあのあのあの!」


 そこで八守から待ったが掛かり、


「自分、最初の最初っから分かってないんスけど!六本木さんはどうしてやられちゃったんスか?何やってんのか全然分かんなかったッス!」

「んー?あーあれねぃ?分かる?ノリっち先輩?」

「俺の知識が正しいならだが——」

 



——芸術作品だ。




「静謐なペシミズムを伴う傑作。実際に触れた物や体験、一続きの伝承や御伽噺からではない。一枚絵を原風景として、そこから発展させるタイプの魔法か。余程感銘を受けたと見えるな」

「あの独裁者が愛した絵を?」

「唾棄すべき理念を発揚する芸術を?」

「クソ野郎やろーが好んでるもんまでクソだとは限んねーだろーがよ。くだんのそいつは風呂好きで禁酒に熱心だったらしーが、つまりお前らは風呂に入らず酒浸りになんのか?」

「そ、その19世紀の絵画こそが!あの能力の本質だと推察されるわけですね!?」

「左様」


 修正した軌道にキリルの大使が無事乗っかってくれた事で、壱萬丈目の胃腸は辛うじて守られた。


「周囲から水を取り寄せ、溺死させる能力、といったところか。必要最低限を、例えばあのフィールドで言えば、中央の建物の水道などから抜き出して、相手を沈めるように出現させる。もしかしたら、顔を覆うくらいのものかもしれんが」


 しかし、その発動処理中にもう一つ、魔法を挟む事で、殺傷能力を上げる事が出来る。


「『ターゲットと定めた相手、それを攻撃する意思を持つ水』ならば、優先的に、且つ通常よりも大量に取り寄せる事が出来る、という事か?」

「恐らくそれが近いでしょうなあ!シエテ・シエラ殿の、海水を、小規模な“海”を生成し、操る魔法!彼女が自身の海に、特定個人を対象とした害意を付与する事が可能なら、波瀬さんの能力が持つ“死の気配”と共鳴する事も、充分考えられますな!」

「でも祭官様?どうやってあそこにあの二人が居る、って分かったんでしょうか?」

『簡単だよクミちゃん。日魅在君の方から六本木ちゃんの所に行くのは、前の試合で分かっている。そして、地形は公平を期すために、完全なる対称形』

「そっか!波瀬さんは自分と点対称の教室に向かって魔法を撃てば、六本木さんに辿り着く!」

『正~解。そういう事』

 

 波瀬寤寐の能力は、範囲内の指定した場所にオブジェクトを生み出し、魔力供給を続けていれば、それを一度視認した人間を延々と追い続ける。

 発動中、本人が魔法の維持の為に、集中力の大部分を使うデメリットもある。しかしそこさえクリアすれば、見続けていないと死角に転移した上で猛スピードで寄って行く、という恐怖の追跡者を具現化出来る。

 敵の居場所さえ分かっているなら、ポイントを関さない即脱落攻撃へと繋がる凶悪コンボを、遠くからでも始められるのだ。


 味方からの報告で、K及びBポジションの開始地点も分かっていた。だから両者どちらかの目に入りそうな位置に、あの白い影を置く事だって出来た。

 そしてこの魔法は、連鎖する。

 近くの味方が急に溺れ始めて、そちらを見に行かない、助けようと顔を向けない者なんて、まず居ないからだ。

 溺れる者に掴まれ、救助者が心中相手になるように、一人を襲う事が視線誘導も兼ねて、次の犠牲者を生むトリガーとなる。




「え、でもおかしくないッスか?」

 



 その手順で行くなら、


「カミザさんが、呪われて“トリツツかれた”んスよね?」

「“取り憑かれた”、な?キツツキじゃねえんだ」

「それッス。それなんスけど、なんで六本木さんの方だけやられて、カミザさんは助かったんスか?」

「あいつに溺れ死んで欲しかったのか?」

「ち、ちが、そそそそそうじゃないッス!そうじゃないんスけどお!」

「強く否定し過ぎて、逆にそれっぽく見えちゃってるねぃ」

「違うって言ってるじゃないッスかあ!」


 冗談はともかく。


「六本木の魔法、あの中には三つ、耐呪・解呪系能力すら持ってやがる人形が居る。そのせいだろうな」

「ん、んん?それだとつまり、どうなるんスか?」

「つまり、ねぃ?」


 人差し指で蟀谷こめかみをグリグリ押さえだした八守に、二人で噛み砕き、順を追って解説していく。

 

「ロクちゃんの魔法で作る人形の中には、呪いへの対抗手段が、三種類あるわけなのだ~。だから、その内のどれか一つの能力を発動させたら、その間だけ波瀬さんの魔法の追跡能力が低下する、って思ってくれればいーんだよ」

「自動発動だったら、最初の攻撃にも、もう少し“見れる”対応が出来たろうがな」

「それだときっと、魔力消費効率が悪くなり過ぎるんですよぅ。あれって一度消しちゃうと、再生成までけっこー掛かるって話ですし」

「じゃあ溺れそうになってから、その人形の能力を使って、さっきみたいに一時しのぎにしたって事スか?」

「ミーアキャット……壁を張る能力だろうな。持ち主を物理的、魔法的災厄から守るとかいう、あれだ」

「ほむほむ……ほむ?でも溺れてたら、発動出来ないんじゃないッスか?通信以外の人形の能力って、『シルファ』って唱えないと出てくれない、って聞いたッス」


 声帯による起動コード。魔力の省エネ使用推進の為に、人形本来の力を引き出す場合、それを要求される作り。

 口腔・喉・気道・肺を流体に満たされた状態で、一言だって叫べるとは思えない。


「そこで、パンダの赤ちゃん人形の出番なんだよー」

「あれを持っている奴が致命傷を受けた場合、他の人形を破壊して肩代わりさせる。これだけは自動発動だ」

 

 破壊される順番は、

 いたずらっ子のタヌキ妹ちゃん→魔法使いのヤギおじいちゃん→絵描きのアルパカおばあちゃん→医者のライオンお父さん→主婦のミーアキャットお母さん→大学生のイヌお兄ちゃんの順である。

 その内、ヤギ、ライオン、ミーアキャットの能力が、魔力・呪いへの抵抗力を持つ。


「最初に溺死し掛けた時、パンダの能力が使われ、ヤギが壊れる。が、この際に一瞬だけ、『水に溺れる』事自体を人形に肩代わりさせたが故の、猶予が、解放される時間が生まれる」

「その隙に簡易詠唱しちゃって、ミーアキャットさんの能力を使って、束の間の安全地帯を作るってこと」

「その時点で、波瀬の能力は奴等を見失った。だが、シエテ・シエラの“海”は、そうはいかねえ。何せ、自分の魔法の中に、異物があるってのは分かるからな」

「水が無くなってくれないと、いつか“スイスイアツイ”ってヤツに「“水圧”、だねぃ」それッス。それに潰されて、壁が破られちゃうんスね?」

「それも、数秒後持たなかったみてえだぜ?そうでなきゃ、二人で並んで歩いて窓から脱出、ってのもあったんだがな」

「敵に操られて、自分達を潰そうとしてくる洪水。それを押しのけて、外に出るまで、壁は持たない、って判断したんだねぃ」

 

 ゆえに、日魅在にミーアキャットを持たせた上で、窓外に蹴り飛ばす、という手段を取った。六本木の手持ちには、まだライオンがあり、それが破壊されるまで、波瀬は彼女の状態を知る事が出来ない。ましてや、ミーアキャットと共に離れて行った日魅在の事なんて、完全に見失ってしまう。

 六本木のライオンが壊れ、ようやく再捕捉したと思ったら、知らない間に一人減っている事になる。


「それじゃあ、“海”を操ってる人が、教えてあげれば良かったんじゃないスか?『あ、今一人外に出たッスよー』って」

「どっちも遠隔攻撃に集中してんだぜ?」

「無線の操作だって難しいだろうねぃ。声を出して教えるしかないけど、その時の波瀬さんは3階、シエテ・シエラさんは?」

「あ、1階スタートで、そのままッスね」

「そゆこと」

 

 こうやって、日魅在進は見逃された。

 が、六本木を落とされた事で、トクシのパーティーとしての機動力は、大幅にがれる事になる。

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