155.揃い踏みの総攻撃かい!集中砲火かい! part2

 彼が前に出した左手、その袖口に当たる部分から、噴流。

 「潮吹き」だ。

 俺が構えたナイフを止め、剣で相手の武器を掬い取るように、手首の動きで外へと弾き飛ばす!

 

「だったらァ!」


 上半身に掛かった力に逆らわず左フック!を計算に入れていた敵は右手でキャッチし嚙み砕く!だろうと思っていた俺は敢えて浅く打つ事で相手に触れる寸前を通過させ、その回転を乗っけた左脚ボディキック!その巨体を横にける!


「一手勝ち!」

〈違うわネ!アータは一手、誤った!〉


 左足を支点として半回転、それをそのまま踏み台にして、開いた道を突き降りようとした俺の前に右膝蹴り!俺は当然それを右手で防ぎ、膝の間に手を掛けて更に下へ潜るように加速!

 だけど、彼の下からの攻撃を受けて、一度は速度を減じてしまった。

 その間にも金網が外から俺達二人を丸め込むように迫っている!

 ただ落ちて来るだけじゃない!まだ操作対象のままだ!


〈アータは!逃げられないのに!逃げようとしちゃったワケ!〉

『……ガウ……クイ…!……ウエ…!』


 俺はその手から、指を畳み握る拳の内から、

 

〈怖がり泣く子はオシオキで黙らされちゃうノ!〉

『ガ……ベテセ……!』

 

 抜けられない!

 俺の目の前に網が回り込み、一時いっときの牢獄が完成!

 その壁を打ち壊す前に、辺泥先輩が俺を捕まえるだろう!

 1秒の遅れが命取り!


〈アータはあたしに背を向けたのヨおおおお!〉

Qクイーン!上だ!そこが壊れる前に浮上しろ!』

「ええ、そうです先輩」

 

 金網は閉じた。

 だのに、どんどん中の空間が狭まる。

 

「俺が逃げようとすれば、そこに、その位置に来るって、そう予測出来るから」

 

 ミシミシと、その形を保てない事を訴える、静かな悲鳴を上げて、

 

「だから俺は、先輩を避けて、下を目指す事にしたんです」


 その内壁が先輩を抑え付ける!

〈ちょっと…!?〉

 そして金網が割れた!

 破けて飛んだ!

 外からの圧力で決壊した!


「だから俺は、『一手勝ち』、って言ったんです」


 それを為した物が姿を現し、辺泥先輩の拘束を継続!


〈ケーブル…!?さっき網を背にした時点で…!?〉


 俺は巻き取り機構を持つ本体ごと、網目の向こうへケーブルを逃がした。

 引き出して、先端のカラビナを網に取り付け、檻の外から巻き付け、巻き取りを作動させて、先輩が来そうな位置を締め付ける。

 体外魔力操作で、目で直接見ずとも、それくらいの事は出来る。

 下の人達からは見えただろうけど、伝達が遅れたみたいだな。


「ぅぅぅぅぅぉぉおおおおおお!!」


 俺は魔力ジェットも使って待ち構えていた下の3人の許へ自分から向かってやる!

 水球による迎撃が来るが、元々大した速度の攻撃でもない上に、空に向かって撃ってるせいで更に遅い!

 辺泥先輩はすぐに捕縛を脱しただろうが、それでも俺が地面に着く方が速い!

 そして新たな水路を作る時間は無い!

 そこで止まるか、後退するか!

 そしてそんなデッカい水の塊を動かすならば!


「魔力の動きだって分かり易くなってんだよおおおお!そっちかあああ!」

 

 俺を止めようと水の膜を張っているが、しかしそれすら悪手!

 数十mクラスの落下では、水面であっても衝突のエネルギーを逃がし切れず、危険だったりするらしい。

 が、この程度の高さなら、むしろクッションと言える!

 着地の衝撃を計算して速度を減じる意味が無くなった!


SHOOOOOOT貰ったアアアアア!」


 何やら潮流によって俺を押し返そうとしていたが今更な微力!

 中の瓦礫や複製で作った脆い盾もぶち抜いてのドロップキックを炸裂させてから地面を抉りながらの前転で波瀬さんの方へ!


「え…」

「どうも」


 口から下だけでも絶望の表情が伝わって来るが、そういう競技だし、ここはご納得頂こう。

 

「いたい…、いたいって……!」


 他の二人から離れた方向へタックルで押し飛ばす!


〈やめなさいな!〉


 サッカードリブルの要領でこのまま蹴り転がしながら旧校舎へ行く事すら考えていた俺と彼女の間に壁が、波が発生!もう射程圏内まで降りて来たのかあの人!?


〈アニー!サトちゃんを回収!やっくんはその子を押さえて!〉

「本当に気まずぅい!!」


 椅子か机の部品だったらしい螺子が徐々に大きさを増しながら飛んで来る!

 余裕で避けながら今それを飛ばして来た男子生徒へと吶喊!

 

「ウワッ!こっち来んな!気まずいんだよ!」


 螺子弾を連打しながら地面に他のパーツを撒いて、それらが爪を持ったリス?ハムスター?に見える兵隊へと変化し俺を止めようと身を挺する!

 だけど動きがぎこちないから大した減速にはならず、「やっくん~!」横からシエラ先輩の激流!今度それに捕まったら出られそうにないので流石にバックステップ!

「あだ名やめてくださいよ!気まずいって!でもナイス!」

 男子生徒——たぶん和邇って人が色々言う間に周り込もうとした俺を、尺取虫みたいに波打つ事で速度を増した水塊が喰らいに行く!


「はっや!?きっも!?」

「あらら?ひどいわよん!」

「ごめんなさい!今の発言はアウトでした!」


 動き方があまりにもあんまりでした。

 人の魔法を「キモい」呼ばわりは良くなかったね。


 「え?お、お構いなく~」、とシエラ先輩が言ったので、遠慮なくフェイントを挟んで彼女の魔法を誘導、「ああ!やっくん逃げてよ~ん!」釣られてメインストリームの方向が大きく外れてしまったそいつの横を駆け抜けて改めて和邇さんに〈時・間・切・れ♡〉水中から躍り出る辺泥先輩!


〈肝を冷やしちゃった。お腹冷やすのは良くないのにネ?でもこれで〉「きゃ………!」〈今度は何!?〉


「ご、ごめんなさ~い!辺泥先輩!」


 流石は八志教室のエース。

 疑問に答えようとしたのがシエラ先輩だった、というだけで、何が起こったのかを大体察知。波をより分厚くしようとしたが、


「おい!寝坊助遅刻チビ!」

 

 波瀬さんが逃げた方向にあった壁がガリガリ削られるような音の後に斬り落とされ、


「とっとと来い!」


 ニークト先輩の喚声かんせいと眷属3匹が飛び込んで来た!

 俺は狼達と擦れ違って、呼ばれた通りに開いた活路へジャンプイン!

 波がまた高くなり壁を補う、のは一歩遅かった!

 脱出成功!強力な切断能力持ちの先輩方に何度も助けて貰ってます!

 それでももうちょっと早く来れませんでしたか!?見当を外したかと思いましたよ!


「先輩!波瀬さんは、Pポーンは!?」

「オレサマを誰だと思っている!」

 

 その腕の中で「きゅう…!」と締め落とされている女子生徒。


「今脱落したぞ!」

「かわいそうに…」

「思いっきりぶっ飛ばしてたお前が言うのか?」

 

 そうと分かればノータイムでミヨちゃんへとダッシュ!

 彼女を襲ってるのは一人だけになった。 

 彼女がミヨちゃんに遠隔攻撃をしていた使い手だと言うのは、ほとんど間違いない。

 今なら旧校舎で、2対1が作れる!


「先輩もすぐ逃げて下さい!」

「だからオレサマを誰だと——!」


 先輩の小言——でも大声——を流しながら旧校舎外壁を登ろうとして、

 屋上から放水!だけど俺やニークト先輩を狙った物でなく、より遠くに向けて!

 水族館の展示用くだ型水槽めいたそれは、シエラ先輩が伸ばした水流と途中で合体し、


「しまった!そういう事も出来るのかっ!!」


 辺泥先輩専用通路だ!

 他二人を背に乗せた彼がその中を急速に遡上している!


「これじゃあニークト先輩が来るまで2対4だ!」


 この人達、

 一人二人の脱落程度で止まらない!


 ガッチガチのローテーションを組んで来てる!


 生徒会総長を使えるっていうアドバンテージあるんだから!

 もうちょっと手心あっていいじゃんか!

 何ちょっと軍隊でも通用しそうなプラン用意してんだ!

 命でも懸けてんのか!?

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