155.揃い踏みの総攻撃かい!集中砲火かい! part1

 俺は一人で、向こうはパーティーの半分以上。

 だから、追って来るにしろ、一人か二人だと思っていたのだが、


「なんだあれ!?」

 

 なんか色んな魔力でガチャガチャやっている気配がして、振り返って目玉が飛び出すくらい驚いてしまった。

 地面が二列にり上がって溝を作り、それを繋げて水路が作られた。

 そこを行く、何かの破片を大量に含む流水の中を、その背に3人を乗せた黒い巨体が泳ぎ下っている!


「全員来てるなあコレぇ!」


 そうは言っても旧校舎までは数十mで着く。

 しかもこれまでで一番平らで、見晴らしが良い道のり。

 猛追するあの4人は俺との差を縮めつつあるが、ゼロになる前にミヨちゃんと合流出来る!

 あそこにはニークト先輩も居る筈だから、人数比が1対4から3対5になる!

 しかも敵は纏めて俺にくっ付いて来た物だから、遠隔攻撃要員の波瀬さんも一緒の筈。

 彼女が前衛ほど動けない事は、さっきの一連の交錯で確認済み。それを守りながらでは、彼らも思うように動けない。

 エカトさんが来る前に何人か脱落させて、五分に近い状態を整えた上で迎え撃てば、まだチャンスはある!


「でもそうはいかないよなあ!」


 10m程前方に曲射で降って来る水球すいきゅう!中には金属やガラス!

 こんな自信満々に外すって事は、俺に当てようとしたんじゃあない!

 最初からそこに着弾させようという算用がある!

 

「跳ぶか!?それとも誘い!?このまま真っ直ぐ!?どっちだ!?」

 

 すな飛沫しぶきが晴れると「跳ぶか!!」光沢のないステンレスのような質感のゴミの集合体が徐々に大きくなりバリケードへと変貌して行く!


 俺は次の一歩で

   

       大きく斜め上へ!

 

 更に一歩で、

 

           より高みへ!


             二段階の放物線を描く事で

                  

                    大跳躍を敢行!

 

                       頂点付近、

                       視力強化で、

                           俺は

                           見た。

 



 存在感が希薄な、透けたパーツ。

 道を塞ぐそれらは、全てが同じ形。

 複製してコピペして、それで雑に何かの形を作っている。

 上空の俺を狙って身を伸ばして来たそいつの姿は言ってしまえば、


「ワニ!?」


 小さな子どもがブロック遊びで、適当にシルエットだけ寄せようとした、その努力だけは見える作品。

 それと同程度のクオリティだが、獲物を口で受け止める直前の、扁平な頭を持つ爬虫類だと、辛うじて推測出来た。

 

 で、「獲物」って言うのは、


「まぁあずぅぅぅううい!!」


 前から時間差で複数体!振り下ろすように顎を閉じようとしてきたので逆噴射しながらの横跳びによって回避!

 腹を打ったワニは歪さが整合性の限界を超えたかバラバラに散って消える!

 何かの複製を大量に生み、それを部品として武器などの構造物を作り、使い捨てる!

 そういう能力!


「分かんなくなって来た!誰がどれだよ!?」


 既知の能力は3人だったけど、「“深化”で変わった、追加したんです」、って言っても通用するレベルの現象ばかり起こるせいで、どこからが未知の能力によるものなのか、それすら茫洋としてやがる。ほとんど全員が水、海に関係してるっぽいし。

 八志教室は、高等部主任が受け持つとあって、人気が高い。

 だからこうやって、一つの「テーマ」に沿って出場生徒を決める、という事が出来る。教師と生徒、双方の高い実力に、自由度まで上乗せされれば、そりゃあ強い。強過ぎる。


 俺は減速し、あまつさえ後ろ方向に跳んだ。

 って事は、


「来る!」

 と言うか来てる!

 水球が複数発!

 俺を囲むそれらの中にはやはり端切れや欠片が詰まっている!

 コピー&ペースト!

 コピー&ペースト!

 コピペ!

 コピペ!

 コピペ!

 ペペペペペペペペペペペペペペペ!!


 一つは網となり

 一つはやいばとなり

 一つはロープとなり

 一つはおもりとなり

 

 俺の行動範囲を決め

 上から降って斬りつけ

 身体を巻き捕らえ

 重みで止め


 ようとした!


 俺は網目の間を魔力で押し広げながら潜り傾斜を作って刃を逸らして錘とそれを括りつけた綱は大きく回避!


 が、安心はない!

 上からはまだまだジャンクで組まれた武器の数々が重力加速度を身に着けて降り掛かる!


「うおおおおぉぉぉ!!?」


 避ける避ける避ける避け続ける!

 

「まだ!?まだ!?これいつまで!?」


 魔法で作った物質は消える。

 特にこのコピペ攻撃の場合、構築が終わった一瞬間後には形を保てなくなる!

 だけど、基点となっている破片類は、ダンジョンの構造物と同じく安定して、消えるまでに時間が掛かる。

 奴等は落ちたそれらを拾い集めて、もう一度打ち上げる事が出来るのだ!

 持続可能なエネルギー社会って素晴らしいね!クソが!


 敵の一団、その気配が真下に位置を取った!

 途中でコピー部分は消えるし、あの水がクッションになるから、彼ら自身はダメージを受けないのだろうなー!なんかスッゴいストレスフルなやり口だ!

 ダンジョンが破損部分を修復しながら、失った欠片達を取り込む、それまで耐えれば良いのか………いいや、


「そんなに悠長じゃないよな!」


 この魔力の感じ、さっきのワニ型と似ている!

 下からも攻撃して挟み撃ち、というだけだったらまだセーフだが、

 だけど、


「螺旋の形!登りやすいように!じゃあやっぱりそうなるのかよ!」


 俺は上に向いていた身体の前面を反転!

 襲い来るコピペ豪雨は魔力探知のみで避け、地上の連中の行動に備える!

 

 辺泥先輩が一人、水路から外れた地面に降りて、


 直上跳躍!

 地面を波打たせその最大振幅を自身の足下に持ってくる事で高々ジャンプ!

 数本立った螺旋塔を蹴り渡りながら俺と同高度まで数秒で到達!


〈アラ?アータ、あたしが来る事、分かってたのネ?察しの良い男はモテるわヨ?〉


 その見た目は、大きく変化していた。

 デカいのは変わらず、黒く滑らかな外皮と白い腹、背ビレや横長尾ヒレ、鋭い歯と大きな顎。顔の横に移った目の上に、白墨はくぼくで入れられたような一筋。前に盛り上がった額には、縦にスリットのような物が開いている。


「それが“シャチ魔法”ですか!?」

〈コラ、アータ、“海の神”と言いなさいな?〉


 水棲哺乳類であり、海のギャング。

 群れで狩りをし、時には集団行動で起きる波すら利用する、知能派ハンター。

 “冥界魔種オルキヌス・オルカ”ことシャチは、丹本の最北、北加伊ほっかいどう

 全都道府県最大面積のその地で、ある民族に信仰されている。

 その教えを原形として、シャチの生態を魔法に転化したのだろう、ってニークト先輩が言ってました。


 背中をとおろうとする大釘を避ける為のジェット噴射で前進して右ストレート!をガードした左手を上昇しながらの右膝で突き上げる動きで俺は背面側に回転、続く左足で蹴り上げる!


〈ウオッ!やるじゃなあい!?〉


 が、相手は背中から水に飛び込むような動きでそれを避けながらくるりと俺の足の下へ潜り、背後に回りながらの突進!

 左に回避!彼の側面を右手で何度か打つけれども左腕に防がれる!

 

 固い地面を蹴った時と比べて、拳に腰が乗っていない。

 それに相手が纏う分厚い角質層。

 頭は脂肪が多く詰まっている為、衝撃吸収能力がより高い。

 機動性の元となっている、あの色んな所から出るジェットみたいなのは、鯨やイルカがやるのと同じ、“潮吹き”を利用している。

 

 水辺どころか、空中ですら俺が不利だ。

 なんで俺は空を飛びながら水棲生物に襲われてるんだ?

 サメじゃねえんだわ。大人しく水から出ないでいて欲しい。


〈フゥン!〉


 右拳!

 俺は腕で受けようとして、直前で違和感に押されて回避へと方針転換!

「いっ…!」

 左の肩口が雨の一つに打たれた!

 そして更に、前に出していた左腕の表面も破けている!

 パンチを打っていると思われた彼の手が、俺に触れる直前に開かれ、その掌や指の内側に、びっしりと牙が並んでいた。それをまた握る事で、“咬まれた”んだ。

 ポイントが100点は減ってるから、抉られた判定なのだろう。


〈アータ、本当に察せる男ネ〉

「ありがとうございますね!!」


 高度を低める事で右脚での回し蹴りをすかしながらまた泳ぐように視界から外れる敵を動態魔力探知で追う!

 またも下からだ!

 しかもこれは「尾ビレか!」回転することでその部位で俺の下半身を打ちに来た!

 上に退くしかない!だけど今そっちからは——

「このぉ!」

 体外魔力で金網の落下を遅らせながら何とか開けた抜け道に色々と捩じ込もうとして、

〈そこに来るわよネ?〉

 その狭い範囲に留まらざるを得ない俺を突き上げる辺泥先輩!

 俺はナイフを抜いて魔力回転刃を展開!

 体内魔力侵入による追加ポイントもある。これで刺し殺すか、そのリスクを醸す事で一度後退させるしかない!

 

cutttttカーッ!」

〈いいえ、アータは切れないワ〉

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