139.問題の相手 part2

 試合開始直後、既に六本木は完全詠唱によって、“それ”の作成を済ませている。

 彼女が取り出したのは、ミーアキャットのお母さんと、ヤギのおじいちゃん。

 

「“愛卓シルファ”!」


 ベージュの魔法障壁が展開!

 盾のようにそれを振って、寄せては返す火の波を打ち払う!

 

「オマエラ二人とも、俺っちとビミョーに色が被ってるんすよ…!」

「は?知らんし」

「俺っちまで雑魚の同類だと思われるだろうが!この低脳ぉおおおお!」

「『ザコ』とか、『てーのー』とか、言い過ぎ。覚えたての、言葉、使いたいん?まだ、初等部?」

「あー!今かんっっっぜんにキレたわー!もー知らねー!オマエラ纏めて仲良く処刑だわ!処刑処刑!」

「言ってる事、全部、お子ちゃま、じゃん!」


 狩狼は六本木が前を張っている間に、

 身体のあちこちに装着していた、格闘戦用のプロテクターらしきものを取り外し、ステッキ状へと組み上げる。

 規定によって、魔力増幅は禁止されているが、単なる伝導体なら別だ。

 これは精度を増す為の、路線のような物であり、威力を補助はしないので、セーフ扱いとなった。

 因みにやり過ぎると、魔法を狭い範囲に集中させる、つまり高密度に凝縮させていると判断され、威力上昇系魔具扱いとなる。

 狙撃係の魔具レギュレーションは、面倒くさいのだ。


「“目出度し目出度しロートケプヒェン”…!」


 完成した得物に、「Chu♡」とキスをして、右手で持ち手を、左手で半ばを支え、下端を朱雀大路に向ける。

 杖の上に、ピンクの小さな丸・三角・四角形が浮く。


「この距離ならー…!」


 上部の溝に装填される、四角形。

 

「“ブーちん”ー…!よろたんー…!」


 発射!

 

「遅え!」


 朱雀大路は自身の前に火を付けながらけ隠れる!


「直接見えちまえばこっちのモン!どんな幻覚を出せばいーのか、それが分かるんだからよおおお!」


 誰が何処に居るのか分からず、無作為に見せる物を決めていた、今までとは違う!

 今!ここに!六本木と狩狼用の幻影を!作り出す!


「オマエラあ!俺ッチの目に映った時点で!終わりなんだよおおおお!!目ん玉おっぴろげてええええええ!!」



「んで?あーしらの作戦の穴を、どう思ってたん?」



 一人と二人との間にある火が、消えてしまう。

 六本木の盾は、虚像をものともしていない。


「ぁ、ぁぁん?」

「あんたがこーゆー能力に耐性がある、ってのは想像が付くじゃん?って事は、折角バラしても、一番フルボッコにしたいあんたが、すぐに再集合リグルすんじゃん?」


 「んで?」、六本木の質問を、朱雀大路は分かっていない。


「いや、『んで』って、なにが……」

「あーしらが、『あーそっかー、なら仕方ねーべ』、つって、なーんも考えずここまで来たって、そう思ってるん?」

「え?あ、ブフゥ、え?」


「低脳はどっちだって聞いてんだけど?ヘラヘラしてんなよ?雑魚」


 朱雀大路の首に、四角形で構成された犬の頭が食いついた!


「うぎゃあああああ!?」

ちょくで見ればー…!こっちのモンー…!」

「こ、こいつうう!あの、誘導弾かああああ!!」


 狩狼という一族は、ディーパーの世界では中堅程度。故にその名から、能力の詳細を特定する、事情通も存在する。

 人気の枢衍教室には、その情報を持つ者が居た。

 その上で、「相手に見られる事そのものが、彼の攻撃となる」、朱雀大路なら相性抜群。

 彼が狩狼にやられる事はない、そう判断されたのだ。

 詠訵三四が封じられた今、解毒・解呪系統の能力者は、訅和交里くらいだと思われた。彼女一人では、パーティー全てをカバーするなど、出来ないだろうと。


 だがしかし!


「お前えええ!解呪も出来るとか、能力が便利過ぎんだろおおおお!?」


 皮膚から噴き出した炎が四角い猟犬を焼く!


「ずっりいいい!ずっっっっりいいいい!キッメエエエエエ!!」


 やっと理解した。

 彼ら二人組は、朱雀大路を探し、倒す為の本命。

 眩惑の炎の中でも、自由に動ける探索者。

 

「キショいのはあんたの魔法だしぃー」

「“グレっち”ー…!」

「やぁぁめぇぇろオオオオオ!」

 

 上から床に押さえつけながら咬む四角が燃やし尽くされる前に、

 三角形が杖に装填され、

 マスケット銃のようにそれを構えた狩狼が、


「どけよクソ犬ぅうううう!!」


 朱雀大路目掛けて発射!


 ピンク色の鋭角が彼を〈おっと〉


 山吹色が、

 ピンクと咬み合い、

 火花を散らして削り合い、

 三角形が押し負けた。


「なん…!」


 チェックメイトと思われた手が撥ね退けられ、動揺する六本木と狩狼の前で、

 象のように大きく、馬体に竜面の一角獣が、朱雀大路を四つ足で囲み、立つ。


〈うん、間一髪〉

「隊長ぉぉぉ~!」

〈よくやった朱雀大路。お前が撃たれてくれたお蔭で、わえが“黄燐獲麟仁倫騏驎クウィ・ホァン・リン”は、能力を完成させる〉


 棗五黄の、完全詠唱。

 その真価は、仲間が危機に瀕している時こそ、発揮される。

 

〈これから一人ずつ、お前等を潰していくぞ?“特別指導クラス”パーティー〉

「う、うおおお!治るっす!治っていくっす!全身全快!エンジン全開っす!」


 推定Kキングの彼女の能力は、

 己が友への瞬間移動、治療と強化、

 そして、その者を傷つけた“敵”に対してのみ、“殺生禁断”が解除され、

 非生物でなくとも、最高火力攻撃対象とする事が出来る!

 

「ろくぴ…!全力で防御——」

〈さらば〉


 一撫で。

 その刃渡りが数十mに伸び、先端も切れ味も鋭くなったその角が、重さを感じさせない程速く、一面をった。


 能力と魔力で、より強く輝き展開されたベージュの盾は、

 背後の雑居ビルと共に、バターのように断たれてしまった。


〈まず二人〉


 形勢は、

 一方的な殲滅戦へと移ろうとしていた。

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