139.問題の相手 part1

 狩狼六実は自分の事を、結構幸せな奴だと思っているが、

 その理由の大半は、優しい両親が占めている。

 

 六実がまだ幼い頃、彼らは寝床の中で、御伽噺を聞かせてくれた。

 特に彼らが好んだのが、一族が「こう在れ」と模範にして来た、“守護者”であり“救出者”が出て来るお話。


 その男は、犬と猟銃で、狼の腹から二人を助けた。

 六実にとっても、彼はヒーローだった。

 “カワイイもの”を守ってくれる、理想の“力”。

 何度も何度も、同じ結末を聞き、そのたんびに喜んだ。


 成長してからも、その物語が大好きだった六実は、

 ある時何を思い立ったのか、

 学校の課題とか、だったろうか?

 その物語を描いた絵本や児童書の、様々な版を、図書館で集めて比べっこをしていた。

 

 そして彼が、

 狩人が後から足された物だと知った。

 

 原典では、狼が二人を平らげて終わり。

 あっさりと幕が閉じてしまう。


 きっと、時代が変わったのだ。

 人が死んでも、当たり前の世界から、

 一つ一つの死に、重さを感じる社会へと。


 「人は殺されてはいけない」、六実にとって当たり前だった、そんな事すら、

 人間にとっては後付けで、

 若しかしたら、また捨てられるのかもしれない。



 一族が“狩人”を、

 “死”と言う“自然”と、人間の暮らしとの間に立つ、その門番を、

 「模範」と教えて来たその意味を、理解したのがその時だった。



 六実の両親は理解があるから、「正しい在り方」を思っていても、

 進路について、家業の継承について、六実のファッショについて、強制はしてこなかった。

 明胤学園はステータスとして踏み台にし、ディーパー以外の、もっと死から遠ざかれる道を選んでも、それを責めるような人達じゃない。


 けれど、六実は、


 自分の憧れを理由に、


 “「カワイイもの」の守護者”を選んだ。


 だから、


「アンタラは、お決まりのように、二人でイチャイチャっすかあ」


 だから狩狼六実は、“推し”から離れる気は毛頭無かった。


 前後不覚な中では、早期に敵と会う為に、出来るだけ探査の手を分けた方が良い。

 それぞれがスタンドプレーをして、それでも1対1なら充分勝てる、それだけの実力者が揃っている。

 そう言われても、手を繋いで断固拒否した。

 彼女を一人で戦わせるなんて、とんでもない!

 六本木という女の子は、繊細なのだ。

 それを分かってない奴が、多過ぎる。

 本人はどちらでも良さげだったが、

 乗研とトロワが分割派、

 訅和、ニークト、八守が二人セット派となり、

 多数決で、護衛を付ける事が決定した。


 狩狼は今、その時加勢してくれた3人に、心から「ありがとう」と言いたかった。

 その能力の特性上、

 六本木はコイツと、当たらざるを得ないのだから。


「火は金を熱し溶かす……!相性は良いんす。慣れちまえば、あのノリクソなんとか言うセンパイの、きったない魔法が混ざった光なんて、見分ける事が出来るっすよ」


 2対1であると言うのに、勝ち誇っている。

 それはきっと、狩狼と六本木が後衛であり、乱戦では戦力として不安な為に、群れていると思っているから。

 

「うっさくね?自己満な早口、つーか」


 直接戦闘なら、この3人で最弱の六本木は、そんな事をおくびにも出さず、得意顔の朱雀大路を相手にしない。

 それはある意味、狩狼の勝利への信頼とも言え、場違いに嬉しく思ってしまう。


「味方の後ろでウロウロするしか芸の無い女は、言う事も違うっすねえ?」

「なんか燃えてる横でボソボソ喋ってても聞こえないんだけど!“ヤンチャしてるボク”に酔ってる系?髪染めても陰キャは陰キャって?ウケる~!」


 そうそう、この芯の強さ。

 単純に格好良くもあるし、カワヨい一面をも引き立てる。

 そんな彼女に、


「いいね……!」

「ムー子、また何か変な事考えてね?」

「……あー……なーんか、イラッ、と来るっすねえ………」


 二人だけの世界を作って、見せつけてやれば、効果は覿面のようで、


「あーあ!あのなんかマヌケなビョーニンセンパイも、オマエラも、身の程も知らず、デカい顔すんの、マージでムカつくんすよねえ!」


 何事か、勝手に語り始めた。


「弱っちいのに、俺っちと仲良くしようって、エ・ラ・ソー!にさあ!ちょろおっと尻尾振ってやったら、簡単に侵入できたっすよ!チョッロ!マジチョッロぉおぉおぉホホホホホーゥ!」


 手を叩いて爆笑する朱雀大路に、


「んで?長いし何言ってんのかワカラン。自己完結型だか何だか知らんけど、一言でよろ」


 飽くまで突き放す六本木。

 言われた彼は、咽るようにして笑い止め、


「あんな雑魚をエースにしてる時点で、オマエラオワってる、つってんすよぉおお。分かんない?分っかんないかあー!ギャルってのは、頭悪い見た目通り、低脳なんすねーッ!」


 と、どう見てもブーメランな発言をした後に、ピアスを開けた舌を出しながら、両の中指を天に突き立て、


「“熒惑ズキュー”ゥゥゥゥゥン」


 簡易詠唱!

 周囲のサーモンピンクが二人に引火しようと、一部だけその勢いを増す!


「なんかー…、色はカワヨなのがー…、腹立つー…!」

「ムー子、行ける?」

「秒数稼ぎー…オネシャー…」

「りょ」

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