138.一発カマしてやろうぜ! part2
「……向かって、来るのか………!この状況での、僕の脅威度を判定できるくらい、知恵は回るという事か…?それとも、考え無しな、だけか……?」
下半身の
獲物を待ち伏せる虎のように、万は乗研を吟味する。
身体能力強化は、どの程度の物が使えるか?
フェイントを挟み込むとして、それが決まったとしても逃げ切れない距離とは、不可避の致死線とは、どの辺りに引かれているか?
彼を是が非でも潰したい乗研は、しかしこの状態の万には、遠隔攻撃である黄金の幻影の効果が無い為、いずれかのタイミングでそれを踏み越えて、近付くより他に術が無い。
それを、分かっている。
彼が動くのは、一回だけ。
乗研を仕留める時。
その
それをよくよく、諒解している。
「僕の魔法は、映像で見たか…?煌びやかなだけでない、土中から
乗研が出来るのは、カウンター。
後手に回らざるを得ない以上、それで先手を潰し、逆に自身の勝負手へと変えるべし。
ミスを誘うか。
相手が想像できない方法で、上から殴りつけるか。
「僕は、それだ…!土地から生じた、本当の強固さが、この能力の、本、質ぅぅぅぅゴォルルルルル………」
大きく吸って、魔力を体内に巡らせながら、
親指を立てた右拳を、左手で握り込み、
右の親指を上に重ねて、
「“
白黒の魔力が、その全身から伸びる。
髪は豊かな長髪へ、それが蓑のように全身を覆っていく。
首回りにはファーショールめいて纏わり、
アーマーの上に
鉄の黒さと、
光の白さ。
金属光沢の乱反射が作る、二色のライン。
その魔法を装着する彼に、
乗研は無造作に、
考える事など
無いとでも言うように、
近付いて行く。
変化が止まった。
乗研は歩みを止めない。
万は、
その時点で、獲れていた。
〈ガアアアッッ!〉
半分ほど人ならざるものへと変化した万は乗研へを狙い撃つように飛び掛かる!
乗研はそれでも止まらず、どころか加速もしない!
構わず白黒の衣が喰らい付くように閉じ掴む!
〈お前の!能力の効きが悪かったのは!朱雀大路より、僕が強い、だけでなく!〉
乗研の前に黄金が新たに生み出され万の攻撃で折れ曲がる!
まんまと金色に飛びついた獣を、乗研本体は自身の魔法ごと殴り抜く——
〈ああ!なんて!なんて腹立たしい!〉
違う!
彼の物である筈の黄金が大顎に変化して咬みついて来た!
〈似ているからだ!お前の“黄金”と!僕の“
乗研は土色で節くれ立った、猛禽、或いは爬虫類の指とでも言うべき表皮に補強された腕部でどうにか咀嚼される前に止めたが、動けない!
そして!
「テメエが、支配権を……!」
〈そうだ!僕は地の中の輝き!原石が宿す光!その醜い姿を隠す為の、お前の偽物の金では、勝てる道理が無い!〉
黄金が、黒く染まり、白い煌めきが波打ち、ストライプ柄のように変化する!
見せかけを、本物が呑み込んだ!
その表面には無数の
ふわりと風に舞いながら、硬く鋭いその牙共に、
包み込まれ、引かれてしまえば、
全身ズタズタの失血死体となる!
〈この強さを崩すには!それを融解させる程の強き火が要る!お前にそれほどの、熱き魂があるかああああああ!?〉
泥中に宝を見出だす魔法。
地虫を宝で隠す魔法。
相似であり、相克。
その二つが相
押し合った時、
勝るのは実の力を持つ方!
〈お前は“本物”に敗けるんだ!この、見掛け倒しの野獣があああああ!!〉
頭にも首にも胴にも手足にも、
そしてそれらを通る主要な動脈を狙い澄まして、
一本一本が、別々の医師の手中にある注射針のように、意図から外れず到達する!
歯が入ったなら、
咬み切るか、
引き削る、挽き荒らすのみ!
〈
?
万は、そうなっても悠長な乗研を理解出来ず、固まってしまう。
「そこは俺とテメエの、共通認識だ」
誰もが疑わない、真実。
“真相”とは、いつだって、
魅力的な輝きを、発するもの。
「だから俺は、テメエの勝利を早めた。テメエは間違いなく、本物の黄金を掴めるだけの男だったから、だから目の前に現れた、今掴んだそれも、真の
彼が乗研を捕らえる為に使っていた、魔法生成物。
鉄色に塗り替えられたそれの中心が、融点にでも達したように、熱く変色していく。
否、これは、見えるようになっただけ。
それは元々、乗研の魔法によって、その色に輝いていた物体であり——
〈
隅から隅まで完全に奪い取る、それが完了する直前で、“済んだ”と思わされた!見せかけられた!
彼はそれを願い、出来ると確信したが故に、
終点をほんの一歩前にズラされても、気付く事が出来なかった!
〈しまっ——〉
「フラッシュ注意だ」
黄金に、目が眩んだ。
防御しようと手を離し鉄の毛皮を引き寄せる、その動きの前に乗研の金色が伸び生えて胸に突き刺さった!
同時に金はその内部でも思う存分暴れ、乗研に刺さっていた針を安全に抜きながら万に体当たりを仕掛ける!
〈ウゴォオオオ!!〉
「“
より深く刺し入れられ、更に口蓋から獲物が逃がれた!
肉体的にも精神的にも、乗研竜二の手で
「よう?さっきまでのお前なら、俺に勝てただろうな?」
で、
「今はどうだ?『誇り高き』優等生クン?」
〈ガ、ガググ……!〉
理屈、そして納得だ。
魔法に必要なのは、「こうなったらそうなる」、という確信であり、
物語と理論は、その為の道具、型である。
敗北感を植え付けられた相手に、
これまで通りの魔法効果を、発揮できるのか?
それを疑った時点で——
「優勢7割、って所か」
天秤の傾きが、逆側へ。
枢衍教室パーティー、
そこで脱落、
かと思われた。
「!……何ィ!?」
万の四肢を巡り、傷を塞ぐ、彼とは別の魔力の色。
馬の
獅子の吼え声のようにも聞こえる、
その
「こ、これは……!」
〈た、隊長……!〉
〈うん、間に合ったようだ〉
馬体と竜面、山吹色の
言うまでもなく、魔法によって作られた、そのビジョンが、
万の背後に、
護るように、
支えるように、
四つ脚で立っていた。
「棗…五黄ぃ……!」
〈先程、朱雀大路の安全確保も済ませた。彼と交戦中だった敵を倒し、パスを繋いで、それで今は、残党狩りに出張中だ〉
わざわざ乗研にも聞こえるように、
その戦意を削いで、魔法の弱体化を狙うように、
教えてやる。
〈そこの彼が
それが一番、
早くて確実。
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