123.マジで言ってる? part2

 ニークト先輩が、相手のメンバー6人のうち、4人の能力を把握していた。

 模擬戦に積極的でなく、中等部所属のPポジ、高等部上がりたてのRポジだけは不透明だったけど、それ以外への対策が可能だった。

 対戦相手のロール編成が明かされてから、会場設営が終わるまでの30分。それは作戦会議の為に、利用可能な時間とされる。

 相手がくだろう陣形を数パターンに絞り、それぞれへの対策を考える。

 その中で、「この人にはこの人をぶつるのが理想的だよね」、という話をしていた時に、問題になったのが、Qポジションの、三都葉先輩だった。

 

 丹本政財界の御三家、その一角の三都葉家。

 この学園への巨額の資金提供でも知られ、自家からも有力ディーパーを生み出そうと、力を入れているという。

 他の御三家が、元を辿れば武家であるのに対して、完全なる商人の家系。

 “爵位持ち”とか、公家とか、有力な武家とかが保有する、「一族伝来の物語」が無い。それを得る為に、金の力を利用して、とある高貴な血筋を、乗っ取ったりもしている。


 何代にも及んだ努力が実を結んだのか、最近では一族出身者が、グランドマスターに昇格する事も珍しくなくなり、チャンピオン誕生の野望に着々と近付いていた。


 その一族の一人と言う事は、当然それなり以上の強さを持っており、誰がこの人担当になるか、それが悩みどころとなった。

 軽度の呪いまで解除できるミヨちゃんも、能力的に相性が悪く、実際にぶつけてみないと、どっちが勝つかが分からない。


 と、言う話をしている時に、俺がさっきの、魔力の配置によって、魔法の動きを誘導する、というアイディアを思いついた。

 トロワ先輩は、あまり魅力を感じていないご様子だったが、ニークト先輩は少し考えて、なんと、俺一人で引き付ける、なんてことを要求してきた。

 彼特有の勢いに呑まれ、仕方なくQポジション陽動担当となった俺だったが、正直不安でたまらない。そんな俺に、六本木さんが、一つの策をくれた。


 彼女の魔法で作られた、イヌの人形。

 それは、解呪まではできないものの、傷の修復くらいだったらやってくれる。

 それを相手に見せて、「倒し切りたいなら、威力を高くしないとダメですよ?」、と挑発すれば、攻撃の命中精度より、威力を重視するよう誘える。

 面白い事を思いつく人だと、尊敬してしまった。

 マジで助かる。

 これでなんとかなるだろう。

 

 そう思って、いざ挑んだ俺、だったのだが、

 

——え?

——いや、

——マジで?


——これ、本当に——




——本当に、




 編入試験の、魔力操作阻害黒煙。

 イリーガルの、加速禁止窟法ローカル


 呼吸の一つにも気を使わなければいけないくらい、密集して、飽和して、理不尽な、その場のルールにさえなる力。

 

 それを想定し、己を奮い立たせていた俺を、取り囲んだのは、



 魔力で作った道に、簡単に付いて行ってしまう、残念な魔法弾の皆さんだった。

 


 彼の態度を見ると、相手が弱くても、手を抜くタイプじゃない。

 って事は位置どころか、俺がさっきの攻撃を、全然喰らってない事にすら、気付けてない。


 半自動運転の弊害が、てんこ盛りだった。


 俺は相手に捕捉されてないのを良い事に、まず一発殴って牛頭の体内に自分の無色魔力を忍ばせ、更に一応六本木さんの策も使って確度を上げて、良きところで遠隔魔力操作を行った。

 みっちり詰まっていながら、一粒一粒が大きくなっていた魔法弾達は、俺の魔力を追いかける過程で、ガタガタの歯抜け状態になる。

 

 そうなったら後は、さっきみたいに驚かして、相手に魔法の手綱を握らせてから、揺さぶって大きい穴を生み、


 はい一丁上がり、万事解決、というわけだった。


 魔力噴射の自傷ダメージも、イヌ人形が治してくれて、数値は1000から減ってない。

 

 まあ、完勝、と言って良かったんだけど、


(カンナ、今の、楽しめた?)


 簡単過ぎて下らない、とか言ったり?


(((いいえ?実に、愉しかったですよ?)))

(そうなの?良かった…)

(((大した事のい敵に、怯えおののく、ススムくんを見るのは)))


 あ、そっち?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る