123.マジで言ってる? part1
「猿め、軽過ぎて、どこぞに吹き飛んだか?」
毒づく彼は、探しているのだろう。
死体を確認するまで、勝利を確定としない。
能力の高さから来る慢心はあっても、敵への攻撃の徹底に怠りはない。それを表していた。
「仕方ない。奴は後だ」
見つからないとなったら、優先順位の高いタスクへ、意識を切り替える判断力もある。
「トロワを囲んで撃滅し、Bを警戒しながら格下狩りを叩き、前衛の居ない敵陣を破る。よし、問題無く遂行可能だ」
それをやられたら、確かに辛いだろう。
それが彼らの最善手だ。
「格下狩りが着くまでに急がねば」煙を裂いて詰め、抉るような拳撃を打ってみる。「何!?」拳目掛けて微小で紅白の魔法弾が殺到し、俺は魔力噴射で跳び離れて逃れる。
やっぱり、自動的に防御された。魔力を使い果たさない間は、この三本角は顕現し続け、こちらの攻撃を撃ち落とす盾にもなる。
聞いてた通りだけど、
しかし想像とは違った。
「其の方、まだ生きていたか!ならば!」
「あー、えーと、一つだけ聞きたいんですけど」
俺は「待った」の形で、右掌を前に出す。
「なんだ?この期に及んで情けを乞うと?否、時間稼ぎか?そんなもの——」
「先輩は、『誇り』とか、通用する方ですか?」
「——え、何?」
威厳の無い声がちょっと漏れてますよ?
言葉足らずだったかな。
「つまり、こっちの隠し札一つ開示したら、そっちも質問に答えてくれますか?」
「……『隠し札』とは?」
俺は胸に吊るした、ベージュに光るイヌの人形を示して、
「これ、俺達のPポジの能力です。細かい傷を治してくれます」
「……成程、合点がいった。粒子を細分化し過ぎたか。しかし、
「先輩の能力って、今見えてる、微細な攻撃魔法弾の
「如何にも。ここに顕れし
「へー……」
「そして、私が何故これを明かしたかと言えば」
牛頭の大きさが、一回り小さくなった。
だが逆に、その気配が、密度が、大きくなった。
「其の方を容易に殺し切る方法が、たった今、其の方のお蔭で、分かったからだ」
「私から情報を引き出そうとして、愚かにも策に溺れたな?」、言いながら器用に魔法を組み替える。
彼は今、攻撃魔法一発あたりの、魔力量を増大させた。
全体としての量は変わらず、だから数は少なくなったが、一つ当たるだけで負けだろう。
「其の方の認識が深まり、我が魔法の効きが、より強まったぞ?」
彼の攻撃魔法は、浸食効果がある。
敵に着弾すると、内側に侵入し、敵の魔力を吸って増大していくのだ。
俺の魔力侵入と違い、相手が体内に残している魔力量によって、威力がはっきり決まるので、追加ダメージポイントが、明確に決められている。そして大抵、相手の魔力を吸い尽くしたと判定される頃には、ポイントの方が先に無くなっている。
一撃必殺の小型ミサイル弾、それが彼の攻撃魔法。
ローマンの俺は、大した魔力量を持たず、だから当たっても、思いのほか追加ポイントが微妙だった。しかも回復能力持ちが支援していて、ポイントを押し戻した。そう考えているのだと思う。
そこで今度は、少ない魔力量でも大ダメージになるまで攻撃力を上げ、治療の余地など残さず汚染し尽くす。という対策に出たのだろう。
何をすべきか分かりやすくなって、彼は喜んでいるようだった。
「泣き
三本角の中心から、再びの粒子エネルギー光線!
それを構成する攻撃魔法は、付近に撒かれてから一斉に俺を殺しに来る!
光線に当たれば当然即死。避けたら避けたで、重汚染大気の中。
「今度ばかりは討ち取った!」
凱歌のように宣言する彼には、
申し訳ないのだが、
「ぬんっ!?」
感覚的に分かる筈だ。
彼を守る牛頭、その中で小さな何かが翔けている。
攻撃魔法達はそれを浸食し撃ち落とそうとして、その並びを流動させて、
「どうも」「な!?」
開いた隙間に身を捩じ入れて回転刃付きナイフを刺す!
「ぬおぉぉぉ!!」
やる。
意識の外から行ったと思ったけど、腕で防がれた。
だけど、
「こいつを病み尽かせろおおおお!」
それは、やっちゃあ、いけないでしょう?
彼は俺に向かって、魔力弾を結集させ、包囲攻撃を仕掛けた。
俺はその中で、一番薄い場所を見つけ、突っ込む。
「馬鹿め!貴様の体表に触れた時点で——」
俺は自分の目前に、直進する魔力の膜を生み出した。
彼の魔法弾はその魔力を吸って大きくなり、
しかしその切先が、若干ズレてしまっていた。
「あえ?」
敢え無く敗れる、絶対封殺陣。
彼の魔法が、俺の魔力を利用して生長するなら、魔力の細かい配置によって、エネルギーの流れを操作できる。
半分は自動的な魔力制御、それを相手にしているからこその解答。
俺は広くなった穴へと水泳選手みたいに飛び込んで前転、衝撃を殺しながら立ったと同時に相手に向かって直進する、というフェイントを入れてすれ違い、左の逆手で持った回転刃ナイフを頸椎に叩き刺した。
攻撃魔法一個一個を大きくし、攻めも守りも大雑把にした上で、身体の前にほとんど回してしまっていた彼は、俺からの致命打を止める札を残していなかった。
魔法弾が俺を追って来るまでの1、2秒の間に右手でナイフの柄を殴って刃を進ませると、彼の体が一度大きく震えたのでそこで離れる。
うつ伏せで倒れた、その首輪のライトは、たぶん赤点滅。
身動きが取れないのだろう。
俺はトロワ先輩に助太刀しようと傾斜の先を見上げ、そこで高音が3回鳴った。
端末を確認すると、試合終了と書いてあった。
相手チームの全ロールがポイントゼロ。
こっちでポイントが減ってるのは、回復手段を持たないトロワ先輩くらい。
「か、」
どうやら、
「勝っっったー………!」
安心していいみたいだった。
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