119.予想できた誤算 part1

 彼らの作戦は、非常にシンプルな物だった。

 敵は、我が強く、協調性が無い事で有名な、あの“特指”クラスだ。

 分断し、最低限構築された連携方法さえ除けば、各個撃破が可能となる。

 

 ランク上では格上が多いが、勝ち目は十二分と言えた。


 特に穴となるのが、あのローマンだ。


 今回の試合のルールは、ギャンバーの公式に則った物で、互いのロール振り分けが開始前に提示され、その後に一度だけ入れ替えを行える、“オープンゲーム”と呼ばれる物である。

 メンバーもロールも隠される“クローズドゲーム”と違い、相手の戦略を推理する材料が、始めから半分以上、無条件で手に入るようなもの。


 純粋な力量による殴り合い、となるように思えて、

 相手がロールの割り振りに、嘘を混ぜて来るかという駆け引き、

 如何に複雑なシナジーを組み上げ、事前に予想されないかといういう創意工夫、

 そういった事も、問われる方式でもある。


 そして彼らは、敵チームの有り得ない編成を見て、確信を深めた。


 「Nポジション:日魅在進」。


 間違いない。

 奴ら、それぞれの鋭すぎる個性の為に、編成の振り分けに困っている。

 ロールがどうこうではない。

 ローマン如きを、まずパーティーメンバーとして、

 起用してしまっている時点で、その血迷いぶりが、窺い知れるというもの。


 勝てる。

 ランク7が二人も居る、格上のパーティーに。

 そして、負けられない。

 ローマン相手に倒されたなんて、学園在籍中はずっと、もしや卒業後ですらも、わらわれ続ける醜態だ。


 今や彼らは意気軒昂いきけんこう

 固い団結力を以て、事に当たった。


 試合開始と同時に、動き出す。

 地形は森林地帯。

 遮蔽物は多いが、密集度や樹齢はそこまでなので、最悪それらの貫通・切断も視野に入れる。


 まずは、Pポジション、Nポジションの両名が合流、先頭を行く。

 Rポジションは、今はKの護衛に回す。

 Qポジションは陣形の中間で、前線にも本陣にも行けるような位置に。


 キングが陥落した時点で、全滅でなくとも敗北するルール。

 その周囲を固める“囲い”戦法を、序盤の展開に選択。


 Bポジションは側面、樹上近くの葉の下に配置し、サイドから狙い撃つ態勢を作る。

 

 後は、先鋒二人に対して、何名が釣れるか、という話なのだが………。

 

 少し遅れて、相手方から突出して来た前衛は、3名。

 内一名は、その肥え太った巨体、そして狼の毛皮から、格下狩りのニークトと断定。

 あとの2人は、Pか、Nか、Q。

 女性的な曲線を持つ、少し厚めの防具を選択しているのは、暫定Qクイーン、ジュリー・ド・トロワ。最重点警戒対象だ。

 それに付いて来る、小柄な影は……恐らくは、あれがカミザススムだろう。

 

 NとQが防衛線を食い破り、Rが少し遅れて続く事で、敵Kに直行するも、前線を挟み打つも自在な、攻撃的な布陣か。Pポジションは、恐らく完全サポートタイプである為、Kの近くを固めている、と考えられる。Bは遠距離タイプか。


 だが、優秀なPポーンによって、動きは全て筒抜け。

 彼らの個性を活かす、超攻撃陣形を、ある程度予想していた事もあって、受け手に焦りは見られなかった。事前に見せたロールにも、恐らく変更が無い。あれ以外に、選択肢が無かったと見える。

 

 簡易無線通信によって、“返し”の動きを決定。


 PとNが、ニークトを、

 Qがカミザススムを、

 RとKがトロワを、

 Bは横から全体を援護。


 しっかりと人数有利を取って当たりに行く。

 1対1にならざるを得ない所では、最強戦力であるQを投入し、相手の穴たる最弱をスピード撃破。

 そのまま戦況を見て、ニークトかトロワ、どちらかを1対3に追い込む。


 そうやって着実に一つ一つを潰し、最後は物量と火力の差で押し切る。


 敵の後衛は、気にしなくていい。

 彼らには、すぐに見えなくなるのだから。

 

 


「——っていう感じだろうねぃ。何と言うか、堅実な動きに見えるよお~」

「な、なるへそッス!勉強になるッス!」


 室内の観戦モニターを見ながら、八守月夜つくやに解説する、訅和交里。


「ドータクの為に、もっとお聞きしたいッス!」

「多分“後学”だねぃ」

「それッス!」


 今回はお留守番、という事で、やる事が無い。

 そこで、勉強にもなるので、両陣営の分析をしつつ、丁度そこに居た小動物に、教えてやる事にした。


 

 見た感じ、今回戦っている相手方は、「ちゃんとしてる」、ように見える。


 短い意思表示で、全体が了解し合い、戦力配置も妥当に見える。


 だけれども。


「でも、おかしくないッスか?」

 素朴な疑問、という顔をして、



「ニークト様に勝ちたいなら、あの人達、少なくとも4人くらいは、集合しないといけないッス」



「言うねえ~」


 主に対しての、全幅の信頼。

 全く、彼の日頃を隣で見ながら、どうしてそんな頼もしさを抱けるのか。


 けれど、

 それが決して「盲目的」と言い切れない所が、また難儀。

 

「おかしいのは、君のご主人様もじゃないかなー?」

「へっ?そ、そうッスか?いつもと同じ、美しく素晴らしい、ニークト様ッスよ?」

「美しい、かは置いとくけどね?敵が見える前から、簡易詠唱して、ノッシノッシ走ってるでしょ~?」

「えっとお?あれ?確かにそうッス!いつものニークト様なら、もっと速いッス!ど、どうしてッスか?何か狙いが?」

「うーん、これは、結構意外だったんだけど——」


——しっかり、囮役、やってくれてるって事かねぃ?


 陣形を誤ったのは、果たしてどちらか?

 その答えを出すべく、

 相手のPボジションが、魔法を発動。

 濃いスモークが、フィールドを二分した。


「始まったよ?」

 


 自分でも驚いた事に、彼女は少し、この試合を楽しんでいる。

 彼らがどうやってその実力を、見せつけるのかを。

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