116.個人的な修行その2……っていうかカンナのいつものアレ part1
なんか、働かなきゃいけない気がした。
自分は歯車の一つで、失われたら全体が、正しい稼働が滞るから。
滞ったら、隣の戦友に迷惑がかかり、
何よりあの、耳触りな
それはいつも、欲しくもない言葉ばかり並べる。
その太陽は、陽射しで肌を焼き、骨を貫く雨を降らせる。
歯車がしっかり働いていれば、そんな事はしなくていいと言う。
決まった通り、決まった路線、それが正しく流れていれば。
歯車は、出来るだけ社会に貢献すべきだから、
工場以外の場所に居る時間は、最小限で良いと言う。
歯車が欠けたら、注意を怠った、それ自身のせい。
そうならないように、太陽は日頃から歯車を焼き、
強くしてやっているのだと、そう言っている。
有難い事だ。
歯車一つでは、弱く、役立たず。
それを「使える」ようにする。
その潜在能力を、全て活かす。
ここは、そういう場所だ。
有難い。
有難いから、
恐ろしい。
見捨てられたら?
見放されたら?
だから、逃げ出したい。
目の前の職務が、見えない所まで。
そんな弱さが、湧かないように、
駄目な自分を、忘れる為に、
働かないと、一心不乱に。
今日も、歯車として、
脱線しない、列車の模範として、
あっ、
しまった、
歯が、欠けた。
どうしようか、
真っ赤に沈む、その手を見下ろし、考える。
いや、考えていない。
どうしよう、無為に何度も繰り返すだけ。
どうしよう。
ああ、太陽が、昇る。
焼かれてしまう。砕かれてしまう。
嫌だ。
厭だ。
待って下さい。
しっかり働いてます。
働けます。
物言わぬ歯車の一つのように、
黙って運ばれる、パーツのように、
ほら、不要な意思なんて、持ってません。
無謬の運行を、止めてません。
ラインの上に、忠誠だけ考えて、横たわってます。
そんなに焼かないで、砕かないで、
うるさいな、
やってるって言ってるだろ、
見ろよ、
こうやって、
パーツと同じく、
ベルトコンベアの上に、
ベルトコンベア?
あれ?
歯車じゃなかったっけ?
どっちだっけ?
どっちでも良いか。
だって、自我なんて、必要ないんだもん。
そうだよね?
あ、回ってる。
削れてる。
凹んでる。
形が変わっていく。
痛いな、
厭だな、
でも、
正しい事だから、
痛いという、感想だって要らないから。
見て、
ほら見て、
部品になったよ?
あなたの言う通り、
文句も言わず、運ばれて、
決まった所で、動くだけの部品に。
これで「ススムくん?」
「んぇっ?」
あれ?
夕方の校舎?
いや、違う。
いつもの夢の中だ。
「待ち合わせに遅刻。十点減点です」
何かデートに遅れた彼氏を、咎める少女みたいな言い分だな。
その印象を強くしているのは、服装だ。
半袖白シャツ、リボンタイ、やっぱり短いスカート、白ソックスまで丈が縮んで、摩擦を忘れさせるツルツルした灰色が、全体の半分以上にさえ感じる。
サイドにまとめ、一部三つ編みにされ、右眼だけは鉄壁で隠す、白い髪。
「静」の
まるで、白黒フィルムで映した、火焔のよう。
いや、その表現じゃ逆か?
夏服仕様だ。
やってしまった。
俺が女子のそういう格好に反応したら、カンナがそこを攻撃しないわけがなかった。
有頂天は、落下死の前触れ。
だと言うのに、どうして煙の如く、昇ってしまうのか?
バカだから?そうね……。
正直見ただけで突き刺されたが、なるべく表情筋をセメントで固めて、そっぽを向きながら
「ま、待ち合わせではないだろ。事前に予定を決めた覚えが無いぞ?」
「ほぼ毎晩なんですから。定時みたいなもの、でしょう?」
「いやいや、そうは言っても夢の中だからね?今みたいにさ——」
——今みたいに?
「何です?」
「……いや、あれ?おかしいな、さっきまで………」
この時に俺は、カンナに呼ばれてそこに来る前に、何かを経由した気がしたが、記憶の中には何も無かった。
これは少し前、シャン先生と星宿先生の会話を聞いた日、その夜の出来事である。
「まあいいや。それでカンナ、今日もギア共が相手?別に良いんだけど、少しだけ、本当に少しだけ、数を加減してくれると有難い、って言うか…あの、歯車で骨砕かれるの、結構痛いんだよね」
「本日は、異なる種目を、用意しています」
「マジ?……それって、どのくらい、悲鳴が上がるやつ………?」
「ご安心下さい。今回は、そういった要素は、控えめです」
「っぅし!やった!」
最近、夢の最後は泣き叫んでばっかりだったから、もうちょっとキツくない奴が良いな、って思ってた所なんだよね。
「そろそろ、例の校内大会とやらが、近付いてきましたね?」
「あ、うん。カンナもその話するのか」
てっきり、そこまで興味無いのかと。
「あなたの強さを、より正確に評価出来る、且つ、成長を見込める場ですから」
「大した事の
か、肩に乗っかる荷重が、次々追加されていく………。
「今日、あの会話を聞いた事で、あなたの中でも、危機意識、本格的に開花したようで」
目の前にフラッ、と現れて、心臓あたりを指で
早まる鼓動に合わせて、柳の枝のような指先で、スリスリ
「ですので、次の段階に、移行します」
「う、うぉん…?」
快さも混ざる、こそばゆさ。
自分がドギマギしている事を、嫌でも意識させられて、
カンナの瞳から、目を離せない。
「時にススムくん。体内の魔力経路で、魔法陣を結ぶ試し、憶えていますか?」
「え?ああ、忘れないでしょ、あれ」
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