115.個人的な修行その1 part1
“
ゴツゴツとした岩と、表面に繁茂する植物。
ただ、こっちの方に関して言えば、緑の存在感がより強く、湿度もより高く、暗めの温室植物園のよう。
こんな気候なのに、10層は見かけだけの炎に囲まれているらしく、コンセプトが全然分からない。
その炎と同じように、ダンジョン内に居る生物は、モンスター以外は書割りのような物で、魔素構成物の一種でしかない。ニークト先輩が使う、魔法の狼みたいなもので、厳密に「生き物」と言っていいのか、というのは、議論を呼ぶ題材だ。
モンスターは魔力から生まれ、魔素があれば生きられる。
魔素濃度が一定以上あれば、外でも消滅しないので、こっちはより普通の「生き物」に近い。“
彼らは、魔素の生産プラントでもある、と思われる。
何を原料に作っているかは、全く判明していないのだけれど。
で、その6層に棲息している、でっかい
ブヨブヨとした袋が、タマネギのように何重にも覆われ、中には消化液。
背景植物の中から、蔦にも見える無数の側軸を、そいつの“触手”を操りながら現れる。
攻撃は全て、強い溶解性を持った、体液を利用する。
酸性だからアルカリ性で中和すれば……というような理屈は通用しない、敵やその魔力を細かく分解する機能だけ持った、魔法攻撃のような物。“ダンジョン毒”や“呪い”に近いが、ありふれた——と言ってもディーパー全体から見た割合は少ないが——異常阻止・回復系能力で、完治可能なレベル。
触手の先端から液を分泌しつつ、叩く、突く。
葉なのか花弁なのか分からん、袋の皮の一枚一枚の内側に付いている、牙のような突起から分泌して咬む。
触手で捕まえたり、飛び掛かったりして、体内の溶解液槽に丸呑みする。
あと偶に、吐きかけて飛び道具にする事もある。
それだけでなく、体表面に満遍なく溶液を纏い、防御にも転用しているのだ。
密度や魔力への耐性等によって、その分解速度も代わり、余程の軽装でなければ、液を掛けられただけで、ジュワーとスーツが消えて行く…なんて事にはならない。
が、もし肉に直接触れられて、それか牙を立てられ抉られて、分解された内、栄養となる部分が溶けだした液を、啜り吸われてしまったら?
C型の傷はみるみる内に治り、
更に各種身体機能アップ!
攻撃的過ぎんだろうがよ。
植物としての自覚を持って欲しい。
“
いや、モンスターの挙動や構造に、四の五の文句を言ってもしょうがない。
そういう物なんだと受け入れ、どう対策するかだ。
幸い、俺が今装備している、そこそこ良いシールドジェネレーターなら、溶解液だけで突破しようとすると、相当量が必要になる。
加えて、魔力を纏ったり、流動防御を挟んだり、ジェット噴射を利用したりして、簡単に弾く事が出来てしまう。
はっきり言って、普通に戦えば、今の俺なら苦戦する要素が無い。
事故があるので油断は出来ないが、負けパターンはほぼほぼ見えない。
だから、動かず迎え撃つ、その組手の対象としては、良さげな人選?モンスター選?だと思う。
ので、
「もうそういうの良いから」
見た目以外、魔力での偽装もしていないC型、上に隠れてたそいつから伸びた蔦を掴んで、引っ張り下ろしてやる。
「はあい、とっとと始めますねー」
平日はいつだって門限との戦いなのだ。悪いが恐怖演出に付き合ってやる時間は無い。
「今ご覧頂いたように、ここのモンスターは、上から降る奇襲も好んで使うんですよ」粘液
「消化液は直接触れるのを避けた方が良いです。纏うタイプや遠隔攻撃タイプの魔法をお持ちの方なら大丈夫なんですが、そうでない方は、コアをセットすると魔力をコーティングできる、そういう機能の魔具を買いましょう。出来れば両手分あるとグッドです。というか、それさえあれば、結構なんとかなりますね」
おっと、横にいなしたと思っていた1本が、そのまま腕を巻き取ろうとしてきた。ジェットの出力を上げて粘液を飛ばして、残った蔓部分はナイフで切り落とすか。「このように、粘液さえ剥がしてしまえば、お手頃価格な魔具でも、浅級のL型くらいのコアで、簡単に刃を入れる事が出来ます。攻防に大活躍な溶解液さんが、如何に優秀なのかが分かりますね」そしてこの結果は、もう一つのポイントにも通じる。
それを説明する為にも、
「ではここからは、距離を詰めて…あ、いえ、皆さん見てください。あいつの袋部分、正面から見ると膨らんで、横から見ると長さが縮んでるように見えますよね?あれやる時って、飛び掛かるか吐き出すかのどっちかなんです。触手を見てみると、ああ、収納するみたいに押し曲げているので、これは跳躍攻撃の合図です」
ちょっと早口で駆け抜けた俺の語りが終わったあたりで、待っていたかのようにC型が動く。後ろ足で地を蹴るように、本体と触手の動きで跳び上がったそいつは、俺の直上で涎塗れの大口を広げた、
から俺はそのど真ん中に上腕を加速させながらナイフをぶん投げた。
あらかじめそのスロットには、追加で浅級M型のコアを入れてある。
ナイフは“喉”の奥に突き刺さり「あっ」やったわ、コレ。
C型がそのまま落下。開いた穴にすっぽり収まる俺。
『!?』
『ちょ、これ何?』
『どういう状況?』
『ススム!?』
『なんで避けなかった!?』
『死んだの?』
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