114.何をするにも入り用だから、気になるのも仕方ないじゃん!
「はい皆さん、こんにちは~、それか初めまして~。いらっしゃいませ、カミザススムでーす。現在“
『ススム、おはよう』
『きたあああああ』
『待ってました!』
『間に合ったぜ』
『どこここ?』
『ススム、ダンジョンチョイスがマイナー過ぎないか?』
『ススム君!こんにちは!』
『今日もお前の配信をキメに来たぞ、ススム』
『今日から新企画らしいから楽しみ』
『当然の如く5層スタート』
『住んでる?』
『浅級の奥で始まるくらいじゃ驚かなくなってきた自分に驚いてる』
『ススナーの調教は順調ですね・・・』
浅級ダンジョン、“
このダンジョン内のモンスター、“ベジト”共は、植物ベースっぽく見えるクセに、ありとあらゆる方法で、こっちを食おうとしてくる。
噛んだり、吸ったり、溶かしたり、それはもう色々だ。
で、肉の一欠けらでも食われたが最後、力を大いに増して元気溌剌に。しかも喰えば喰うほど強くなるという、イヤーなローカル。稀に喰らい返して強化を受ける、エキセントリックなディーパーも居るらしいが、まあ参考にはならないだろう。変身魔法とかで草食動物になれる奴とかだよきっと。
………だよな?
さておき、梅雨時みたいなジメジメ感と、モンスター達の見た目や攻撃方法の不気味さ、及びピーキーさ。そこに浅級のクセに、強力なモンスターが生まれかねないというローカルも相まって、有数の不人気ダンジョンとなっている。
俺の場合、最近は外も梅雨入り頃だし、モンスターが恐ろしいには今に始まった事じゃないから、あんまり気にならないけれど。
でも、「ベジト」とか言うからには、食われる側で居てくれないかな?なんて思いもある。勝手にこっちが呼んでるだけだけど。
「えー今回、6層へのラポルトの前まで来ています。なんでこんな深めの所から始まったのかと言いますと、本日の新企画の為なんで、す、が……、ちょっと、待ってくださいね…?今、企画の詳細を貼り付けますんで……」
ダンジョン内用端末を操作して、配信インターフェイスに文字を入力。
これもそうだが、ガバカメを始めとした、潜行免許持ちがレンタル出来る政府の支給品には、並みくらいの強さになれた今でも、お世話になり続けている。流石に自分のスマホをそのまま持ち込む程、俺はダンジョンをナメてはいない。ただ、レンタル代は格安だけど、壊した時は、しっかり弁償する必要がある……のは当然か。
で、俺は今、端末とガバカメ以外にもう一つ、ネット接続可能なカメラを持って来ている。そしてなんと、こっちは俺の所有物。つまり、購入したのだ。大枚叩いて。
「はいこちらにある通り、今回は一人称配信を試してみたいと思ってます!」
『おおおおおお』
『一人称!?』
『BポジRポジ以外の、それもソロの奴がやっていい事なん?』
『Kポジもやってる人居るけど、ススムの戦闘スタイルには合ってない』
『更に高めると言うのか、カミザススム』
『ススム、もしかしなくても、またムチャな事してないか?』
『ススム、シューターに転向か?』
『この前のレールガン()は、条件整わないと無理だぞ?いけるのか?ススム』
『ってか、この後画面って切り替わんの?』
『そのやり方だと「流星返し」が出来なくなるだろ?ススム、考え直せ』
「えー、一つずつお答えしていきますね?」
この企画をやってみようと考えるまでに、幾つかの引き金があった。
一つ目。例のVS変異Z型配信の収益が、先月末にようやく入って来て、俺の手元に数百万円がドカッと転がり込んだ事。
二つ目。前々からガバカメの画質問題と、高性能自律式カメラの価格問題が浮上しており、どうにか上手い事、解決できないか検討中であった事。
三つ目。佑人君を助けた際、普段とは違って「回避」を封じた立ち回りを強いられたわけだが、「達人技みたいに見える」、「新鮮味があった」等と、なんか映像として好評だった事。
四つ目。校内大会や、その先に待つシャン先生の課題。それを越えて尚そびえ立つカンナの試練。偶に挟まるであろう、推定イリーガル勢力からの襲撃。それらを見越して、更なる強さや対応力を、得ようとしていた事。
それらが起因となって、一つのアイディアへと発展した。
身体にカメラを取り付けて、自分は飛び回らないようにと、縛りを設定して戦えばいいのでは?
ダンジョン配信用カメラが高額化している要因は、主に3つ。
①需要が高いという時流。
②戦闘に巻き込まれても故障しないような頑丈さ。
③位置取り、姿勢制御、ピント合わせ等に必要な、高性能自己判断能力。
そこで、俺が自分でカメラを構えたら、どうなるだろうか?
俺が身を守る事で、自動的にカメラも守られる。
俺の姿勢が安定していれば、画面が過度にグラつく事もない。
カメラマンの経験から、そこは慣れたものである。
というわけで、②と③に関して、「ピント合わせ」以外を考慮しなくて良くなるのだ。
特に飛行能力が要らないという点が、かなりデカい。
それだけでウン百万円が浮く。
ダンジョン配信界隈で、
俺は今回、最低限潜行に必要な動作性を持ち、その上で、画質やピント合わせの面で優秀な、横長四角の小型カメラ(300万円くらい)を購入。左胸辺りにカメラをセットできるようになっている、専用ベストもセットでお買い上げ。
臨時収入の大半が一発で吹き飛び、防御面においても、制服と比べて心許なくなってしまったが、その代わりに、いつもと違う映像を提供できる。
「そういった感じで今回は、『回避ではなく受け流してみよう』のコーナー!遂に皆さんに高画質映像をお届けできると思うと、ワクワクしますね~」
お相手は浅級、の中でも主にC型を狙う。
ドッシリ構えてやるには、丁度良い相手だからだ。
「ルールは簡単、カメラを守りつつ、相手の攻撃から逃げない!出来るだけ前後移動のみで戦っていきたいと思います!」
一応ロケハンを昨日のうちに行って、このダンジョンのモンスターが、どういう動きをしてくるのか、それも確認済みである。
「あ、あと、映像についてなんですが、配慮により植物タイプを相手に選んだんですが、それでも一人称視点の方は、ちょっとグロくなると思います。解説に使ったりもするので、余計にですね。なので、苦手な方は、そのままこのチャンネルのガバカメ視点をご覧ください」
では一人称カメラの視点は、どう見るのかと言うと、
「今固定コメントにして投稿するんですけど……はい、こっちです。そのURL先の、僕のサブアカウント?セカンドチャンネル?で、配信枠を取ってます。これからすぐ開始するので、そちらをご利用下さい」
『草』
『この為だけにサブ垢作ったのか、ススム』
『手が込んでるな、ススム』
『おおー、ちょっとおもろい』
『ダンジョン配信者って、どっちか一方がほとんどだから、こういう形式は珍しいな』
『これはいいな』
『たまーにやってる人居るよね、この方式』
『ススム、視聴者が散らばるぞ?いいのか?』
「何も問題はありませんねー。再生数とかに関しても、収益化が通ってない関係上、他のチャンネルとバラバラになったところで、全くのノーダメージですね、はい」
『あっ』
『ああ……』
『失う者が無い人間』
『それはダメなタイプの無敵じゃないか?ススム』
『収w益w化wwww通wっwてwなwいwwwww!?!!?』
『なんとこちらの金色チャンネル、一銭にもならない完全な趣味アカウントとなっております!なんで?』
『この為にカメラ買ってるせいで、むしろ金掛かってるっていう』
『払わせろ!どうして色コメのボタンが出てこないんだ!おかしいだろ!』
『か、悲しいな…ススム…』
「やめて!憐れむような目で見ないでください!ぜんっぜん気にしてないですから!『このアーカイブ収益化通ってたら幾らになってたんだろうなあ…』とか考えた事ないですから!それにそのお蔭で、二視点同時配信とかいう事をやれてますから!苦手な人は、今まで通りの視点も見れますから!ホラ!メリットメリット!」
『お、おう』
『涙拭けよ』
『ススム、本音が漏れてるぞ』
『強がる姿が痛々しいぞ、ススム』
『ドンマイだよ!ススム君!』
気にしてねえっつってんだろ!
話を聞け!
泣いてなんかない!
毎日の朝と放課後に、今日こそはとチャンネルを確認しては、落胆する、なんてやってないからな!
………このカメラ壊れると、300万の損失かあ…。
やっぱり攻撃を避けたくなってきた。
こ、壊さないように、細心の注意を払わないと………
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