110.こんなに人居たんだ… part1
「しかし白取先生、マイナスの集積を“
「殊文君!その指摘は実に的を射ています。ええ、大変に優秀です。しかし!我々が直感的に、
であるなら、あれがダンジョンの法の根本、ダンジョンという現象を物理学に繋ぐ上で、重要な結節点、若しくはその端緒となる可能性は、大いに有り得ます!ええ、他の事物より随分濃厚でしょう!」
「先生、それは可能性の上に可能性を載せた仮の話であり、まだダンジョンが自然科学で説明できると決まったわけでは——」
「うおぅ……、ナニコレ……?」
「む、日魅在先輩。良くぞ足を運んでくれた。さあ、予定通りの実験に移ろう」
「良いタイミングです!ええ、私が残れる間に、いらして下さるとは!」
いや、あの、これ何の会合?
「新しく試したい事が出来た」って言われて、新開部に顔を出したら、なんか殊文君と白取先生が、討論会みたいな事をやっていた。
20人くらい居る、オーディエンスの前で。
(((あれ、これ程多くの殿方が、私の本当の姿を求め、血眼になって、駆けずり回られていますとは。面映ゆいですね)))
(カンナに『照れる』とかいう、可愛げのある感情が実装されていたなんて、驚きだな)
(((減点と制裁)))
口は災いの元(n回目)。
あと見た感じ、ちゃんと女子も混ざってるからね?
「あのぉ……、殊文君、この方々は?」
「我が明胤が誇る精鋭達、新開部の同門諸賢だ」
「え゛」
こんなにメンバー居たの!?
知らなかった……!新開部がマイナー同好会じゃなくて、人気の部活だったなんて……!
でもよくよく考えたら、ミヨちゃんが所属してるだけで、人気になる要素が一個生えてるようなもんか。
集った面々は、今入室したばっかの俺を振り返り、
「そういうわけだ。いい加減、実験の準備に移ってくれ」
「急ぎますよ皆さん!ええ!超特急です!」
白取先生の先導で、みんなが部屋を移動していく。すれ違いざまに、俺に微妙な目を向けながら。
あ、ミヨちゃんだ。こっそり小さく手を振ってくれたので、俺も振り返しておく。ミヨちゃんはカワイイなあ………。
(((
きっと、この前の実験室を使うんだろう。そう思って、俺も後を追おうとしたら、殊文君から呼び止められた。
「これは言うべきか、言わないでおくべきか、迷ったのだが……」
え?なになに?怖いんだけど。
「日魅在先輩には、他の部員が、急に湧いて来たように、見えたのではないだろうか?」
「えっとぉー、実は、そういう感覚があるね……」
「それは当然で、日魅在先輩は、意図的に避けられていた」
あー………。
「読めた。ミヨちゃんが『相談』とか『確認』とか言ってたのって、そういう話か」
俺が最初に予想した通り、普通に入部を拒否する動きがあったのだろう。
が、ニークト先輩が大々的に、俺を入部させないよう騒ぎ立て、白取先生がそれを聞きつけて、「じゃあ決闘しよう」という流れになった。
“
だから、「妥協案として、俺が来る時は、先に連絡させる、って事になったのか。その時は、部室以外で集合したりして、顔を合わせないようにしてた、と」
困ったな。
ニークト先輩が、恩人リストの上位陣に、本格的に食い込んで来たぞ?
「その通りだ。つまり、先輩が教えられた、『新開部では訪れる時に、顧問に事前連絡を取るのがマナー』、という
「いやいや、そうしないと、収まりがつかなかったってのは、普通に想像できるし」
俺からすると、一種の“あるある”だ。
「先輩の事を、『こんな話を簡単に信じ過ぎじゃないか?このチョロさで現代社会を生き抜けるのだろうか』、などと心配した事も、一緒に謝罪しておこう。すまなかった」
「ぜんぜん…おいコラちょっと待て。勢いで何てこと自白してるんだ。そういうのは思ったとしても墓まで持って行きなさい。正直がいつも美徳とは限らないからな?」
「と、冗談はこの辺りにしておこう」
「良かった。冗談だった。殊文君いっつも真面目だから、冗談言うのか不安だったんだ」
「実際には『チョロくて助かる』としか思っていない。安心してくれ」
「よーし、今すぐ決闘しようかー?ダメージ軽減1割とかで良いよな?」
「これも冗談だ」
「『冗談』は魔法の言葉じゃないからね?」
殊文君の思いも寄らないお茶目さに混乱し、つい口調が崩れてしまった。
まったく……ん?
「じゃあ何で、今日はみんな来てるの?俺今日も連絡しといたよね?」
「そう、それだ。それについても、先輩に報せておきたかった」
おおん?何でしょう?
「6月2日の配信だよ。あの時の君の行動を見て、彼らの中にも、意識の変化が起こったらしい」
「2日、って言うと、佑人君の?」
「そうだ。僕も記録映像を一部見た。なかなか感動的な場面だった」
「い、いやあ、あはは…。お節介と衝動で動いて、引っ搔き回した面もあるし…。『どうせ安全に隠れてたんだから、下手に出して危険に晒すより、大人しく救助隊を待てば良かった』っていう意見も、まあ一理はあるわけで…」
「いや、それは被害者児童の精神状態に寄り添っていない、一理の為に百を切り捨てた、愚かな意見だ。彼が泣き出したり、発狂していれば、その時点で見つかり、殺されていた。そうでなくとも、あそこに一人で放置される時間が長い程、深い傷になった懼れもある。そしてその可能性は、寧ろ高い。それを勘定に入れていない時点で、考慮する価値など無い戯言だよ」
「そ、そうかな?そこまでは思わないけども」
「そうだとしても、日魅在先輩の行動が、響いた者があれだけ居る、それも確かな事実だ。彼らは手放しに先輩を賞賛するわけではない。だが彼らの中に、『どういう人物か直接見て確かめる』、という意図を芽生えさせたのは、他ならぬ先輩自身の奮闘だろう」
「値踏みするような目を向けられるかもしれないが、あれでも歩み寄ろうとしているのだ。どうか悪く思わないでくれ」、殊文君は、そう言って頭を下げた。
「それを言う為に?」
「トラブルは避けたいからな。追究の妨げになる」
「殊文君らしいね……」
ま、もう全然気にしてない。
って言うか、「そのツラ拝んでやろう」、みたいな意識があるだけで、俺としては願ったり叶ったりだ。
「言いたい事は全てだ。それで、先輩に心変わりが無ければ」「殊文君」
俺は親指で、背後のドアを差して、
「とりあえず、行かない?この前の、予算が潤沢な取り調べ室、みたいな所でしょ?」
そう提案した。
殊文君は、少し力の抜けたように、口元を緩め、
「ああ、頼むとしよう」
そう答えた。
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