108.これからも、よろしくな part2
「ま、今回、お前らの中の本音を、一部でも引き出そうと、取り敢えず目くらましに、ドデカいテーマをぶち上げて、それからぶつかり合わせてみたわけだが……」
「思ったより、収穫があった」、満足そうに腕を組み頷く。
「トロワの話を、さわりだけでも聞ければ上々、くらいの計画だったが、『あわよくば』だったカミザが釣れて、その上色んな奴が発言してくれるという理想展開。マジに確変突入したかと思ったぜ」
「確変」?何ですかそれ?
「仮にも教師がパチンコで喩えんな」、と乗研先輩が言い、「なんで学生がパチンコの用語だって知ってんだ」、とシャン先生が応える。
ああ、乗研先輩、経験者ですか……。
超えてるんスね、ハタチ。
「これは俺の意見だがよ?」
締め括りに、先生も一つの見解を落とす。
「人間という、自己保存システムの中には、大雑把に分けて、2種類、異なる形の歯車がある。そう考えている」
材質は同じ、
型は別。
「で、その歯車一つ一つにも、もっと細かく仕分けりゃ、それぞれ微妙な差がある。どの歯車の金型から作られただとか、回っているうちにどこに傷が付いただとか、摩耗して、変形して、偶に
「結局その、『違いがある』事自体を尊重するのが、一番だと思うぜ」、
違いがある事自体。
巨視的に見れば、全ては自然の流れ。
あらゆる行動に、理由を、背景をくっ付けられる。
もし相手を変えたいなら、そこまで考え、先に別の物を作り変える。
その必要が、あるのかもしれない。
「自分と相手の形を、何が出来て何が出来ないのかを受け止めた上で、どの歯同士を噛み合わせるか、
んでその中で、一番良い感じの並べ方を、諦めず求め続ける。
『共に生きる』だとか、『共に戦う』だとかってのは、そういう事なんだろうぜ」
隙間の無いよう埋め合ったり、一つ二つに尖らせたり、
完成形は幾らでもあり、正解は時と場合次第。
「相手や自分の形を、無視して、或いは偽ってしまえば、それは破綻する。もし理想と違うなら、自分で変わるか、相手に変わるよう“お願い”するしかねえ。敬意を払うというのは、——俺が思うに、という前提を忘れないで欲しいが——自他の形状を正しく認識し、且つ他者がその形状を選択する自由を認める事だ。納得するかどうかは、その後だぜ?」
理解を示し、尊び、相手の在り様を受け入れる、というのは、
だから「降伏」や「敗北」ではないと、
シャン先生はそう熱弁する。
「それはむしろ、勝つ為の一手とすら言えるぜ?」とも。
幸せを、納得を、勝ち取る為。
戦う相手は、現状であり現実だ。
“敵”を決めるというのは、勝つ為の手段の一つでしかない。
倒す事自体が正しいわけでなく、
倒した後に正しさが来る。
そしてその「正しさ」が、まだ不完全、片手落ちと知って、
次の“敵”を、“課題”を設ける。
人そのものを“敵”にしてはいけないし、
討ち果たす事そのものを、目的としてはいけないのだろう。
「お前らは…、これも俺の所感だがよ、お前ら全員、自分か、他人か、どちらかへの認識が、歪んじまってる。正確に、判断出来てねえ。そして、『打倒』自体が、目的化してる、そういう奴も居る」
そうなるだけの理由があった、かもしれない。
それぞれに譲れぬ言い分がある、かもしれない。
「だけど俺はな、お前らに諦めては欲しくねえ。
よく見て、考えて、判断する。
その為に必要な物は、俺達大人の手が届く限り、揃えてやる。
俺達は全能の神様じゃねえが、お前らガキよりは万能だ。
色々やってみて、自分と他者とをよく知って、それでも『変わらない』事を選んだのなら、それはそれでいいだろう。
だが、何も知らねえ、何も見えてねえのに、決め付けちまうのは、勿体ねえし、悲しい事だぜ?」
「それがいい」と、「それしかない」。
その二つには、雲泥の差があるのだから。
「シャン先生、出来るだけ近いうちに、ダンジョンでの実戦訓練許可を、取得して来て頂けないでしょうか」
今日の午後授業の終わり、トロワ先輩から、その提案があった。
「納得、できたのか?」
「吞み下すには、足りないでしょう。けれど」
彼女はもう一度、教室内をぐるりと見回し、全員の意思表示を再度受け取り、
「けれど、口に含み続けるくらいなら、取り敢えず一度吐いてみようと、そう思います」
「そりゃ結構。上出来だ」
シャン先生は、教材等を小脇に抱えて、
「早けりゃ明日にでも潜らせるぜ?覚悟しておけよ?」
そう言い残して、その場を去った。
「それじゃ、私はこれで」
トロワ先輩は立ち上がってから、
「また明日、よろしく」
こっちも見ずに言うだけ言って、スタスタ出て行った。
「チッ、面倒な授業だった」
横を通る彼に、
「の、乗研先輩!」
思い切って声を掛ける。
「あん?」
「せ、先輩も、いつか一緒に、戦いましょう」
「うるせえ」
行ってしまった。
乗研先輩が、ああやって理論立てて語っていたのも、意外な一面だった。
まだまだ全然知らない事だらけだ。
いつか話を出来たら、いいんだけど。
「全く、お前らの相手は骨が折れるぞ!本当にな!」
ニークト先輩が言いながら席を立ち、「あ、待って下さいッス!」八守君が後を追う。
出口の所で、一度振り返り、
「詠訵!」
「は、はい!」
「見世物も、
「え」
「それと『おニク』呼びだが、そこまで気にしていないからな?あの時は別件で苛立ってたのを、お前にぶつけてしまっただけだ。悪かった」
「良かった。初めて会った時から、ずっとそう呼んでたので、知らずに傷つけてしまったかと、心配してたんです」
「呼び名一つで、威厳が損なわれる程、オレサマはヤワじゃない!」
「これからもよろしくお願いします、おニク先輩!」
「はやっ!?早過ぎないか!?言っとくが推奨してるわけでもないからな!?」
「“リケイモメン”を込めてお呼びするッス!」
「“畏敬の念”だ八守ィ!」
そうして、いつもの漫才をしながら、退室した。
「じゃあ、あーしらも行くから、明日もよろー」
「よろー……」
ギャルコンビも行くようだ。
「あ、うん、お疲れ……」
そこで、ふと思いついて、
「……お、『おつ』…?」
彼ら式の挨拶を返してみた。
………これで合ってた?
「おつ、だね!」
「乙だねい!」
「おつー」
「おつー………」
良かった。間違いではなかったみたいだ。
なんかテンションが、外国人に初めて「ハロー」って言う時みたいだった。
妙な気恥ずかしさがある。
「じゃ、私達も行こっか」
「むふふふふ、ヨミっちゃあん?今日こそはウチのパーティーと一緒に潜って貰うぞお?」
「えー?どうしよっかなー?ススム君はちなみにどうするの?」
「今日はソロでの配信予定あるからなあ。そっちにご一緒は出来そうにない。また今度って事で——」
談笑しながら、俺達3人も教室を後にする。
部屋を出る直前に見えた、膝を折って教卓に乗っているカンナは、甘ったるい笑顔を浮かべて、
(((ススムくんの、課題突破祝いに、美味しい甘味を、買い込みましょう?)))
(俺の祝い事に俺の金使うんかい!)
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