92.甘く見てた、色々と part1

 “奇械転ギアーズ・オブ・ティアーズ”、第5層。

 お、4層突破してんじゃーん。順調だね?って思ったそこのあなた。

 残念ながら、そうではないんですねー。

 何が起こっているか説明する為に、まずは戦闘風景を見て頂きましょう。




 ダガガガガガ!360°旋回可能でボルトやナットを撃ち出す移動型の砲門、Mメイジ型ギア!大型犬くらいの大きさのそれらが八方から継続的に攻撃!

「ジェットチビぃ!脳筋が戻って来ん!連れ戻せ!」「また俺かい!?」「見世物女とオレサマは弾幕防御で手一杯だ!他の連中から離れられん!」「あのバカ女!あーしのTELLシカトしやがって!マジムカつく!激おこなんですけど!」「どうするキングちゃん?私の魔法も使っとく?」「一号ちゃんは……もう少し待って?」

 両脇のレール上にやって来るM型計5体!


 「また来たか!」魔力噴射を利用した両脚攻撃型サマーソルトキックという無茶な動きで片側2体の銃口を連続蹴り上げ!口が曲がって撃てなくなったところで引っ張り下ろし、何回か踏みつけて大破させる!「居眠りぃ!」「やってるー…!“出度ロート”ー…!」反対側は二号さんが攻撃!四本指を揃え親指を広げて丸い物でも掴むような手を作り、ピンク色の大きな光弾を続けざまに発射!当たったM型がメキャメキャいいながら潰れて行く!

 発砲前に全滅させる事が出来てるから余裕に見えるが、空気抵抗による減退が小さい距離から、一発でも撃たれたら跳ね返りまくって大変な事になるので、こっちも必死なのだ。


 俺は踏みつけ続ける、という素振りのままに踏み切ってジャンプ!天井に巡るレールから修復用アームを伸ばしていたマジックハンドみたいなLロコ型に取り付きよじ登る!そこを狙った掃射はキングちゃんの盾の一つが防御してくれる!

「じゃあちょっと行ってくるから!そっちよろしく!」「うん!ごめんね!お願い!」「急げ!オレサマに面白くない思いをさせ続けるな!」「最後に見えた方角は35サンゴー!とりま、行ってみ!」

 天井まで到達した俺はナイフに回転魔力刃を纏わせてL型本体を削りつつ、他のレールからG型やM型を運んでいる、4本のプロペラで飛行する箱ことFフェルツ型ギアの配置を確認。「1、2の、3体…よし!」L型がアームを戻すのも間に合わず、ぶっ壊れながら落ちて行くのを確認し、レールに雲梯みたいにぶら下がっていた俺は、振り子のように勢いをつけてから手を離し飛翔!


 魔力炸裂弾を間に挟み、更に魔力ジェット噴射を行う事で、プロペラに巻き込まれるのを防ぎつつF型を飛び石にしてくうを渡る!「ひとおつ!」我らがクイーン先輩は……「ふたあつ!」居た!あそこだ!「みぃいいつ!」距離を稼いでからの前転受け身着地!


「先輩!先行し過ぎです!戻って下さい!」

「あら?あなた、彼らから離れたらダメじゃない。後ろの一団の進行スピードが落ちるわ。さっさと戻りなさい?」

「先輩が見えないところまで前進するからです!」

「私は見ての通り、」と、前面に芝刈り機のような武装を付けた移動式の分岐レール、Vヴァンガード型ギアを突き刺して停止させ、「キチンと役を果たしているわよ?寧ろ、追い着いて来ないあなた達の方が、足を引っ張っているわけ。分かった?分かったら、こんな所で油を売っていないで、遅れてる彼らを速やかに連れてきて頂戴?」

「む、無茶苦茶ですよ!今回は意思疎通をスムーズにする為の実戦訓練です!タイムアタックやってるんじゃないんですから!」

「だからその訓練の為に、敵が私のレベルに釣り合うまで、急いで潜っているんじゃない。行きましょう?8層はまだ先よ?」

「はっそ……!?」


 ちょいちょいちょいちょい!

 無鉄砲過ぎやしませんかねえ!?

 あなたはオキニの重装型アーマー着用ですけど、ニークト先輩を除けばみんな制服ですよ?

 幾ら明胤じるしが防備に優れて、そこにボディースーツやシールドもあるとは言え、こんなハイテンポで深層攻略なんて危ないに決まってるでしょ!?


「トロワ先輩、それぞれがそれぞれで敵を倒せれば良い、っていう問題じゃありません!パーティーとして動く為の練習なn」「分かってないようだから言わせてもらうけれど」


 張り手の如き、痛みすら幻覚する語調。


「あなたやニークトみたいに弱い人、六本木さん、狩狼さんのようにやる気の無い人。そういう役立たずの貢献度を底上げする為の“連携”なんて、はっきり言って邪魔でしかないわ」

「あ、え……」

「詠訵さんはまだ役に立つし、防御面でも優秀だから、彼女をキングポジションとしたの。あなた達が身代わりになってでも守れば、ある程度の時間は持つでしょう?ああ、でも、あなたはすばしっこいから、囮役の方が向いているかもね?相手を怒らせる技術を学んでおきなさい?その間に私が敵本陣を壊滅させる。これが最善の陣形。

 今回はその為の訓練よ?私抜きでも敵の猛攻に耐えて、敵の攻撃要員を引き付けられるくらいには、反撃も出来る。そこまでに仕上がるのが理想」

「……仮に、百歩譲ってそれが先輩の考える『最善』だったとして、それなら昨日の時点でそう主張して下さい!」

「どうせ反対するでしょう?」

「それはそうですけど、どっちかがもう一方を説得できたかもしれないですし、折衷案も出せたかもしれない。少なくとも、みんなあそこまで混乱する事はありませんでした!」

「それよ!」

「は、はい?」


 「それ」とは?

 今の会話の、「どれ」が核心だった?


「私が予想外の動きをしても、即座に合わせられる、それが完璧!あなた達はそれを目指さなければいけない。だから敢えて伝えない事で、全体のレベルを上げているの」

「そんな、そんなのは先輩のやり方が、本当に『最善』な時にしか成り立たないじゃないですか!」

「他に、どんな手があるの?」

「それぞれの強みを活かして、全体で動くんです」

「どうやって?」

「それを探る為の、この実戦訓練で…」

「はンッ!」


 一笑に付されてしまった。

 

「お話にならないわね。あなた、忘れたの?あなた達は、他のクラスから追い出された、お荷物なのよ?元のパーティーではエースで、教室では成績最上位者だった私が、どうしてあなた達のレベルに合わせないといけないの?メンバー間の釣り合いが取れて無さ過ぎて、こんなパーティー本来は成立しないのよ。あなた達は精々、私が更なる高みに至る為の負荷、枷、重石のようなもの」

「誰が問題児枠かは分からないし、詮索したり決め付けたりしちゃ駄目だって、先生からも言われてるじゃないですか。それって、そういう考え方は一度やめて、全員が目上も目下も無い、対等のチームとしてやって行こう、って事でしょう?」

「いいえ?最も適当な方法を探せ、という問題に過ぎないわ」


 モー!

 ああ言えばこう言う!


「…ああ!もしかして、あなた、自分が選ばれた側だからって、勘違いしてる?」

「……はい?」


 ???

 何それ?俺が選ばれた事なんて無いが?


「あれは魔力操作能力を持ったローマンとしての希少性に目を付けただけ、珍しい物見たさの道楽よ?中級を攻略した程度で、戦闘能力が評価された、なんて、思い上がらない事ね?」

「いや、編入試験の話ですか?だったら、試験の結果が評価されてるんですから、少なくとも最低限の戦力とは見なされてると——」


 俺の言葉を、V型二体目を倒しながら片手間に聞いていたクイーン先輩だったが、何故かこっちに口をまん丸に開けて、こっちを向きながら絶句してしまった。


「あ、あなた、気付いて無かったの…?」

「は、はい…?」

「鈍過ぎるわ。弱い上に観察力や推理力まで腐っているの?」

「いや、あの、何の話を?」

「腰がすこぶる重いパンチャ・シャンが、どうして急に、それも特指の担当なんて面倒事を、引き受けたと思っているわけ?」

「え?」

 

 シャン先生が?「どうして」って——


「足止めご苦労、ジェットチビ!」


 と、どうやらキングちゃん達の方も、片付いたらしい。

 そこでクイーン先輩が気付いた。

「……あなた、さては」「すいません!本気で議論になれば、流石に足を止めてくれるかと思って……!」

 時間を稼がせて頂きました。

 更に怒らせてしまう事になるが、それでも、一度、全員で本気の話し合いをしなければいけない、そう思ったのだ。

 クイーン先輩はもう一言二言、何かを言おうとして、しかし思い直したように首を振り、ヘッドセットを外してから、

 

「そこの彼に私の意図は伝えたわ。話しながら進みなさい。私は先に行っているから」


 全員を見渡した後にそう言った。

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