91.それゆけ特別指導隊~はじめての潜行編~

「それでは改めて!皆さんのロールをお伝えします!」


 ヘッドセットを装着したミヨちゃ……今は“キングちゃん”が、点呼代わりの最終確認をする。


 外見は変える事が出来ても、魔法はそうはいかない。よって、彼女を本名で呼び、それを通りすがりの別のパーティーに見られると、“く~ちゃん”が身バレする。そうでなくても、往来で本名を呼び合うのは、抵抗があったりする。ビジネスライクライクなパーティーなら、尚更だ。

 そういう事情で、各自のロール名で呼び合う、みたいな慣例があったりする。


 あと、両親と話し合い中だった彼女だが、「授業なら仕方ない」という条件で、潜行が許可されたらしい。


「はい!まずは私、キングちゃんです!そして、Qクイーン先輩!」

「どうしてそこまで張り切れるのか分からないのだけれど、ロール分は完璧に熟すわ。任せなさい」

「ありがとうございます!次に、Rルーク先輩!」

「オレサマを讃えよ!貴様らの面倒を見てやる!感謝しろ!今日から毎晩寝る前にオレサマの寝室の方角に向かって——」

「はい!次にBビショップちゃんその一!」

「いえええええええええええい!!キングちゃんばんざああああい!!」

「うるさっ!マジありえん…」

「い、良いお返事です!そのままBビショップちゃんその二!」

「いぇー……あげー………」

「あ、あがってるのかな?ま、まあいいや!じゃあ、な、な、Nナイト君!」

「なんで俺の時だけ、ちょっと呼びづらそうなんだ?」

「な、なんでもないよ!最後にポーンちゃん!」

「テンションウゼー。ノリめんど……」

「うん!みんなバッチリですね!それでは潜っていきましょう!」

「っしゃあああああ!」

「弱い人が五月蠅くしないでくれるかしら?鬱陶しいだけよ?」

「スイマセン」


 す、少しでも盛り上げようとしてるキングちゃんの助けになればと思って………


(((ススムくん、可笑しいですね?)))

(何があ?)

(((ススムくんが、騎士様ナイト、ですって)))

(うるせー、ほっとけ)

(((ふむ?けれど私は、“ナイトライダーに乗る者”ですから、ススムくんを、お尻に敷いている、という事に?)))

(カンナのは“Night”!俺のは“Knight”!)

(((然し、“N”なのでしょう?)))

(コールサインがKキングと被るからズレてんの!仕方ないの!)

(((あれ、存じ上げませんでした)))

(嘘つけえ!?受験期に散々注意された記憶があるわ!!)

(((お赦しを。くすくす……)))

 

 こんのお……、

 顔と茶目っ気だけで世を渡ってからに。

 お前に上目遣いとかされると、俺は追及出来なくなるの!それ禁止カードにしろ!

 

 というわけで、本日5月24日金曜日。

 現在俺達7名は、中級ダンジョンの“奇械転ギアーズ・オブ・ティアーズ”に来ています。

 乗研先輩は、やっぱり不参加です。

 付き添いの筈のシャン先生は、ダンジョンの外で待機しています。後で映像を提出させ、それを確認するそうです。



 プランは昨日の授業中に考えた。

 シャン先生から実戦訓練のお許しが出て、まだ初回という事もあり、浅級から行こうという提案もあったのだが、


「非効率的よ。時間の無駄。私がQクイーンなら何も心配要らないわ。そうすべきよ。そうしなさい」


 と、トロワ先輩が強硬に主張し、頑なに突っ返してヘソを曲げられても困るので、仕方なく従う事となった。ニークト先輩は「お前らでは無理だ」と最期まで反対し、六本木さんは面倒だと文句を垂れ、俺、ミヨちゃん、訅和さんは互いの不安そうな顔を見合わせ、狩狼さんは半分寝ていた。乗研先輩?完全に他人事テンションだったよ………。

 頼みますよクイーン先輩?あなたの事、信じますからね?



 話を元に戻すと、ここのダンジョンでは、機械仕掛けの敵、“ギア”共が待ち受けている。

 廃工場の中のように、錆びついた機器やパイプが方々伸びていて、そこを縦横無尽に走るレールの上を、歯車で構成された絡繰りみたいなのが運ばれてくる。揃いも揃って金属だから、痛みも無く、固くて厄介。

 G型とかなら、まだ足が付いた丸鋸くらいで、可愛い物だが……いやでも、見た目の殺意は高いな。って言うか、よく見たら全然可愛くない。あの赤茶けた部分は


 “窟法ローカル”は、「路線を外れず墓まで乗り継げ」。

 レールの上に乗っている間は、動きやすさと肉体強度がグンと上がる。つまり速く、硬くなる。

 ただ、俺達がバランスに苦心しながら乗っかっても、専用の装備で滑るように移動する敵相手では、微妙に不利。だから、なんとかして脱線させる、というのが王道の攻略法となる。


 それからこのダンジョン、内部構造が複雑極まっている。

 画像を確認しながら気を付けて進まないと、迷子になったりする恐ろしい場所なのだ。


 え?なんでそんなのを練習用に選んだかって?

 仕方ないじゃん……。授業中に行けるくらい近い中級は、こことホリブルくらいだし、クイーン先輩が、「猿ダンジョンは却下よ?敵に斬り応えが無いわ」、とか言うんだもの……。


「それではまずは、少しは真面まともな戦いになる敵が出て来るまで、最速で潜りましょう」


 クイーン先輩が言うだけ言って、スタスタ先を急いでしまうので、キングちゃんが慌てて呼び止める。


「ま、待って下さい先輩!このメンバーで初の実戦なんですから、安全な相手から少しずつ慣らしていきましょう?」

「そんな事をやっていたら直ぐに授業が終わってしまうわ。残りおよそ一ヶ月しかないのよ?省ける手間はカットしていきましょう」

「残り期間が短いからこそ、下手に焦って足並みが揃わなくなるより、一から順番に積み上げていった方が」「必要ないわ。私が切り開いて、あなた達が続く、それだけよ。話は終わり」

「おい脳筋女ァ!隊列とロールを乱すな!今は見世物女がKキングだ!従え!そして一番前はオレサマだ!」

「こうしている間にも貴重な時間が刻一刻と削られているのよ?それがどれだけ不毛な事か、理解してる?肥満体の犬に先頭を任せていたら、日が暮れてしまうわ」

 

 それ以上の言葉は無意味と言うように、クイーン先輩はドンドコ先々さきさき行ってしまう。

 取り付く島もない。


「ああ!先輩!う、うーん……」

「ボサッとするな見世物女!奴に引き離される前に取り敢えず後を追うぞ!説教は奴が止まってからだ!」

「は、はい!行きましょう!」

「お、おー!」

「おー!」

「………」

 

 クイーン先輩が前方遠くに、遅れてルーク先輩、俺、ビショップ一号・二号さん、ポーンさん、殿しんがりにキングちゃんの順になった。そうならざるを得なかった、とも言う。


 あーあー、G型が現れては切り捨てられていく。簡易詠唱すらしてないのに。少し気の毒になるくらいだ。

 あの分だと本人の言う通り、切り込み隊長として露払いしてくれるのが、早いのかもしれない。

 それをキングちゃんに言ってみると、


「う、うーん、それなら良いんだけどね…?」


 と、浮かない返事。

 更になんか金ピカでゴテゴテしたアーマーを着たルーク先輩から、


「逆だ馬鹿!ここで何か問題が起こってくれた方が、後々を考えればプラスになる!奴があのまま調子づくのが、一番マズい!」

 

 とのお言葉を頂戴した。


 あー、確かに。

 歩幅を合わせるつもりがゼロなのは、チームワーク面で大問題だから、そこは変えてくれるといいなあ。


 とは言っても、今はちょっと先を急いでるだけだろう。


 階層が深くなって、仲間との連携を考える段になれば、意識も俺達に向くと思う。


 今はそれまで、先輩のペースに合わせよう。


 く~ちゃんとの潜行を思い出してみると、本番はやっぱり、M型とかが出て来る辺りかな?

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