80.羨むべきか、憐れむべきか part1
〈“
完全詠唱成立。
葉と葉が咬み合い
電光の域にすら達した火
360°全域の土が噴火の如く吹き飛び、そこから地を抉る
弾丸に並ぶ程のスピードで延焼するそれは、ナイトライダーを、
否!
その背後、
〈貴様がどれだけ強大でも、今の貴様はその少年を基点としている!そいつを殺せば、お前も自動的にこの場から消えるという寸法だ!〉
反響し、どこから発されたか判らぬ声の中、
第一波、
津波のように土石混じりの火焔が押し寄せ、そこにある全てを呑む!
続く第二第三第四第五!
見る者の網膜すら焼き潰すような眩さ!
ローズは自身の魔法が、衣の表面を岩石海岸のように削っていくのを知覚している!
そしてこの、高密度の魔力の中で、
彼の本体は、幾本幾重の、
根を動かすことで、在所不定!
敵はまず彼を探し出さなければならず、
見つけたとして攻撃が届かない!
動けば火が付き、
二人を守る
幾重にも押し寄せる波を濡れずに突破し、大海から一房の珊瑚を拾い上げる。
〈そんな事が、可能だと言うのなら——〉
〈
………?
止まった。
いや、
まるで深海を、
掻き歩むが如く、
重くなった。
〈不遜な景観ですね。頭が高いです〉
〈ぐ、ご、〉
勿論、
ローズ自身も、
〈ごぼぉおおーー!?〉
いや、
ローズを構成する物質は重くなり、
けれど彼のコアは、
魔力攻撃に強い抵抗力を持つその部分は、
鈍化を免れて、
自分の体に潰されている!
エネルギーの発散が停止した為に炎舞はお開きとなり、背の高い幹も軒並み地に伏せられ、
〈ぐ、お、ぐおおお…!?〉
〈随分、見晴らしが、
彼女の左手が、前に差し伸べられ、人差し指が地を差していた。
〈き、きぃさ、まぁぁぁああ……!〉
〈あれ、
〈ほぉざあけえええ…!〉
枝も葉も、地中へと
彼の体だけが、重くなっている…!
〈けれど、
〈な、に、を…!?〉
〈その
——陸の鯨みたいに。
最後の一言では、笑っていなかった。
ローズは自らに向けられた、彼女の興味関心が、みるみるうちに失われるのを、肌で感じて恐怖した。
恐怖。
どうしてそんなに怖れるのか。
それが分からぬまま、
〈……“カラカ・ンパンラ”、そう呼ばれる種がある…〉
〈………〉
慈悲なのか、
気が乗らないのか、
意識を別に飛ばしているのか。
カンナは「お喋り」を、止めようとはしない。
その慢心が、最後の頼みの綱だった。
〈温暖な大陸で群生する、
その名は失われし言語で、“火精の棲み処”という意味を持つ。
〈その真骨頂は、乾季では些細な摩擦で発火点に到り火災が発生する、その生植環境で獲得した、高い耐火性、及び、擦り合わせる事でより着火の蓋然性を引き上げる為、周縁が
その葉は現地で、火打石の代用にも使われるとも言う。
火の粉を振り撒き、周辺一帯の動植物を焼き払い、土地と水源を独占。
風通しが良くなったその場所で胞子を飛ばし、遠くへと自らの遺伝子を撒く。
〈つまり、その植物は、火を操るのだ…!自らは火を畏れず、他を焼き尽くす…!
彼は、
ローズは、
その内の一つを、
〈その時も残ったのは、カラカ・ンパンラのみだった〉
ある土地で起こった、大火災を語る。
〈しかし、
曇る。
空が薄暗いのは、さっきから変わらない。
いいや、違う。
太陽が、隠れた。
天上を塞ぐのは、灰ではなく、雲だ。
〈雨雲だ!それは乾季では珍しい、恵みの到来を予感させた!〉
高く、
ドス黒く、
そして厚く固まった雲。
〈しかし!実態は!かつてない凶兆だった!そうだ!かつてないほどに!〉
その内部で、一条の瞬きがあり、
〈お前はその始点に立っているんだぞおおおおお!!〉
落
雷
!
!
光と音が、ほぼ同時に一面を染め上げた!
乃ち、そこが着弾点!
付随しただけの音響すらも、強力な兵器と化す程の、莫大な破壊!
〈少年を守っていた貴様の衣、それは上部からの攻撃に対する備えが、最も薄かった!〉
そこに直上からの
神々による裁きの光!
重さなど関せず切り絶つ
〈カミザススムは死んだ!お前は消滅し〉〈お
爆風に乗って吹いていた灰が、更なる突風に裂き散らされた。
ローズの感覚が、彼らを再び見つける。
〈な……〉
「なんだと?」、
そう言いたかったが、
それすら言葉として結べなかった。
彼らの頭上。
輪っかのような物が、
いいや、あれは廻転だ。
高速で回っている、その軌道だ。
速過ぎる為に、ローカルによって発火し、光の帯を残しながら、巡っている。
あれは、首輪だ。
或いは、首枷だ。
柔らかく
〈
あれで、
たったあれだけで、
防がれたと言うのか?
傷一つ、残さなかったというのか?
〈そんな馬鹿な話があるかああああ!!〉
彼には誇りも理性も、恥も外聞も無かった。
怒っていた、という表現も、まだ上等だった。
愚図っていた。
認めたくなくて、認めないように、
大声を喚き、
無かった事にしようとしていた。
彼女は、
ナイトライダーは、
本気だ。
本気であの少年に、
カミザススムに入れ込んでいる。
予想外へと憤ったのか、
選ばれた者への
満たされぬ欲の表出か、
歯軋りのように、繊維を捻じらせ、
ローズはただただ、不平を叫ぶ。
〈何故、貴様、単なる気紛れで、戦局を掻き回すばかりか、両勢力諸共吹き飛びかねん地雷を、何てことのないように放り置くなど、責任は、責任を果たせえええ!!おかしいだろう!?世界最強の力を持つ貴様が、何故秩序を齎そうとしない!我々の血で血を洗う闘争を、その指一振りで止められると言うのに!何故そうしない!〉
この世に生まれ出たいなら、
体一つ乗っ取るだけで、それが出来るなら、
何故そうしない。
何故、彼らを選ばない。
〈我らは意志を、力学を、死を
〈
嘆願とも言える、その号哭を受けて、
あっけらかんと、彼女は言う。
〈私が面白いと思える、楽しめる、
——それが、全てですが?
〈すべ、て……?〉
〈ええ、何か不都合でも?〉
〈そいつが、そんなに、面白いか…?〉
〈ええ…?そうですねぇ………〉
数秒考えた彼女は、ふと悪戯でも思いついたように、こそりと笑い、
〈一説に、或る音楽家は、本物を輩出する事が得意でも、自らが“本物”には成れないと、嘆いていたらしいです〉
〈……?な…にを、言っている……?〉
〈貴方は、“本物”を見分ける才すらも、持っていませんね?〉
〈………そうか〉
すっ、と、
熱が冷めたように、
夢から醒めたように、
彼は、殺気を取り戻した。
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