63.何事も、実践しないと分からない part1
場所を移して、同じ建物内の……これ何?何の部屋?
収録スタジオとか、取り調べ室みたいに、窓を挟んで二つの部屋が並んでいる。
これは俺がこっちのガランとした部屋で色々やる間、反対側からマイクとかで命令が…
「さて先輩、そちらのセンサー付きボディースーツはどうだろうか?ある程度の伸縮性は確保してるので、サイズ違いとかはあまりない筈なのだが」
というわけでもなく、殊文君は普通に俺と同じ部屋に居た。
「うん、特に大丈夫だと思う。ところで、これ、何すんの?」
「これからこの部屋に魔素を注入し、中級相当の魔素濃度を確保する。それから日魅在先輩には、例の魔力噴射を行ってもらう。と言っても、片方の掌からだ。出力は抑えめ、ただし出来るだけ、そこに開いている全ての孔から」
「お、ぉおん?」
どういう儀式?
「まずは進めよう。その内分かる。おおい
『なんだい、チャックン』
「始めてくれ」
『喜んで』
知らない間に一人増えている。
顔の右側へとパーマの掛かった長い前髪、一瞬リーゼントにも見えてしまうそれの先っぽを、指でもてあそぶアマイマスクが、ガラスの向こうで微笑んでいる。
元からあっちの部屋に居たのだろうか?準備の良い事である。
「彼は私の助手だ」
俺の視線に気づいたのか、殊文君から補足説明が入る。
「とは言っても、高等部2年、君達の一つ上。研究者枠ではなく、ディーパー側の生徒なのだが」
「へー。それにしては、随分親しげなんだね?」
「信頼関係がある。並々ならぬ、信頼関係が」
「そっか。なんか、いいな、そういうの。正直言えば羨ましい」
「……改めて感じ入られると、
などと言ってると、部屋に魔素が流れ込んで来た。すぐに空間が満たされ、俺の中で魔力がポコポコ湧く。
俺はそれをいつもの運搬ルートに乗せ、周回を開始。次第に経路内の魔力密度が安定してくる。
「うん、俺は準備オーケーだ」
「よし、掌を上にして、少し待っていてくれ」
俺は取り敢えず右手を差し出して、殊文君はその上に、触れるか触れないかの近さまで、自分の掌を近づけた。
「よし、やってくれ」
「……えっと…火傷するよ?」
「できるだけ優しく頼む」
「ええ~……」
何が何だか分からんが、「やってくれ」と言われてるし、仕方ない。
俺はそう…と、そおうぅ…と、魔学的
「ふむ、本当に細かいな……、これら全てが、日魅在先輩の魔力の通り道、という認識で間違いはないだろうか?」
「うん、そういう事だな。これと同じ物が、全身に開いてる。丹田…つまり魔力溜まりも含めて、身体中が無数にぶち抜かれてるんだ。魔学的視点だと、俺は蜂の巣とかスイスチーズとか、そういう風に見えるらしいよ」
「一つ一つ、個別に感覚を持つというのも?」
「そうだな。どちらかと言えば、魔力側の感覚から、どこに孔があるか知れる、って感じだけど」
「ほお、なるほど、よし、理解が深まった。試してみよう」
そう言うと彼は手を戻し、今度は両手で印を結び始めた。
右手を上にして指を組み、中指だけ伸ばして、先同士をくっ付ける。
「“
中指が関節の可動域を無視して、パカリと後ろ倒れに開く。
それを柄として、先端が尖らず丸まって、刀身は直進する剣、に見える水色の柱が生えてきた。
「それ痛くないの?」
「害は無い。そのまま動かないでくれ」
と言いながら、
下から俺の右手を刺した。
「おっわ!?いっっっ……?…たくない?」
熱さとも紛う痛みが、という事も無く、何も起こらない。そこにあるのが、単なるホログラフィックであるかのように、剣の実体を感じられなかった。
「『害は無い』と言った」
俺の方に害を為さないって意味かよ。君の指が大丈夫かって聞いたんだが。
「………どうだろうか?何か変化は?」
「特に何も………」
「ふむ、駄目か。よし、やり方を変えよう。おおい、良観!」
彼が魔法を解除して助手さんを呼ぶのと、
『呼ばれると思ってね』
「流石だ。それでは先輩、このカメラの前で同じ事を頼む。良観!映像を私の端末に!」
なんだなんだ。ますます分からんぞ。
「こうして見ると矢張り多いな……、十や二十では足りない………。うん、今度はどうだろうか。日魅在先輩はそのままで」
殊文君がもう一度魔法を発動した。
さっきと同じ事をして、今度も俺は何も感じない。それを聞いた彼はまた解除して、助手さんの方にも何か確認したが、同じく「変化無し」という返答だった。
「もういいぞ良観!日魅在先輩もありがとう。一旦大丈夫だ。手数を掛けた」
「いや、これくらいなら全然良いけど……、これ何?」
何を調べていたのだろう。
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