61.さっぱり分からない part2
ええー…?
噂をすれば、なんだけど、テンションに変わりも曇りも無いの、本当に大物だなコイツ。
「ここですニークト先輩。角っこなんですから、分かりやすいでしょうに」
「五月蠅い!オレサマは平民の席順など一々憶えん!」
「あ、さいですか…」
教室にズカズカと乗り込んで、俺の席の前まで足早に歩くニークト。
早速決闘のやり直しか?
今は昼休みだから、これからすぐって事は無いだろうが…。
それとも日程が決まったから知らせに来た?
色々考えながらも、立ち上がって身構えた俺は、
つむじを見ていた。
ニークトの。
何でそんなものを見ているかと言えば、
「謝罪する。この通りだ」
ニークトが、頭を下げたからで。
「………えっ…あっ…」
はい?
「お前に戦う力が無いと言った事を……、取り消す…。お前は強かった、少なくとも、俺なんかよりはな…!」
「は、はあ…」
「オレサマの、見込み違いだ」
「あれ、でも、決闘は、無効に…」
「だが約束は約束だ!オレサマは学園の決まりに迎合したのではない。学園の仕組みを、決闘の場に利用したに過ぎない。公的な判断がどう言おうと、オレサマは真実を知っている…!オレサマとお前で合意した条件を、お前は達した。これは、オレサマとお前の決闘だ、そうだろ?」
屈辱で歯噛みしてはいるが、出て来る言葉はどこまでも真摯だ。
その姿を見た俺の胸で、チクチクと育つ鋭利な形状。
罪悪感。
あの勝利は、カンナありきだった。
大詰めという場面でカンナが俺を強化し、劇的なまでの戦闘能力向上を起こし、その衝撃が、あの一方的なラッシュに繋がった。
最後の戦いだって、ニークトが理性を持ったまま、続ける事を選んでいたら、どうなっていたか分からない。
俺を自分より弱いと断じた、彼の見立ては実は正しい。
俺は実際に、「不正」で勝ったのだ。
少なくとも俺は、それを知っている。
だが彼のように、潔く認める事も出来ない。
カンナの事を、知られるわけにはいかないから。
「条件は、取り下げる…!白取先生にも、既に伝えて来た。オレサマには、お前の新跡開拓部入部を止める、権利も意思も無い…」
「それは、ありがとう、ございます…?」
で、良いのだろうか?
俺が言うべきは、それだけか?
「ただ、お前が無謀だと言った事、それ自体は撤回するつもりはない!お前は強いが、
「俺が言っても、負け犬の遠吠えだがな」、一方的に伝えて、ニークトは踵を返した。
「に、ニークト先輩!」
俺はこのままではいけない気がして、何かを言おうとして、
「そ、そういえば、彼はどうしました?ずっと隣に居た……」
だけど、何も言葉が見つからなかった。
「……八守にも謝らせたいのか?」
「違う!違います!ただ、ちょっと、気になって…」
振り返ったニークトは、眉の端を下げて、困ったような顔をした。
「奴はお前を良く思っていない。故に顔を出さなかった。だが、悪く思わないでやってくれ。オレサマが『好め』と命じれば愛し、『恨め』と命じれば憎む。それが奴の役目だ。奴はオレサマの所有物。その責は全てオレサマが受けよう。奴の分も謝れと言うならここで——」
「いやいやいや!要らない要らない!全然大丈夫!気にしないでください!」
「む、そうか。じゃあなローマ…カミザススム!もう二度と顔も見たくないが!」
そうして今度こそ、ドシドシ出て行ってしまった。
「やったね!カミザ君!これで正式に、新開部の部員だよ!……カミザ君?」
「ああ、うん、そうだな。うん、めでたい」
「大丈夫?」
「あのさ、詠訵、教えて欲しいんだけど」
俺はどうして、そんな事を聞くのだろう。
「あの、八守って、たぶん中等部の、あいつって」「あ、カミザ君、違うの」
違う?
違うって、何が?
「八守君は、ウチの生徒じゃないんだ。ニークト先輩が言ってた通り、先輩の所有物扱いで、学園内でも同行が許されてる、お付きの人。ルカイオスが通した、無理の一つなの」
「そう、なんだ………」
そうなのか。
そうだとして、
俺はどうしたい?
どうして聞いた?
よく分からない。
(((苦しんでいますね?ススムくん)))
カンナ。
姿は見えない。
けれど肩に手を置いて、背にもたれて来る感触がある。
近くであの可憐な口が、カーテンみたいに囁く、その気配がある。
(カンナ、あの)
(((ススムくん、お
(えっと、でも、)
(((あれ、
(だけど、これで——)
——これで、良かったのか?
だから、何が?
お前は何なんだ、日魅在進。
何が気に入らない。
全部、上手くいったのに、
何が
(((その答えは、貴方しか知り得ません)))
知っているような口振りで言う。
本当に知っているなら、教えて欲しい。
けれど彼女は、それを許さない。
俺に答えを探させる。
(((向き合いなさい?他者と、己と)))
「それが、次の課題です」、
耳元で吹く風が、
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