61.さっぱり分からない part1

「納得いかないよ…!」

「そ、そうは言ってもなあ…、学園側の判断だし、ルールはルールだから…」

「本当にそうかなあ?絶対偏見入ってると思うんだよね。『勝てるわけないー』『何かの間違いだー』って」

「き、決め付けはよくない…」



 波乱だらけの決闘の翌日。

 俺は数日の間眠ったりなんて事も無く、あれから2時間くらいしてから保健室で起きて、今日から普通に登校している。

 ああそう言えば、白取先生が保健室教諭だったのには驚いた。寝てる間に改造とかしてきそうなビジュアルなのに、普通に何事も無く解放されたのも、ちょっと拍子抜け……いや、これは失礼か。

 

 ただ、質問攻めにはあった。特に、体表面の魔力流出口からの噴射技能、これを急に使い始めた事に、大いに引っ掛かっているようだった。

 俺は「これまでの応用として思いついた」、と言い張った。“魔人窟イヴィル・ビル”のZ型と戦った配信のアーカイブまで見せて、「ほら、魔力の破裂方向を限定して、ジェットみたいに使うのは、前からやってましたよ!ただ体内からやった方が、色々都合が良いって、あの時気付いただけですよ!」と、自然な流れを主張し続けた結果、釈然としないながらも、一旦は納得してくれた。


 そうして、1年B組の教室へ、凱旋気分でやって来た俺を、


 待っていたのは、これまでより色濃い蔑視だった。


 え、なんで?と思った。

 なんかこう、実力を証明する事は出来たし、一躍大人気!とはならずとも、「この間は言い過ぎたよ」みたいなのがあるか、少なくとも気まずく目を逸らされたりするか、と思っていたのだが。


 みんながみんな、俺を見ると、排泄物にでも出くわしてしまったように、頬や目元を捻じ曲げる。


「うわ、来たよ」

「そんなにまでして勝ちたいかね」

「豚とお似合い」

「詠訵さんと一緒になりたいからって」

「気持ち悪いんだけど」

「そこまでして勝った相手が豚ってのが笑える」

「言えてる~」


 うん、聞こえて来るのが全部不穏ワード。

 どういう事かと、プルプル震えながら席に着いた俺だったが、


「オハヨ!カミザ君、体は大丈夫?」


 一瞬であったまった。いやあ、詠訵は可愛いし良い子だなあ。

 周辺一帯が殺気立ったけど、もう慣れてきたぞ。突き抜けてしまって、面白くなってきたまである。


 ………ちょっと嘘です。まだ怖いです。本気で刺しに来そうな目をやめてください。


「お、おはよう、詠訵。昨日はありがとうな」

「いえいえ」


 俺が気絶してから、次に目を覚ますまで、保健室で待っていてくれたらしい。

 「保健室」とか言いつつ、ほとんど病室みたいな内装だったから、まるで「数十年の昏睡から目覚めた感動実話」、みたいな事になっていた。

 一人でも、俺を心配してくれる人が居るというのは、ネタを抜きにして、心が温かくなる事実だ。


 そして彼女が話してくれたお蔭で、俺への白眼視が悪化している理由が、ようやく分かった。


「カミザ君のボディースーツが、ボロボロになってるのが、良くなかったみたいで…」


 何でも、俺のダメージの割に、装備品の破損が酷かったらしい。そこに、俺の身体検査の結果、肌に細かい火傷痕のようなものが多数見つかったと分かる。そこから導かれる答えは一つ。俺の魔力噴射には、自傷ダメージがある、という事。


 それはそうだ。俺もそこらへんは気をつけて、繊維の隙間を通した上で点火するよう、魔力を操作してはいたけれど、何分初めてやった事。というか元々使う予定が無かったから、目の粗いスーツにするといった対策すら取っていない。更に重ねて、時にはわざと自分の体に、高速の魔力をぶつけたりもしている。驚くべき発見でもない。


 問題となったのは、「体の表面に開いた無数の魔学的孔から魔力が噴射される」、という自傷行為を、ポイント計測システムが、まるで想定していなかった事だ。

 これも、それはそう、案件ではある。身体中孔だらけのローマンじゃないと、起こらない事なのだから。

 で、模擬戦の結果を管理してる教師陣なのか、それともその上のお偉いさんなのか、どこかから俺達の決闘の勝敗に、「待った」が掛かってしまったらしい。


 つまり、「日魅在進は一部の減点を踏み倒していた為、今回の勝利は不正なものである」、そういう結論が出てしまったのだ。


 模擬戦は無効試合となり、その映像もお蔵入り。ニークトの切り札の部分がカットされるのは予想していたが、全ボツになるとは思わなかった。

 そしてそれを、学校内部関係者用のサイト、及びアプリで、大々的に通達した為、話は瞬く間に広がった。

 俺は一夜にして、「プライドを賭けた決闘で不正した、潜行者の風上にも置けないクズ」になってしまった、というわけである。



「ルカイオスの本家とかから、何か言われたんだと思う」

「そんな、ドラマみたいなことある?金持ちからの圧力が、って」

「あるよ。あの一族って何かと強引だし、しょっちゅうニークト先輩の事について、学校にあれこれ言ってくるって、有名だもん」

「“モンスターペアレント”、ってやつ?」

「と言うより、“過干渉”、かな?先輩に愛情がどうとか言うより、“ルカイオス”っていう家名自体のブランディングに執心してる、みたいな」


 強いディーパーを求める丹本政府として、世界でもトップクラスの英傑を輩出する、ルカイオス家との繋がりを絶ちたくない。その為、無茶な要求にも、強く出れない面があるらしい。


「ニークト先輩の編入の話だって、かなりの横車だったし、今に始まった話じゃ」「ストップ!今なんて?」

「うん?どうしたの?」

「ニークトって、編入生だったの?」

「そうだよ?中等部に、それも2年生で入って来て……、ああでもそっか、なんかこっそり通してたから、世間的には知らない人の方が多いよね。あのルカイオス家から明胤に来るっていうのに、箝口令みたいに、全然報道されなかったから」

「それでもずっと通ってんだろ?いつかはバレないか?」

「ルカイオス家の人の顔、誰か一人でも知ってる?」

「………そう言えば、例のチャンピオンも顔を公開してないし、全然知らないな」

「ね?そんなものなんだよ。学園内では有名人だから、生徒が身内に話して、それが波及して…ていうのはあるかもしれないけど、いざネット上にその話が出てきたら、どう思う?」


 ルカイオス家が明胤学園に通学!

 報道はされていないが、実はルカイオスの権力によって、ゴリ押しの後に編入していた!

 これは内部からの情報であり、当時何の報道が無かったのも、国による情報操作が——


「ぜつみょーに与太っぽい……」

「でしょ?そんなの見ても、すぐ忘れるよ」

「で、一部信じた奴が大騒ぎして、それを見て『ああヤバい奴が言ってるなら陰謀論みたいなもんか』って、増々信憑性が失われていって…」

「そうそう、そんな感じの流れだと思う」


 そう考えると、俺も編入するまで知らなかったしな。

 インフルエンサーが言えば違うかもしれないけれど、明胤学園生かつ人気配信者だなんてストロングスタイル、詠訵を入れても片手で数えるくらいしかいない。どれもゴシップとかどうでもいいタイプだろうし、あんまりそういう話はしないか。


「それじゃあアイツ、まだここに来て4年目とかで、俺に『相応しくない』とか言ってたの?逆に凄いな」

「そうなんだよね。自己肯定感が強いって言うのかな。自信だけはある、って感じで」

「その心臓の強さは見習いたい」

「孤立してパーティーが組めないのも、『先輩が言うんですか!』みたいなところもあるし」

「うん?一部の層には人気ある感じじゃないの?金と権力に寄って来る人とかも居るんじゃ?」

「うーん、この学園だと、ズルい人には敬遠と嫌悪が先に来る、って考えが多数派なんだよね…。パーティの事を真面目に考える人は、そんな風に思われてる生徒に、自分から近づきたくないと思う」

「でもなんか取り巻きが居ただろ?ああいう手合いを、家名の威で従えているもんだと」

「あ、それは違うよ。あの子は——」



「おい!カミザススム!何処だ!出て来い!」

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