58.革新とは基本の先にあるものだ
「まず、私と貴方の認識、そこに存在する齟齬について、共有しておこうと思います」
時間制限付きであるのに、いつもと同じく、持って回った話し方。
格好と言い、緊張感があるのかないのか、心の置き所が迷子になる。
「貴方は一つ、私の課題を、保留状態にしています」
「ほ、保留?あれ?なんか後回しにしてたっけ?」
「“
???
「あ、あの~、それは完了してますよね…?あのダンジョンは、今や複数回踏破してるよ?」
「そこで一つ、これは私が謝らなくてはならないのですが」
え、なにこわい。
「私が想定していた解決方法と、貴方が提示した答えとが、相違していたんですよ」
えああああああ!?別解!?中学入試の時に聞いたやつ!!
作問者の意図に反して解答が複数あるやつ!
それが同じ大問内の小問二問目とかで来ちゃったから、三問目以降の答えが全部違っちゃうみたいな!!
「え!?どこから!?どこからズレてる!?」
「魔力流動による、銃弾防御、までは予定通りでした。ですが——」
「回転刃は、違う…?」
「更に言うと、相手体内への魔力侵入、そしてその遠隔操作も、より後の段階で、追々授ける予定でした」
そっからあ!?
「いやでもあの時!」
「あの時」、俺の脳裏にその光景が再生される。
{敵体内魔力侵入を初めてやった時}
「どうだ!これなら敵がデカくても、首とか頭とかに切り傷を作れば殺せる!これが答えだあ!」
「ふふふふふ」
「い、いやあ、そんなに喜ばれると、照れるって言うか…」
「さあどうぞ、次の敵へ。まだ実験段階でしょう?」
「うん、そうだな!」
{高速回転魔力刃を初めてやった時}
「どうだ!これなら敵が硬くても、防御の上から刃を通して傷を作れる!これが答えだあ!」
「ふふふふふ」
「い、いやあ、そんなに喜ばれると、照れるって言うか…」
「さあどうぞ、次の敵へ。まだ実験段階でしょう?」
「うん、そうだな!」
正解とは一言も言われてない!?
っていうか俺は何デレデレしてんだ!?
カンナが俺を見てツボにハマってる時は、俺が何かやらかしてる時だろうが!気付けバーカ!
「一応聞くけど、修行プランが組み直しになるのに、どうしてあんなに楽しそうに?」
「いやあ、このまま行ったら、何処で痛い目を見るのか、ちょっと試してみたくなりまして」
「でしょうねえ!」
鬼!悪魔!目に毒!グラマラスモンスター!
「疑義は氷解しましたか?」
「だ、騙された…!」
「失礼な。貴方が勝手に、勘違いしただけです」
詐欺師はみんなそう言うんだ。
「………待てよ?じゃあ俺が今持ってる能力で、大型モンスターを殺す方法が、他にあるってこと?」
「そして、今の貴方に必要なのは、その技術の方です」
ここに来てちゃぶ台返しである。
俺が編み出したやり方は、裏ルートみたいなものだったのだ。
まだ、今の段階で、出来る事がある。
が、皆目見当が付かない。回転刃だって、俺なりにウンウン頭を捻って、なんとか形にした手立てなのだ。これ以外に、何が?
「ススムくん。こう考えては如何でしょう?」
カンナからの助け舟。
迷宮を導く糸口。
「甲冑を着た相手には、どういった攻撃が有効でしょうか?」
鎧兜を着た兵士を想像する。
俺がやったのは、構造上必ず存在してしまう、関節部などの急所を狙うこと。
そこから離れろ、って言ってるんだとしたら?
それ以外に、やり方は………
「……打撃?」
内まで響くような、大きな衝撃でぶん殴ること。
「思い出してみてください。そもそも貴方の攻撃力不足を、体内魔力操作によって補う、という話でした。そこから体外魔力の精密操作へと、話を移してしまったのは、
「はい、そうですね、俺が勝手にやりました」
身体能力強化で、その話終わったって、そう自己完結してました。
陳謝。
「………ちょっと待てよ?でもニークトの鎧は、普通の金属製防具と比べて、打撃に強いんじゃないか?」
あれには血肉が通っている事を考えると、軟体と液体が衝撃を吸収するようになっている筈だ。猿の鎧は、全力で蹴れば曲げたり砕いたりできるけど、あれにパンチやキックが通用するか?
「ですから、貴方の身体強化と、それを利用した攻撃を、次の段階へ押し上げる、という話をしているのです。幸い誰かさんのお蔭で、敵の防備は別に
「これが、今回の勝ち筋です」、彼女は言うが、しかし俺の身体強化は、使える魔力が限られる。これ以上上乗せするって、どうすれば?
「それをこれから、実践して頂きます」
「ほら」と、挑発するような仕草に従い、俺は立ち上がる。
「私の言いつけを、守っていますか?魔力の通り道、体外への排出口、それを感じ取るように、と」
「あ、うん、それは、やってる。大体の位置だったら、答えられるけど………」
「宜しい。それでは、始めますか」
「始める?始めるって何を——」
くらり、
立ち眩み。
おっと、急に立ち上がったから、自律神経がうまく働いてないのか?
そう思って、左足で身体を支えようとして、
力が、入らない。
そのままバタリと横倒れ。
「…!?……!?………」
な、なに?なにされた?
「油断が過ぎますよ?ススムくん」
「か、んな……?」
説明を求めた俺の眼には、地面と平行に伸ばされた、刀身めいてスラリと艶めく左脚。
背が少し傾けれ、頭を低くしているカンナの姿勢まで見て、俺は理解した。
蹴られた。
上段回し蹴りだ。
脳ミソを揺さぶられて、全身が一時気を失っていた。
「ちょ…、あの……」
「ほらほら、時間が無いんですから、立ってください」
言いながら歩み寄って来たカンナは、俺の両脇に手を入れ、無理矢理直立二足歩行まで戻す。
「その歳で、『あんよはじょうず』、してあげないと、いけませんか?」
「う、るさ、い、な……」
なんとか反抗的態度を取れているものの、混迷と死に体の極致だ。
フラフラになりながら、立っているのがやっと。
だが理解が追い着くのを待つな。
相手はカンナだ。
俺が復帰し切る前に次が来る。
ほら来た!
顔の右に腕を立てることでのダメージ軽減がギリギリ間に合った、んだが、その防御の上から脚を振り抜かれ、再度蹴り倒される。
視界ギリギリの端っこで、くるりと一回転し、華麗に止まったカンナが見えた。
ちょおおおお、俺今何されてる?これ何の時間?
頭をガンガンに叩かれ過ぎて、夢なのに意識が混濁して来た——
「はあい、朝ですよ?お早うございます」
「ォオッ!?」
背中をぐりぐりと踏みにじられ、頭の霧が晴らされる。
はっきりとした感覚が帰って来て、手足をゾクゾクと駆け巡る、甘い痺れに苦しめられる。
「お、おしえご、への、ぼうりょく、はんたい……」
せめて教えて。
これ何をどう鍛えてるの?
「ススムくん、私は既に、足掛かりを呈示しています」
一切の慈悲無く、彼女は言う。
「後は、殴られ乍ら、考えてください」
ニッコリ笑う、その顔が語る。
俺が正答を見つけるか、それとも脳が限界を迎えるか。
どちらかでしか、この仕打ちは終わらない。
左下からのニークトの斬り上げ攻撃に最小限の通行料だけ払いながら右前方へ。
奴は俺の位置は分かっているだろう。が、どんな動きで何をしてくるか、そこまで細かい事は分かるのか?よし、振り向いて確認したな?その為に一歩引いたな?
俺のナイフを受けるか?大した損害ではないと?
いや、プライドの高い、いいや、強者としての誇りを持つお前なら、無傷で勝って、俺に力の差を顕示する筈。
だから、俺のナイフが届く前に、俺を叩き飛ばす左手でのカウンター、それを選ぶ。
俺は拳の先に纏っていた魔力を破裂させて右手を引き戻し、奴の左拳を止める。そこに受けた勢いを利用して左ストレート。威力もスピードも不足している上に、奴が左の爪を引きながら腕を畳めば、それで止められてしまう。
ああ本当だ。情報って言うのは、こんなにも強い。
たった一つ、相手の知らない隠し玉。それを持っただけで、相手が思い通りに動く。
本当に理不尽な事で、すまない気持ちもあるのだが、
ニークト、
お前はその左手を、軽視してはいけなかった。
体内で作られた魔力を、そのまま手足に通しても、限られた効果しか発揮しない。魔力を止めて、固めてから流す事も可能だが、長い間その状態を維持できない為、多少強力になっただけで終わる。それに、塊を大きくし過ぎると、繊細な操作まで失われてしまい、身体強化に使えなくなってしまう、なんて事も起こったりするのだ。
だから俺は今、魔力結集の方法を刷新した。
体内で魔力を移動させながら、一部をそれの運搬の為の動力として使う。
血管や魔学的トンネルを伝ってぐるぐる周回させ、後から後から新たな魔力を合流させる。
流動促進の為に僅かずつ消費されながらも、生産量の方が多いので、総量は雪だるまのように大きくなっていく。
けれども、一つの大きなエネルギー塊ではなく、別々の細かい魔力達全てに、単純運動をさせているだけ。だから、精密動作も失わない。
その中から必要な分だけ進路を変更させ、必要箇所に流す。
離合集散が激しい運河での、輸送ゲームだ。どこに、何を、どれだけ運ぶか。それにはどのルートから、どの分岐を行くのが最短か。それを把握したからこそ、この強行軍を押し
これにより、準備の時間さえあれば、今まで以上に強力な身体強化を、切れ間なく行う事に成功。
だが、まだ足りない。
こんなものでは、あの狼を殴り殺せない。
もう一工夫。
例えば左腕を強化する為、そこに魔力を回しながら、それ以外に使う分も、同時に運用する事が可能。
「それ以外」?
それは何か?
ニークトを狙った左拳は、身体強化によって元から豪速であり、
左肘内部からのロケットエンジンめいた魔力の噴出によって、
攻撃の途上で急加速!
ぶち当たった感触!即座に拳から魔力を逆噴射して拳を引き、逃さず敵に押しつけられた衝撃が、ニークトの鎧を貫き破る!
そうだ。
俺には魔力の漏れ出る穴が、至る所に開いている。
だったら、そこを通して体表まで運び、方向を制限した魔力炸裂を起こせば、
それらの
行くぞニークト…!
これからお前が戦うのは、
全ての攻撃をジェットスラスターで加速させる、
全身穴だらけのスーパーロボットだ!
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