53.ま た 会 っ た な part1
俺と詠訵の二人でパーティーを組む事には同意したが、配信上でもそれでやっていくのか、それ以前の問題として公表するのか、といった論点は、
「どうせさっきから見てる誰かが、すぐにネットに流しちゃうから、早めにこっちから言った方が、良いと思うんだ」
という一言で一掃された。しかもその場で、SNSの
『お報せです!
くれぷすきゅ~るチャンネルに、なんと!固定のパテメンができました!
どうなるかは未知数だけど、上手くいけば出来る事がぐんと広がるから、まずはやってみます!
物は試し!挑戦あるのみ!応援よろしくね!
詳細は追って配信します!』
善は急げを絵に描いたような早業。恐るべき行動力である。俺よりよっぽど怖いもの無しだぞこの人。
「俺もなんか言った方が良いか?」
「どういう形が、納得して貰いやすいかなあ?」
「うーん、まずは詠訵の配信で、しっかりリスナーに報告した後で、俺の方からも情報開示する、って流れが、まあ、無難か…?」
こればっかりは、ちょっと無責任だが、先に彼女から説明して貰った方がいい。
両方同時に説明するよりは、本人から確定情報を出してから、俺が追認する形にした方が、衝撃を幾らか減らせる、筈、多分。
どこまで本当なのか、という混乱も抑えられる、と思う。
緊張して来た……いや、覚悟を決めろ、俺。
詠訵が言う「ファン」にだけでも、「こいつなら“く~ちゃん”の役に立つ」、そう思わせるような活躍を見せるんだ。やるからには、一人でも多くを楽しませろ。
「あ、そうだ」
内心で決意を新たにしていると、詠訵が「忘れてた」という軽い調子で、
「連絡先交換しよ?」
「うん、え?」
連絡先か。パーティーを組むなら確かに、ダンジョン外での連携も発生するし、“ホウレンソウ”が大事的なのも聞いた事がある。
どのダンジョンにいつ潜るのか、といった事を決めるだけでも、わざわざ会う必要が無くなるので、利便性が上がる。
って言うか、普通そうする。“
…えーと、あのー、詠訵さん?さっきから一発一発の火力が高いこと、気付けてますか?
相手が“く~ちゃん”だと、「連絡先を聞く」という発想が、完全に消し去られていた。なんか知ったら罰が当たりそうで「うん、ありがとう。試しに何かスタンプとか送るね?」
「……ハッ…!」
あれえ!?体が勝手にフレンド申請用QRコード出してる!?え、いま、女子のIDゲットしてる?これ?うわ!トーク履歴に公式と居住区職員さんとじいちゃん以外のアカウントが並んでる!初めて見た!カメラマン時代の雇い主?低ランク狩りディーパー?あいつらは履歴が消えるタイプのSNS使ってたから………
「どうかな?ちゃんと届いてる?」
「ああ!うん!オーケーオーケー!」
「そうじゃなくて、カミザ君からも何か返してみてよ」
「あ、ああ!そういうことね!はいはい!ちょい待ち!」
俺は急いで彼女からの「物は試し!」スタンプに、「日魅在です。よろしくお願いします。」と返信した。
「プフッ、え?なんで文字上だと堅い口調に戻っちゃうの?」
「あれ?いや、一応ビジネスのやり取りだから、そこはしっかりした方が良いのかと…」
「もう!私達友達でしょ?もっと肩の力抜こ?」
「ともだ…!???!」
“トモダチ”!?え!?あの伝説の!?空想上の生き物じゃなかったの!?こんなに簡単に手に入っていいのか!?
と、距離詰めのスピードに振り落とされそうになる俺には気付かないように、スマホの画面を見ながらホクホク顔の詠訵。………まあ詠訵がいいならいっか!俺達友達!
「ウフフ……はっ!ごほん。そ、それでさ、カミザ君!」
俺の内心の葛藤の終結と時を同じくして、彼女は更なる提案を思いついたようだ。次は何ですか?ここまで衝撃展開ばっかり過ぎて、グロッキーな俺はもう何でも受け入れる所存です。
「カミザ君って、部活とか、考えてる?」
「部活?ああ、そう言えば、そういう制度あったなあ…」
ほんの1、2時間前まではボッチ確定だと思っていたので、放課後はダンジョンに入り浸るつもり全開だった。
あと、俺はカンナに恩を返さなきゃだから、あんまり遊んでるのもなあ、という思いもある。
(((心配御無用ですよ、ススムくん。足りない分は、夜に補えます)))
(サボッたら悪夢確定ってことじゃん!)
まあ話を聞かない事には、判断も何もないか。
「部活って、スポーツとか、そういうのだっけ?」
「うーん、他の高校と比べると、普通のスポーツにはあまり力を入れてない、かな?ほら、公式大会って、基本はディーパー参加禁止だからね」
「あ、そりゃそうか」
「でもボルダリングとか陸上競技とかは、潜行に繋がる物があるし、単純な体力・身体作り系とか、格闘技関連も人気だね。一番規模が大きいのは“ギャンバー”部で、丹本有数の強豪…ってこれは流石に知ってるよね」
“ギャンバー”、つまり試験の時の模擬戦みたいな奴か。あれをフルメンバー6対6でやるんだよな。明胤としては、それが強くないと面目潰れるだろうし。
「体育会系以外だと、化学とか生物とかの理科系と、あとちゃんと文化系もあるんだ。そういうので言うと、特にダンジョン研究・魔学・民俗学辺りが盛んだね」
「イメージ通り、って感じだな」
「で、カミザ君にオススメしたいのが、今私が所属してる部なんだよね」
明胤の部活は、初等から高等部まで誰でも入れる物と、分かれている物があった筈だ。ってことは、詠訵が言ってるのは前者のタイプなんだろう。
「どういう部なんだ?」
「潜行に関する全般、って感じかな。他の部の協力でレポート書いてる人も居るし、魔具を自作してる人とかも居るし…」
自作!?アマチュアでやってる人の存在自体は聞いた事あるけど、学園内の部活動でそれやっていいの!?ってかできんの!?いよいよスケール感が段違いになって来たな。
「何より、部の最終目標が、カミザ君にオススメだと思うんだよね」
「最終目標?」
「うん、うちの部、“
——“深化”について調べてるんだ。
(((ほぅ?)))
“深化現象”。
潜行者が体験する、「突発的成長」の総称だ。
魔力の貯蔵量が急激に増加したり、魔法の性能が上がったり、そもそも魔法の形が変化したり、そういった不可解な強化。
実は、「こうすれば深化できる」、みたいな法則性は、未だ発見されていなかったりする。
魔法の初期状態での強力さは才能が大きく、ダンジョン内で戦闘を重ねれば、強くなりやすい。ここまでは確かだ。
しかし効率に個人差があり、同じ敵を倒してメキメキ強くなる者も居れば、まったく変化の無い者も居る。かと思えば、ある日突然後者が爆発的に伸びて、前者を上回る事さえある。
それもまた生来の物なのか?だったら遺伝子?ダンジョンや敵による?急に変化するのはどう説明する?等々、謎が謎を呼んでいる。
ダンジョンに“選ばれた”、なんて言い張る勢力も居るのだ。
「“深化”のメカニズムを考えながら、強いディーパーを目指そう、っていうのが基本理念なんだ」
「なんと。大きく出るなあ」
どうだろう?
結構気になる部分だし、「より強くなろう」っていうコンセプトも、今の俺と同じ方向を見てる。良い感じに、ぴったりな部な気がしてきた。
ところで、確認なんだけど、
(カンナ?もしかして、どういう条件か知ってる?)
(((…さて、
知ってるだろうな、こいつなら。
まあ彼女が教えないなら、少なくとも今は必要無いのか、それか「自分で見つけろ」って事なんだろう。そういう面でも、詠訵の部は魅力的に映る。
「かなり面白そうだって思うけど、俺が入るの拒否されたりしない?」
「そこは相談だね。まずは、ちょっと覗いていかない?私が案内するよ?」
「いいの?じゃ、お言葉に甘えよっか」
実を言うと、どんな事やってるのか楽しみで、内心ウッキウキだったりする。
未知に挑むって、こう、ロマンがあるよな。
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