52.黄昏少女、かく語りき part2
「私が思う『ファン』の方からお金を受け取ってるのは確かだし、そこは責任を果たしたいから、そう簡単に活動を辞めたりしないよ?けど、『よく平気な顔で、人に媚を売れるな?』、なんて言われても、私にはどうにもできないんだ。
確かに見た目に気を遣ってるし、映像を盛り上げる為に、単なる潜行ならしなくていいアクションとかもする。けど、それは誰かを誘惑する為じゃなくて、『見てる人を不快にさせない』『楽しませる』為の最低限の礼儀。
そういう意味なら、友達に『その見た目なら配信者やれるよ』って言われて、『私の外見は、ちゃんと整えれば、人に不快感を与えないんだ』、そう思った事も、配信者になったキッカケの一つって言えるかな。
ほら、ダンジョン配信に限らず、人好きのするアニメ風アバターを使ったり、ゲーム上手い人が効率優先じゃない、魅せるプレイをしてみたり、そういうのと
それでも不快に思う人は居るだろうが、それは感性が合わないのだ。
「強いダンジョン配信者」に絞っても、くれぷすきゅ~るチャンネル以外に、大量に候補が居る。そちらを見に行けばいいだけという話。
「それに、私を勘違いしてる人、嫌いな人の言い分を聞いて、それであまりに無難にまとまっちゃったら、それは、私とファンのみんなとの『お約束』を、逆に破る事になる。そっちの方がダメだって、私は思うんだ」
し、しっかりしてる…。
自分が何の為に何をして、何が出来て何に応えられないのか。言語化できる程、それにしっかり向き合っている。
だが、それでも腑に落ちない。
「詠訵にとって、それが大したダメージにならない、っていうのは分かった。でも、波風が立つ事には変わらない。インターネットってのは広過ぎて、何が起こるかいつだって分からない」
「確かに、予想外があるかもしれないね」
「身バレの危険だって、グンと高くなる」
「カミザ君、有名人だからね」
「それを押してでも、俺とのパーティにこだわる意味ってなんだ?リスクとリターンが釣り合ってないだろ?」
今まで聞いたのは、「別にそうなっても問題ない」、という話でしかない。「そうなったとしても、こうしたい」、そういう動機が見えて来ない。
「うーん、そうだなあ………」
言葉を探すように、彼女は少し高い空を見上げ、
「『この人なら、恐れない』、って思ったからかな」
「うん、そんな感じだね」、一人納得したように満足する。
「『恐れない』……?俺って結構、痛がったり怖がったりするけど?」
「なんて言うのかなあ?どんな時でも体は動く、って言うのか、自分で『こう!』って決めたら真っ直ぐ、って言うのかな…。その判断基準も、しっかり考えて、危ないって分かった上で、『それでも』って進むから、盲目なんじゃなくて、『怖い』事に向かっていける強さ、みたいなのを感じたんだよね」
「お、おぉう………」
べた褒めである。
カンナの功績でもあるし、過大評価なのだが、それはそれとして、素直に舞い上がってしまう。
「特に、ホリブルの9層以降を配信で映したこと。他の人が情報を出したがらない層を、誰にでも公開するって、私もやってみたかったんだけど、正直怖気づいてた」
「いやまあ、それも正解だと思うし、俺の場合は結果論だから」
「それでも、色んな人に睨まれること承知で、ファンと、自分の信念を第一に考えて、実行してたよね?だから私、『ああ、この人は、そういう決断が出来る人なんだ』、って、そう思った。
私の隣で戦うのは、こういう人が良い、って」
「『決断』、か………」
俺はあれこそが、俺にとっての答えだと思った。
だけど、誰かの迷惑になる可能性は高かったし、現にごく一部からは不満が出てる。
「俺はそれを考えた上で」、そう言ったところで、向こうにとっては、知った事ではないだろう。
だから、それを「決断」だと受け止めてくれる。それだけで、心が幾らか軽くなる。
「どうかな?私にとってこの提案は、デメリットなんてないんだ。でも、そうだね、カミザ君にとっては、そうじゃないかもしれない。私のコンセプトとか、人間関係とかを勘違いしちゃった人が、カミザ君に恨みを持って、攻撃してくるかもしれない」
「それも踏まえた上で、私とパーティーを組んでくれますか?」、彼女は、「お願いする」立場を崩さなかった。
「……少し、考えるから、5分くらい待ってもらってもいいかな?」
「うん!5分と言わず一杯考えて!」
さあて、しっかり頭を使おう。
詠訵が「問題無い」と、様々な角度から念押しした以上、詠訵の側に断る理由を求めるのは、不誠実な気がする。
だからこれは、「俺がどうしたいか」、それで決めないといけない。
俺から見ると、「アンチ化した人間が雪崩込んで来る」、これがデメリットだ。
だが正直、これは俺にとっても、割とどうにでもなる。
クラスメイトから、完全に敵視される、これも同様だ。
ローマンになった時から、ネット・リアル問わず、無条件アンチが沢山居た。今更1、2万人程度増えたところで、誤差みたいなもんである。
それに、収益化が通っていない、通るとも思えない現状、俺にとっても配信は「趣味」の領分。何か間違えて失ったところで、俺がすっごく残念な気分へと落ち込むだけだ。損も害も無い。
第一、リスナーのみんなは、俺が女の子と一緒に居たからって、「だから何?」だろう。「ガチ恋営業」みたいな事もしてない——それをしてる自分を想像して、少しキモチワルくなった——し、そういうニュースが流れても、「ススムが?ないない!あいつモテないから!」みたいな負の信頼が先んじる。
………俺そんなに童貞っぽいかな?
(((ええ、それはもう)))
う、うるせえ!
こういう時だけ素早く駆け付けやがって!引っ込め!
(((はあい)))
それはともかくとして、
じゃあメリットはどうか?
「可愛い推しと共闘できる」、っていうオタクの夢を考えから除外しても、
「パーティー加入問題」が解決する、これは大きい。
集団戦の経験が無いのは、ディーパーとして大きな問題だと、さっきの問答で発覚した。それを成長させようにも、この学園内では、俺に人が寄り付かない。
これを逃せば、今後どこかに参加できる可能性は、ゼロ、って断じてもいいかも。
現時点で、俺は敵を作り過ぎているのだ。
………うん!
よし!
足りないのは、俺の覚悟だけだ!
そして今、それを褒められてしまった以上、
ここで退くなんて、不恰好はナシだ。
「分かった」
「え!?」
「俺で良ければ、詠訵の手助けをしたい。よろしくお願いします」
俺は立って、頭を下げようと、「ああ!そうじゃなくて!」
「え?」
「私達は、利害の一致、対等、でしょ?」
だから、
「はい、よろしくね」
彼女が右手を開き、俺に向かって差し伸べて来る。
あの?
これは???
「あくしゅ!」
「はい!」
言われるがまま握ってしまった。
ウォッ!?
柔らか!あったか!すべすべ!
あったまる!これ!過度にあったまる!
ヒト科ヒト属ってレベルじゃねえ!
ホモ・サピエンスならぬモットモ・ハッピーデスだ!
(((………そろそろ、私の堪忍袋も、「あったま」って来ましたね)))
ごめん。
理性を主神に捧げてた。
ホント申し訳ない。
(((まあ、この展開も面白いので、良し、としましょう)))
寛大なお心——
(((これから三夜、夢の中での特訓の、死亡率を上げさせて頂きますので)))
本当にごめんなさい悪魔め!
カンナに大いに詫びながらも、
俺の脳は、困難と幸福が混じったこの出来事を、どう処理していいか迷走し、
しばらくバカみたいに、
彼女の手を振っていた。
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