50.一々ご高説ごもっとも part2
「話を戻すが、弱体化の原因は想像に易い。あの時、あのダンジョンには、世紀のイリーガルモンスターが出没してた。それはA型でさえも動乱させるような、強大な力だよ。崩落現象も、A型が階層を越えて逃げ惑った結果、空間的な歪みが発生した事が原因だろ」
確かにその考察は、俺も聞いた事がある。まあ説明としては、そんな感じだと収まりが良いだろう。
「A型は当然、自身の身を守る為に他のモンスターを使う。特にD型以上の上級モンスターは、欠かせない主要戦力だろ?けれどもD型は既に、イリーガルか、他のディーパーか、何者かによって、討伐されてた!」
(そうなの?)
(((………ススムくんは、自分が何時、何処で、どんな種類の蟻を何匹踏み潰しただとか、憶えていますか?)))
(あー、はい、理解)
知らずに殺してるのだって有り得る、と。
「だから
で、そろそろ結構育ってる頃合いかと戻って来たら、何か弱っちい奴に殺されてて、キレたA型は俺をボコしつつ、その場に戦力を全て吐き出し、来たる脅威に備えた。
A型を狩り尽くしたりはしていない、というのはカンナに確認済みなのだが、それじゃあ他のA型は何をしていたのか。きっと、戦う意思を喪失していなかったのが、あの個体だけだったのだろう。
「A型に襲われてから、イリーガルの介入で有耶無耶になった事まで含めて、全部がそうだ!お前は不幸面をして!最初っから最後まで!恵まれてたんだ!そしてそれを分かってもいない!だから、恥知らずにもここに来れる!」
論理は分かって来たが、しかしそれは呑み込めない。
俺だって、色んな人の期待を背負っている。彼らは、考え無しな事もあるかもしれない。けど、俺がやる事で感動してくれた、俺のリスナーだ!
カンナも含め、みんなが楽しみにしてくれている。
俺の事を、だ。
頭を使って、身体を張って、じいちゃんにも支えられて、それでもやりたい夢があって、その為の手段を、ここで学べるかもしれない。だからあれだけ頑張った。
流れだけで、ここに来るのを決めたわけじゃない!
「はいそうですか」と、引き下がるつもりはない。
彼らが押してくれた、「カミザススムは強い」という太鼓判を、嘘にするわけにはいかない!
「俺が無謀なのも、ラッキーだったのも、程度の差こそあれ、知ってましたよ。それでも、『恵まれてた』ことなんてありません。障害と挫折だらけでしたし、俺はそういう俺の問題を、自分で解決してここに来ました!今俺が居るのは、覚悟と努力あってのものです!」
「分からん奴だなあ、ええ!?虚飾の成果の上に成り立つ、無駄な覚悟と努力はするな、って言ってんだよお!オレサマはあ!」
「無駄なんかじゃありません!それに!ここに入ったのは!正式な手続きの上です!俺の実力も成果も!学校側に認められました!」
「どーだかなあ!?ただローマンだから保護されただけだろうがあ!魔力テクノロジーに深く関連する珍獣なんぞ、他国に持って行かれて、勝手に解剖されたら困るしなあ!それともあれかあ!?国益の為にお前からその身を検体として差し出してくれるのかあ!?その方が話が早いから、先生方としては願ったり叶ったりだったりしてなあ!?」
「俺はソロで中級ダンジョンを踏破しました!それは俺に、ディーパーという人材としての価値があると、そう証明しています!決して体質だけの人間ではありません!」
「そおれえがあ虚飾だって言ってるんだよお!浮かれチビ
他のダンジョンで!特にウチの高等部が挑む深級ダンジョンで!お前の戦い方は通用すんのかあ!?現にあのD型相手には、今のお前でも傷一つ付ける事が出来ないだろ!?」
「それを解決する為に学校来てるんですよオオブタ先輩!これまで通り新たなやり方を見つければいいでしょ!そういう事考える為の“学問”でしょうが!」
「これまでだって十分奇跡だっただろうがあ!?『奇跡』は何度も起きないから奇跡なんだよ!奇跡頼りの成長なんて、長続きするわけないだろ!?すぐに打ち止めだ打ち止めえ!」
「何でそんな事——そんな事!努力してみないと分からないだろ!」
「努力なんか誰だってしてるんだよ!なんでこの場でお前だけが
お前が配信なんて底辺の慰めをやってる間、誰にも見られずともこの学園の生徒は、来る日も来る日も自らの魔力と魔法と向き合い、自分を追い込み、それで最後の最後、才能の差によって強弱が決まる!そういう日々を過ごして、心から信頼し合えるパーティをフルメンバーで組み、それでようやく深級ダンジョンと互角!そういう世界だ!
それなのに才能時点で!スタートダッシュで大きく劣るお前が!どういう理屈で他と並ぶ程強くなれるんだあ!?
これまでの初等・中等の時間を、ここに居る誰とも共有してない奴が!どうやって他の奴等以上の信頼関係を結べるって言うんだあ!?言ってみろお!!」
「そ、れは、」
クソ、こうして言われてみると、今の俺がまだ綱渡りの途上だって事が分かる。
もう決まった結果にケチつけられるのはムカつくが、個人的にこのデブはいけ好かないが、それはそれとして、答えを出さなければならない問いだ。それも、出来るだけ早いうちに。
が、今の俺には、返せる理屈が無い。
防御が薄い事で有名なダンジョンで、なんとか全種にダメージを与えられるレベル。つまり、場所によっては中級の浅層でも、攻撃を通せない可能性があるってことだ。
そして何より、連携とか絆とか、そういう事を言われると弱る。
ソロでは不足である以上、俺がこの学園でやって行くには、複数人での役割分担、つまりパーティーが必須。だが俺と組みたいって奴は、好悪感情的にも、損得勘定的にも、居る訳が無い。
何より、弱くて新顔な上にローマンだという追い打ちが、余計に打ち解け合いを阻害する。
学校側が無理矢理組ませる事も出来るが、反感を買い逆効果に終わるだろう。
「ぼっちで乗り切る」、それもまた甘えだった。俺は何が何でも仲間を集めなければ——
「あの、先輩」
と、俺らの言い合いに挟まれ、少し小さくなっていた詠訵から、声が上がる。
「何だ!?さっきから——」
「ここに居ます」
「——何だと?」
心を固めたかのように、
大きく挙手し、高らかに
「私が!カミザススム君の!パーティーメンバー第一号です!」
「え」
え
「はあ!?」
「詠訵さん!?」
「ヨミちゃんどうしたの!?」
「何言ってるんだ!?」
「そんなやつ庇うことない!本当だったら全身何かで覆っとかなきゃいけない筈なのに、そいつ手も口も丸出しで来てる!健康被害対策とかエチケットの意識とか、好き嫌い以前に人間性が最低だ!」
「苦労人みたいな顔が上手いだけの詐欺師だ!被害者ビジネスだ!」
「関わっちゃいけない奴だよそいつ!絶対だめだって!」
「近くに居るのも危ないんだ!汚染魔力が
「信用ならないよ!」
「騙されてるって!絶対!」
「ふざけんな!そいつを甘やかすな!何で学園が良い顔する為に、俺達が危険に晒されなきゃならないんだ!」
さっきまでだって結構な混乱ぶりだったが、今回ばかりは上を下への大騒ぎだ。
パブリックエネミーでほぼ決定だった俺に、このクラスのカーストでも恐らく最上位帯に位置する、詠訵ミヨが加勢したのだ。
他のクラスメイト達は、どちらに付くのが秩序側になるのか、分からなくなって大混乱だ。
「………本当に頭がボケたか?ナントカは盲目か?」
「何が言いたいのかは分からないですけど、カミザ君の問題って、私がいれば大抵解決しますよね?私、メインは回復持ち
「余裕ぶってるのかよ?縛りがあってもダンジョンを攻略出来ますって、そう言いたいのか?」
「少なくとも、先輩より遅く明胤に入って、先輩より早くランク7認定を受けた、私の意見の方が、先輩よりも発言力あるって、そうは思いませんか?」
「ぐ…!クソッ!クソックソックソ女!一番ムカつくタイミングで、オレサマに舐めた口利きやがって!いい加減に」
「はあい、すいません遅くなりました。今日はこの後
ようやく、と言うべきだろう。
ようやく、担任が諸々の業務を終えて、教室へと戻って来た。
「あの、ルカイオス君?これからこのクラスのHRなので、出来れば……」
「チッ………、申し訳ありません。すぐに退出させて頂きます」
ニークトは教師に軽く礼をした後、忌々しげに俺と詠訵を一瞥して、
「せいぜい死に急げよ…!オレサマはもう知らないからな…!」
「もう知らないッス!“ジューゴジューロク”ッス!」
「………?ジューゴ…?………、!“自業自得”だ八守ィ!」
「それッス!おさらばッス!」
思い思いの捨て台詞を残し、二人ともドタドタと出て行った。
俺は詠訵に、さっきの爆弾発言について、色々確認したかったのだが、
無情にも着席を促され、そのまま担任の仕切りとなってしまった。
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