45.それでは運命の瞬間です

「って事で皆さんに隠してまで奥の手を用意してたんですけどぉ………」



『負けたのか、ススム』

『やっちまったな、ススム』

『まあ明胤の教師に勝つのはなあ』

『誰が試験官だったとかも言っちゃダメ?』

『あれランク8とか9とか出て来るんでしょ?』

『そんな感じなのにこの放送始めたのか』

『スベるぞ、ススム』



「と、言うわけで、その合否が書かれた封筒がこちらになりますっ!」



『草ァ!』

『草』

『ススム、お前は怖い物無しか?』

『合否通知書開封配信』

『自 分 を 売 る』

『お前はいつもサラッととんでもない事やるな、ススム』

『く~ちゃんに擦り寄るな、調子に乗るなよ?』

『登録者100万越えで何故か収益化が通らないのに、無害アピールどころかアクセル全開なのは好感が持てる』

『収益化が枷になる可能性…いやそれでも色コメ投げさせて欲しいけど』



 正直全然収益化申請が通らないから、ヤケになってる面もあるよね。規約違反とかはした事無い筈なんだけど………もしかして、カンナが映ったのがいけなかったか?

 まあ、あれだ。みんなに色コメ投げられまくったり、収入に更なる余裕が出来たり、そういうのに魅力を感じない、と言えば全然嘘になるけど、どうしても必要というわけでもない。

 今の時点でも、自信とか、活力とか、自己肯定感とか、そういう沢山の物を貰っているので、これ以上は望み過ぎ、という言い方も出来る。


 お金にはならないが、精神がホクホクする趣味として、ありがたく続けさせていただこう。

 それに、貰いっぱなしで終わるのも気が引ける。カンナ相手が優先だけど、やっぱり還元していかないと。

 



 今日は3月14日。お返しデーというヤツであるらしいが、俺にとっては判決を言い渡される日だ。

 ダンジョン帰りに郵便受けを覗いたら、いつぞやの物と似たような封筒が届いており、ワタワタしながら部屋に戻って、大慌てで配信を始めた。


 それでさっきまで、経緯を知らない視聴者の為に、「これまでのあらすじ」を説明していた。と言っても、模擬戦闘試験に関しては、秘密保持契約上、詳細な内容は語れない。グランドマスターの伏せ札を、そう簡単に触れ回られたら困るのだろう。


 いやそれだったら、俺なんかにグランドマスターをぶつけるな。知ってる人だったから対応できたものの、蛸足が出た時はマジでびっくりしたぞ。

 くっそ~倒したかったなあ。最後に何ポイント残ってたのかも、教えてもらえなかったし。

 


「さて、現実逃避は終わりました」


 俺はカッターの刃を出した。


「………開けます!」


『いよいよか…!』

『おねがい!』

『どんな結果でも俺は楽しかったぞ、ススム』

『おちろおちろおちろおちろおちろく~ちゃんに近付くな』

『ススム、次があるさ』

『落ち込むな、ススム』

『ススム、今は黙って泣け』


「いやまだ見えてないでしょ!分かんないでしょ!」


『切り替えていけ、ススム』

『ドキドキしてきた』

『だって…なあ?』

『ススムは初手はコケるからな』

『成功者ススムは解釈違い』


 こいつらァ…!

 

 コメント欄に助けを求めても、普通に現実を突き付けてくるので、神妙に観念して封を切る。


 中には紙が沢山…あ、この一番上の、なんか文字が一部にだけ書いてある。絶対これだ。真ん中に「合格です」とか「残念でした」とか端的に書いてある奴だ。中学受験はネット上に掲示されたのを見る方式だったから、こういうの初めてのパターンだな。

 パンフレット的なのが入ってる、ってことは合格か!?いや待て違う、はやまるな、「これからもよろしく」とか、宣伝的な意味かもしれない。企業の面接だと、落とす人間も顧客ではあるからニコやかに進める、ってカンナが言ってた、あれかも。

 じゃあどっち!?え、どっちこれ?他に判断材料無い?これ何枚入ってる?あこれ入学に必要な書類っぽい(((と見なさい)))はい!今すぐに!

 

「うおおおおッ!」

 

 俺は勇猛果敢に雄叫びを上げ袋から用紙を引き抜いた!

 一番上の紙には——













(((いやだから、いい加減に直視しなさい)))

「待ってまだ心の準備が」


『合格通知書』


「合格?」


『合格通知書』


「ん?『合格』?」


『合格通知書』


「………」

 

 ………………………


「やっ——!」


 腹の底から爆発的な興奮が噴火

「~~~~~~~~~~~~~!!」

 する直前で近所迷惑という概念を取り戻し床にダイブしてジタバタと悶え転がるだけで抑え

「~~~~~~~~~~~~~!?」

 たのだがすねを何かに痛打してしまい苦しみの悶えに早変わりした。


『おい!?どうした!?』

『え!?合格!?どっち!?』

『ススムがシんだあ!』

『画角に誰もいねえ!』

『おーい戻ってこーい』


(((ふっ、くふっ、くくくくく、ちょっと…!ふ、不意打ちは、ふふ、卑怯です…!うふふふふ……)))


 俺が痛がる度にウケてんじゃねえ!という恨み混じりの不平を内心で飛ばした事で、ようやくリスナーのみんなに伝わっていない可能性に気付く。


「あ!すいません!ごめんなさい!あの!見ました!?えっと!」


 なんとかデスクに這い上がって復帰。


『ススム、見えてない』

『何も見えねえ』

『え、嘘だろ?』

『ススム、まず見せろ』

『頭バグってて草』

『おい、マジか、おい』


「あ!そっか!見せてませんよね!えぇっと、こ、こんな感じ、なんですけど…」


 一応文面に目を通し、映す事に問題が無さそうだと確認した上で、『合格通知書』という文字の部分だけ画面に載せる。


『きーーーーーーーーたーーーーーーーーーー!!』

『おおおおおおおおおおおおおお』

『い、えええええええええええええええい!』

『伝 説 更 新』

『お前ならやると思ってたぞ、ススム』

『流石だなススム、俺の見立て通りだ』

『おめでとう、ススム』

『く~ちゃんコラボ決定!』

『888888888888888888』

『うひょおおおおおおおお!!』


「やりました!みなさん!」


 え、これ夢じゃないよね!?

 カンナ!?カンナあ!?

 これ夢じゃないよね!?


(((お望みなら、人の身で受ける一生分の痛みを、与えて差し上げましょうか?)))


 カンナが辛辣だ!現実だな!ヨシ!


(((何ですか、その基準は……)))


「みなさああん、びばばあああん……!!」


『人語すら忘れたか、ススム』

『草』

『草』

『なんて?』

『おめでとーーーーーーー!!』

『¥10000 エア投げ銭です、お納めください』

『ちょっと小躍りしてくる』

『ススムー!何言ってんのか分かんねえぞー!』

『銭を!投げさせろ!還元させろ!』

『泣いてる。冗談抜きで、泣いてる』




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 この日の配信の影響で、大手SNSのトレンドランキングには、「ローマン」「明胤学園」「収益化申請」といったワードが乱立。国内どころか、世界TOP10に食い込む程の制圧力を見せた。


 「カミザススム」というコンテンツの影響力が、たった1年少々でとんでもない成長を遂げた。

 その事をダンジョン配信界隈に、それだけに留まらない世間に知らしめた事例と言えるだろう。







 なお、感極まって号泣していた本人だが、ピックアップワードは「四文字以上の単語」という制限があったが為に、「ススム」と呼ばれ慣れ過ぎた彼の名は、トレンド一覧に乗る事は無かった。

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