39.もうちょっと我が子への情とか無いの? part2
再三の身体強化。
加速。
魔力飛ばしで生まれたばかりのL型に膝を突かせ、頭頂を踏んで陥没させ、反動でA型に取り付く。
剣やら槍やら、この距離だと近過ぎてうまいこと当たらない。とすれば気をつけるべきは短刀だろう。挑戦者を拒むように刃の数々が生え揃い、俺は魔力を纏わせた手足でそれらを掴み、クライミングを敢行。
俺がまた下がってやると思ったか?残念、置いてあるだけの刃物なんて、今更怖くない。
このまま先端まで登り、鎧の隙間からナイフを刺し、その身の内から爆破してやる、
と思っていた俺は急きょ予定変更!
端を掴んで背中側に回り込む!
間に合った、その思考に合わせるように、A型の上体が床に叩きつけられる!
大重量を受けて震動する建築!下敷きとなった部分が粉砕され何枚か畳が飛んでいるが、建物下まで貫通する様子はない。
そして俺は背中に乗れている。
甲冑が
A型は俺を攻撃できない!
このまま直進すれば殺せる!
強化を全身へと回して走り出す俺、の目の前に
立ちはだかり豪速で迫る壁に正面から衝突!
「ゴバァッ!」
今度の回避は間に合わなかった。
まさか叩き潰すのと同じ速度で上体を跳ね上げる事ができるなんて。
攻撃用の魔力に意識を割き過ぎた。敵の動きに気付いてからの防御が間に合わず、W型のコアを装着しておいたシールドジェネレーターが守ってくれたが、それでも鼻から血が噴き出るくらいの重い一撃が残った。
『ああ!』
『まっずい』
『キタ!』
『ススム!』
『シねよ』
『終わったな』
『まだだろ!?』
『ウェエエエイwww!!』
俺は振り落とされるように、背から手を放し宙へと投げ出される。
見えている景色がチカチカして、頭から色んな計画が吹っ飛ぶ。
今言えるのは、一つだけ。
今度の、回避は、間に合わなかった。
だけど、
「攻撃は間に合った!」
ケーブルナイフは既に投げられた。
魔力操作。
首に巻き付ける。
これで喉が絞まってくれるならいいんだけど、やっぱダメか。
「巻け!」
巻き上げ機構作動!俺はまだ背後を取っている!
薙刀で迎えるにも背中越しなら動きは制限される!読みやすい!
という安易な楽観は、もうしない。今それで痛い目に遭ったばかりだ。
案の定、A型は左の後ろ手で、短い鉄砲みたいな物を向けて来た。
こ い つ
散 弾 だ!
念の為の魔力防護膜が破られ左半身が逃げ遅れる!
パーカーとボディースーツによって内蔵には至らず弾かれたが、それでも一時、肉に突き刺さった!
追撃警戒の動体視力強化、それによって俺に命中した物の詳細が見えた。コインだ。いや、
幸い連射はしてこない。
が、弾を込める様子も無い。
魔法で本体ごと生産して自動で補充されると見た。つまり待ってれば次が来る。
魔力を飛ばして追加の銃口を逸らし、
そして遂に、
背中に手が届く!
そこに右手が来る。またまた短銃、ってことは同じく散弾だ。魔力で対処。
首めがけてナイフを、うわっ、こいつ首回りが覆われてやがる。歯が立たない。
左手が戻って来た、魔力で弾く。この方法じゃ勝ち目はない。
足の下で甲冑が急に外れ飛び、背中側から猿共の上半身が起きる、両手に散弾銃、この野郎!じゃない、この
一匹ずつ魔力で弾いていくが、処理が追い付いてない。足と背中の十数ヵ所に裂傷。
だがここで離れると勝機がゼロになる。考えろ。左右の手を弾き、考えろ、下の一丁一丁を弾いて、考えろ。
魔力を流し入れる、ナイフの刃で僅かに拡げた、
鎧の強固さを考えるなら、もっとだ、こんなんじゃ足りない、銃口を弾く。
手数が足りてない、銃口を弾く、どうしても食らう、銃口を弾く、魔力を流入させ、凝縮し、銃口を弾く、一部食らう、魔力膜を下側に集中し、弾く、食らう、肉体強度を重点的に強化、弾く、流入、
「んんんんんんん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!」
流入、弾く、弾く、食らう、弾く、弾く、凝縮、流入、食らう、流入、弾く、弾く、食らう、弾く、食らう、弾く、流入、凝縮、食らう、食らう、弾く、食らう、流入、凝縮、弾く、食らう、食らう、流入、食らう、
凝縮、
起爆!
〈アギャッ!!?〉
ほんの少しだ。
質量でもなんでもない、単なるエネルギーである魔力が破裂しただけで、装甲を捻じ曲げたりまではできない。
ただ、後ろ側へと押す力を、溜めに溜めて、解き放っただけ、
隙間が出来た。
後頭部が見える。
右腕に運動能力強化を回す。
閉ざされる前にナイフを突き刺す。
スロットにW型のコアをセットしグリップスイッチで起動してより鋭くより深く入って行くその柄を何度も殴りつけながら魔力を刺し傷に流し入れ、
血管から侵入、
どこだ。
どのルートだ。
総当たりを並列処理。
A型が上体を振り回し始める。
捜索スピードと精度の為に弾く事をやめる。
だから速く、
兜が外れ、頭からチビ猿の手が出て散弾銃を持って、
だから早く、
はやく、
あともう少しで俺はズタズタに「あったアアアア!!」
起 爆!
脳の内から外へと炸裂!
〈ギガ………!〉
止まった。
さっきまでの揉み合いが嘘だったように、静けさだけが沈殿していく。
俺を囲んだ銃口の数々は、何も発することなく、だらりとした腕からこぼれる。
何か強い光だとか、派手な爆発だとか、甲高い
その姿勢のまま、A型は事切れた。
百足猿が足の先から床に沈み、少しずつ呑まれていくのを確認して、
俺はようやくケーブルを解き、床へと降りた。
念を入れての魔力探知。
よし、障子越しに待ってるA型も居ない。完全に「あれ?」
ゴーグル内のコメントが止まってる。ガバカメは問題無く飛んでるけど?
今の戦闘で不具合でも起きて、ネットワーク接続が切れた?
待って待ってまってよ!それはやめてよ!折角倒せたんだからリアルタイムで喜びを分かち合いたいよ!せめて録画は——
『あ』
『え、これ夢?』
『は?』
『あ、あの』
『お』
『見事だ、ススム』
『流石だね!おめでとう!』
『ススム君!どんどん強くなってるね!』
『え』
『おお』
『うおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
『わああああああああああああああああ!』
『88888888888888888888888』
『よっしゃああああああああああああ!!』
『やりやがったああああああああ!』
『まじかよ!ま じ か よ!!??』
『ひゃっhhはああああああああああああああああ』
『初見撃破あああああああああ!』
『アンチ終了おおおおおおおお!!』
『神話だ、俺は神話を見ている』
『gはおうぃえjごあえjg;ljぎえおあjg』
『ヤッターーーーーーーーーー!!!』
『ウンチ共見てるかーーーー!!!?何か家――――――!!』
『ソロだぞ!?ソロだぞ!?』
『世界初!世買あア発!』
『ススム、俺はお前がやるって思ってたぞ』
『だから勝つって言ったろ?ススム』
「うわあっ!?」
コメント欄は突然動き出した。
それもどれも文字数が多い!
読めん!読ませる気も無いだろ!
滝のように文字が流れている!凄い勢いで文字が現れては消える!
それを見ながら、
嬉しそうにはしゃぎ回るみんなを眺めながら、
文字からあふれ出る歓声に浸りながら、
俺はようやく、実感した。
「やった…」
やったんだ。
「やりました!」
やったんだ、俺。
「やりましたあああああ!!っっっっっっしゃああああああ!!」
俺!やったんだ!
これで終わりじゃない。
A型は一体だけではなく、この後の道もまだ分からない。
今踏めたのは、たったの一歩。
そんな事は、全部分かってて、分かった上で、
嬉しい。
みんなが、喜んでる。
俺が、あの最弱が、生まれながらの疫病神が、
みんなの幸せを、生み出せている…!
最高に、晴れ晴れとしていた。
目の前がぐにゃぐにゃになるくらい、顔がぐしゃぐしゃになるくらい、涙と鼻水が氾濫するが、
そんなの忘れるくらい、爽やかな気分だった。
『ススム、いつもの』
『ススム、忘れてるぞ』
『ススム、いつものやれ』
『あれが無いと締まらないぞ、ススム』
『責務を果たせ、ススム』
『ススム、早く例のアレを出せ』
そんなこんなで、ガッツポーズを取りながら、喉の限り騒いでいたら、みんなが何かを要求し始めた。
「いつもの」?
何だ「いつもの」って………あ!アレ?
いや、あれって普通にアドバイスとしてであって、今回みたいに再現性の無いやり方じゃあ………
あー、でも、自分でも分かんなくなって、ライブ感で言ってる時もあったな。じゃあいいか。なんか改めて求められると、それはそれで恥ずかしいけど。
「じょ、ま゛っで…」
顔面を拭って、なんとか見れるくらいにする。
「え~と、ズズ…、深級ダンジョン、グス…、A型攻略にうぉ困りの、皆様ぁ…」
そういう
「こうやって、ぅぅ内から、破壊すればぁ——」
湿って震えて聞けたもんじゃないセリフが、
「万事解決、でずよぉ…」
無人の和室に染み溶けた。
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