39.もうちょっと我が子への情とか無いの? part1

 また一匹、武器を手に産まれる。

 L型。跳んで俺から距離を取った、ところに追いすがって蹴り殺す。最近は足でなら頭蓋骨を砕けるようになってきた。

 いつもの事ではあるのだが、今回は特に確実性を持ってる。回復役を仕留め損ねるなんて、この場では一番やってはいけないからだ。

 

 と、そこから足の強化を解かずに斜めジャンプ、直後さっきまで居た所に何十の弾丸が通る。避けきれた事に安心する間も惜しみ、壁を蹴り、魔力を破裂させ、A型の頭上を狙う。先端部が装備しているのは、薙刀だ。俺から見て右方向から、横一文字に払うように振られる、のを魔力炸裂による急停止で避け、再加速、ガラ空きの懐に、

「なん!?」

 だとこの!

                        避けた

                      筈の

                   薙刀が

                 再度

              右から

           迫って

        来た!

 

「器用だなあ!」

 

 頭上の魔力を起爆し全力で下降!

 その上を過ぎていく大刃おおば

 だがまだ終わりではない!

 

 みっしり

 詰まった

 猿共が、

 手に手に

 刀槍とうそう

 たずさえて、

 細切れに

 するぞと

 えている!


「回避!」

 

 真ん前で魔力を破裂させた直後に防護膜を張り備える。来た!俺が直線的に距離を取ると読んで撃ち出された鉄砲弾!魔力の膜でそれが減速していた為、更なる空中制動によって避ける事ができた!


 が、地上に立つ事ができた時、同じく二本足で立つ猿を見てしまう。

 俺が頭を狙ってる隙に産んだか!

「まだ!」

 だったら今殺す!

 産まれた瞬間、体の動かし方がぎこちない数瞬のうちに殺す!

 接近しながら俺は、そいつの喉が少し膨らんだのを感じた。

「マズ」咄嗟に横へ転がったが〈ギゲェッ!〉そうでなければ毒々しい色の体液を正面から被っていた。

 Wワジール型エイプ。

 ってことは、


上位個体レッドクイーンかよ!」


『RQキター!』

『お前はいつだって最大値を引くなあススム!』

『なんとなく何か分かれ!ススム!』

『おっと、これは…』


 一匹目から大当たりだ!

 いや、大外れって言うのか?

 けれどこれは大変問題だ。

 あの毒猿は単体でも瞬殺が難しい。

 そしてこうしている間にも、L型が追加で2体産まれてる。


 急がなければ。

 ちょっとでも守勢に回れば、はずみをつけて産めよ増やせよ。やがては数に物を言わせて、展開・包囲・すり潰される。


「本体相手にとっときたかったんだが!」

 配信外で試していた、新テクニックのお披露目と行こう。


 L型は左右に分かれ、片方を殺しに行けばもう片方が野放しになる陣を敷く。

 W型は少し前進した後、急にその場で腕を振りかざす。

 脅かす為の素振りでもするのか、そう見える状況だが、そうじゃあない。

 奴はそこからでも届く。隠されたリーチとスピードによって。

 更にA型の体からは、また鉄砲が何丁も突き出されている。


 自然と前傾姿勢になる。足が畳を踏みしめ、そこに力を溜める。魔力による全身強化。

 動体視力強化も並行。

 弾丸とW型の腕を見ろ。

 魔力の揺らぎを捉え損なうな。

 、

 、

 今だ!

 ロケットスタート!

 踏み抜かれた畳がへし折れる音がする!

 弾も短刀もくぐりながら右手のナイフを投げる!

 W型は手甲でそれを打ち払っ「break!」たと猿公が思った時には首を切りつけられている!

『ブレイク!』

『break!』

『不規則シリーズ助かる』

 当然、俺の魔力を伸ばしていた。腕のように使い、軌道を変え、最後は一部を破裂させる事で速度を足す。

 だが、殺すには至らない。血管は傷つけたが、まだ出血量が充分じゃない!

 しかしW型が崩された事には変わりなく、このまま打ち合えば俺が完勝する。

〈キキィキ!〉

 だからL型が呼ばれた。

 左のヤツか。

 W型の体が壁になって、俺が殺しにくい方が向かってきた。

 上出来だ。

 俺はL再加速、焦ったそいつの足に体外魔力操作でナイフを刺し、それと繋がったケーブルを巻き付けた。

 巻き上げ機構作動させつつ全身強化をかけ直し、シャトルランみたいに駆け戻る!強化した身体能力で一回転し、捕まえたL型を尻尾みたいに振り切って、W型にぶち当て動きを阻害。そこで魔力を使ってケーブルをナイフごと回収。

 A型からの横槍。魔力を纏い、幾らかの切り傷覚悟で横倒し剣山に突っ込む。L型の首筋にナイフを立て、W型を乗り越え逆側へ、もう一体のL型とすれ違いざまにこれまた首に切れ込みを入れる。


 よし、全員に

 

BROKEぶっ壊した!」

 

 俺が操作を完了した直後、雑魚三匹の首から血流が弾け飛ぶ!



『うぉおおおおお!?』

『え』

『わ』

『今何したあ!?』

『説明をくれ、ススム』

『魔法、は使えないわけだし…?』

『く~ちゃんの切り抜きから来たんですけど、今の何です?』

『体内からの攻撃?』

『もしかして傷口から魔力入れて破裂させた?』

『あ、そういうことか!』



 上手くいった。

 結構難しいから、何度か練習しておいた甲斐があった。


 最初に魔力操作が出来た時、俺はナイフを刺した時に一緒に流し込んで、傷口を悪化させるような使い方をしていた。これはその応用版だ。

 傷口から魔力を流し入れ、内部で固め、特定方向へ、体外へ突き破るように破裂させる。

 他の魔力を持つ者の体内でそれが出来るか、不安だったので検証した結果、どうやら拒否反応みたいな感じで、別々の魔力が混じったりはしないみたいだと分かった。


 血管を破裂させればそれだけで重傷、更に衝撃を逃す場所が無いからか、首の骨を砕けたりもする。W型の毒攻撃に着想を得たやり方で、小さな切り傷が命取りになる、我ながらえげつない技術。

 そして今、最も必要とされる技能でもあった。


 失敗してれば、こいつらが増えてくのを許してたかと思うと…、

 本当に成功して良かった………。


「あんたには悪いけど、あんたの子どもをムゴたらしく殺させてもらった。これに懲りたらこれからは体内で大事に——」


 俺は冷や汗を気取られぬよう、余裕なていで構えるが、


〈キキキ、キッキキ〉


 A型も何てことなく、次の兵を吐く。


「あ、そうですか…」

 どうやら毛ほどにも響いていない。お腹も痛まない捨て駒、それだけでしかないのだろう。

 ちょっとでもためらって欲しかったんだけど……


「し、仕方ない、なら次は——」


——あんたを直に叩くしかないな?

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