25.一大プロジェクト始動! part2
『多い多い多い!』
『中級なら普通でしょ』
『浅級からのこれだから怖い!』
『深級深層でビビリスニーク→浅級浅層で慎重様子見→中級でガンガン戦闘、だから落差がジェットコースターなんよ』
『もう積極的に戦う方向で行ってるからな』
『信じられん…ローマンがこうもあっけなく勝つか』
「はい次ぃ!」
俺は言いながらコアを右手のナイフのスロットに装填。左手のもう一本で膝関節を何度か刺すことでバランスを崩させ、「どうぞ斬って下さい」とばかりにお出しされた首の後ろに右の刃を叩き込む。前はもう一回これをやらなければ殺しきれなかったが、今は魔力による傷口抉りも叩き込んでいるので、当たり所によっては一撃殺だって可能だ。よし制圧。
今更第1層に掛ける時間なんて、あまりない。ドンドンサクッと行こう。
このダンジョンのモンスターは、“エイプ”と呼ばれる大きめの猿だ。G型は鎧武者の格好をしている。
硬いことは硬いのだが、動きはノロい。他の階級と混ぜれば脅威になるのだが、こいつらだけではあまり脅威ではない。と言うかローカルの内容的に、重装備は足を引っ張る要素でしかない。まあG型なんだし、こんなもんだろう。
このダンジョン浅い層は、俺のスタイルとも相性が良い。よって、ここで苦戦する理由が無いし、苦戦してはいけない。今の俺がどこまで通用するかを確かめる、“慣らし”の相手として利用するくらいだ。
俺は駆け抜けるようにして第2層へと歩を進めた。
ここからV型エイプが出て来る。
腕が4本、それぞれに槍やら刀やらを持っている。G型よりタフだが、こいつも元々剣筋を読みやすい。ただ手数が多いから厄介ってだけだ。相手の動きがなんか遠隔でも感じられる今の俺なら、全撃かわして殺しきる事もわけない。
ここもいい。
と言うか、ここまでの階層は、避けようと思えば戦闘自体を拒否れる。以前までの俺でも、ここを突破するのは、特段難しい話ではなかった。
ここから先、次の第3層から出現する
そこで危険度が一気に跳ね上がる。
L型に共通する特徴として、支援役であることが挙げられる。傷の治癒を促進したり、守護や補助系の魔法を使う事が多いのだ。そしてこの“
そして、
「シュッ!」
〈キッ!〉
ジャブのように逆手のナイフを走らせる俺に対し、
追撃を入れる、前に四本腕で横と斜めの四方から囲むように襲われ、L型の魔法で体が思うように動かなくなっていた俺は、後ろに離れて仕切り直すしかなくなる。
「ああまた逃げられた!」
そう、このダンジョンのL型は、単純に強い。
本当に困ったことに、ただただ機敏で器用なのだ。
“
そのダンジョンの中で、ある条件を満たすと発生する、恩寵、或いは呪いの事である。
“
“
そしてここ、“
『「軽さこそ生存戦略」、つまりこのダンジョンでは、質量的に軽い奴ほど速度や身体能力にバフがかかる。G型とかV型とかは重武装なのに、敵のランクが上がる程軽装になる、珍しいタイプのダンジョン』
『解説ニキ今日もおつかれ』
『ああここのGとVはどっちも壁役だよね、動ける奴が身を隠す為の遮蔽自体が動いて攻撃もしてくるみたいな』
『う、うぜええええ』
深い層に行く程、敵は身軽に、多彩になっていく。よって、こちらも軽さと速さで対抗しなければ、着いていけなくなる、のだが、そこでL型の妨害魔法がネックとなる。
速さを競うダンジョンで、速度低下だとか身体を重くするだとか、一番やってはいけないことだと、分かってくれると思う。ここのL型は平気でそういうことするし、自分はピョンピョン飛んだり跳ねたりしやがるのだ。
こいつが居るか居ないか、それがこのダンジョン内においての難易度変化の指標となる、ということがご理解いただけるだろう。
「だけど、今のでなんとなく
感覚を通した魔力を獲得した俺は、L型の妨害魔法の原理をなんとなく掴んだ。
奴らの魔力が敵性生命体に接触すると同時、変質し、動きにくい物質に変化している。大気の循環を鈍らせたり、空気抵抗のように囲まれた奴の動きを阻害する、シンプルながらも非常に邪魔な物質、それで相手の周囲を満たすのだ。
こういった不可視の作用を強制するタイプは、効果自体の対策法が分かりにくい上に、避ける事も難しいが、
「それならそれで、」
やり方はある。
魔法の効果が切れるのを待って、駆け出す。V型の四本腕の内、二本の腱を切り、満足に動けないようにしてやる。当然L型は即座に治癒に回る。重装兵は奴の命綱みたいなもんだからだ。
「だから足が止まる!」
熟練のディーパーならともかく、治療なんて高度な作業を跳び回りながら出来るわけがない。V型の危機を生みさえすれば、必然的にL型にも追い着ける!
同じ横方向に凪がれた二本を
やはり、ある程度の濃さの魔力があれば、生命体だと魔法側が勘違いしてくれた。
『刺したあああ』
『精度やっば』
『なんかナイフの動きおかしくなかった?普通投げナイフって回転するんじゃない?』
『やけに真っ直ぐ飛んでったな』
『新しく何らかを習得したな、ススム』
魔力操作のコツを掴んだ俺が真っ先にやり始めたのが、瞬間的な間合いの増強である。飛ばす魔力の形を工夫することで、投げた物の弾道調整を実現。ナイフを振る手がほんの一瞬だけ伸びるような、変則攻撃を可能とした。数m先の相手になら、蛇が噛みつくように狙い過たず刺し込める。
それでも生への執着を見せて跳躍自体には成功したL型だったが、「遅い!こうなるとこっちのものです!」ナイフの柄には予めカラビナが通っている!巻き取り機構を作動!数日前に買い直した新品ケーブルがL型を宙空から引きずり落とす!
「逃げ回るタイプのモンスターにお困りの方は!」すぐさまその背中に取り付き「こうやって繋いでやれば!」後ろから回した手で喉元を広げナイフを突き立て「万事解決です!」コアが刺さったスロットをグリップスイッチで起動!
即殺。声を上げたり魔法を唱えたりはもう出来ず、そもそも出来るか試す暇も無く死んだ。
残ったV型を処理し、一息吐く。
「いや、やっぱり、こっから明らかにしんどくなりますね。前と比べれば、奇襲で先制するの前提じゃない分、少しは成長を感じますけど…」
『やりたいようにやってみろ、ススム』
『でも正直見てて面白いのはこういうダンジョンだな』
『何が起こってるか分かりづらい事もあるけど、そもそも見た目派手だからな』
『ガバカメのフレームレートさえ改善されればなあ…』
『収益化マダー?』
『早く投げ銭したい…』
『活動期間も登録者数も充分だからそろそろだと思うんだけどな』
『TooTubeくんさあ…』
『これは遅い方なのか?ススム』
『まあまあ、まだ有名になってから半月も経ってないし』
こんなに多くの人間が、表面上だけかもしれないが、自分に好意的な事を言ってくれている。その状況に、まだちょっと慣れない。人に囲まれたら、大抵俺は軽蔑され、罵倒される立場だった。
「皆さん、数々の応援、本当にありがとうございます」
『お?なんだなんだ』
『急にどうした』
『死亡フラグか?』
『話聞くぞ?ススム』
「これから先、停滞があるかもしれません。それの打開策を考える為に、皆さんとゆっくり会話できる機会が、減るかもしれません。だから、今のうちに感謝を伝えておこうと、そう思いまして…」
『お前、消えるのか…?』
『本気でやるつもりか、ススム』
『アドバイスくらいは出来るから、いつでも頼ってくれや』
『こっちは楽しませてもらってる身だから、そんなにかしこまんなくてええんやで』
「………その、本当に、」
あ、やっば、今本気で泣きそうになった。
おい視界の端でチラチラしてる奴。ここぞとばかりに俺の顔を覗こうとするな。そのウキウキの笑顔のお蔭で涙も引っ込んだわ!ふざけんな!ありがとう!
「……本当に、頑張りますので」
涙声を誤魔化す為、大声と決めポーズを引っ張り出そうとした結果、
「これからも、よろしくお願いします!」
左手を前に伸ばし、ナイフを持った右手を引き寄せる、戦闘時の構えを取ってしまった。
『ガンバ!』
『なんで今そのポーズ出した?』
『謎ポーズ』
『謎の構え』
『そのポーズなにwww』
『ススム、逆にアホっぽいぞ』
『お前のメンタルなら大丈夫さ』
『ガチ泣きで草』
よおし、なんだか、力が湧いてきた。
誤魔化せてないしネタ扱いされてる気もするがまあいい!
この調子の勢いさえあれば、俺だって出来る、そう思い込める。
このまま座学もイチコロだぜ!
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