25.一大プロジェクト始動! part1

 大目標は決まったが、やらなければならない事は山積みで、何処から手を付けたらいいのかが分からない。

 早速頭を抱え始めた俺を見かねて、カンナが特訓メニューを用意してくれた。

 俺の脳内に、文字情報が直接送り込まれる。


「『日魅在進改造計画』………」


 うん、「見かねて」と言うか、より追い詰める為だわコレ。

 断言できる。


「『中学生時点で中級ダンジョンの完全踏破』………あの、これってソロで?」

(((貴方に、他の選択肢が有るのならば、認めましょう)))

「はい、ソロですね。了解しました」


 そういうことです。

 じゃ、頭を抱える姿勢に戻るかぁ……


「次に『美味しい物を食べる』………あの、これは?」

(((貴方の記憶から味わうことは出来るのですが、より鮮明な方が望ましいですので)))

「いやこれカンナのちょっとした要望だろ!?」

 異物混ざってるんだけど。

(((此れから貴方に、付きっきりになるのです。それくらいの報酬が、あっても罰は当たりませんよ?まあ食事が味気ない分、ススム君が私を楽しませてくれるなら、特に何も言いませんが)))

「………食費を上げさせていただきます」

(((物分かりが良い方は、好きですよ?)))

 そう言えば病院食とか安めのカップ麺に、露骨にガッカリした顔してたなあ。前から思ってたけど、実は食いしん坊キャラか?

 いや、「楽しいこと」ジャンキーなだけか。何でもいいから刺激が欲しい、ってことだろう。


「それと、『基礎学力の向上』、これはいいんだけど、その、毎日の学習時間、これ、ダンジョンに潜ってる時間って…」

(((当然、別に数えています)))

「はい、当然、ですよね………」


 死にそう。

 ちょっとマズい。早くも心が折れそうだ。


(((良いですか?貴方の位置は、正負で言えば“負”の位置に在ります。そして目指すのは、“正”の領域の、更なる上層です。負を打ち消すのでは足りません。正の一員となり、その上で目を引く、大きな加点が必要です)))


 カンナが言うには、俺の学力面において、「大きな加点」は期待していないとのこと。戦闘能力、潜行者としての能力によって、どこまで合格点との差を埋めるか、それが肝要だと言う。


(((つまり、最も力を入れるべきは、矢張り潜行・配信活動でしょう。そしてその足を引っ張らない程度に、学力を底上げする。これが方針となります)))

「で、浅級をすっ飛ばして、中級攻略を目標にしろ、と?」

(((残念ながら、真っ当な段階を踏んでいる時間は、貴方には有りません)))


 そうやってやり込められた俺は、中級ダンジョン“人世虚ホリブル・ノブルス”に向かった。







 “人世虚ホリブル・ノブルス”。

 金属精錬で財を成した丹本三大財閥の一つ、旧政十まさとお財閥、現在の政十せいじゅうグループに属する政十建設。その子会社の一つ、丁都ダンジョン採窟。それが管理・運営する中級ダンジョンである。

 ここで取れるコアは金属との相性が良く、特に銅の魔力伝導率向上効果は著しい。その為、銅線の製造元として知られるダンジョンの一つとなっている。

 窟法ローカルは、「軽さこそ生存戦略」。



 窓口に入る途中で、結構な視線を感じた。

 多分、俺に話は聞きたいけど、ディーパーの邪魔をするのは怖い、そういうメディア関係者達が、遠巻きに見ているのだと思う。


 大手グループに属する企業だけあって、出入り受付窓口となっている建物は、小奇麗かつ巨大なビルだ。とは言っても、俺が入るのなんて、せいぜい売店や買取所がある2階まで。それより上はオフィスが詰め込まれているし、ディーパーにとって用があるのは、下、つまりダンジョン本体の方だけだ。

 入館ゲートに、潜行免許証をかざす。これは国から発行されているもので、厳密に管理されている、とも言えない。潜行者とは、基礎的な身体能力があれば、誰でもなれる物なのだ。俺みたいに中学生でも、しかもローマンでも、普通に所持できていることからも、推して知るべし、である。

 もっと田舎の小規模なダンジョンの場合、人が目視で確認して出入りを管理していると言うのだから、もっと適当だ。まあ電車の駅みたいなもの、と思えば大体間違いではないだろう。


 

 俺は装備を先に用意しておく派であるし、ここも第三階層までは踏破済みなので、今更併設の売店で買う物は特に無い。

 真っ直ぐダンジョンの入り口がある地下階へと向かう。

 そこは銀行の金庫のように、何重もの壁を挟む構造になっている。

 最奥には大きめの転移魔法陣、隔世ラ・ポルト

 厳重な防備は、この穴が開きっ放しになりモンスターが溢れ出す現象、逸失フラッグへの対策である。それを防ぐ事もまた、潜行者とダンジョン管理企業、それと所有国の使命なのだ。

 行きは簡単な身体検査のみだが、帰りは体温計測だとか消毒だとか、念入りに出迎えられる。ダンジョンから新種の病原体が出たという前例は無い。けれど、何が起こるか分からないのも、ダンジョンである。人口密集地にあり、資本も潤沢にある企業が、安全管理を怠る。それだけで信用問題になるのだ。


 ま、そういう大人の事情は置いておいて、俺は幾つかあるラポルトの、その内一つの前まで、問題無く通された。

 こういった出入りの多いダンジョンでは、何人か一纏めにして魔法陣前に集合させ、一人ずつ潜らせる方式を採る。二つ以上の生命は、同時に通してくれないからだ。待機時間には、「ガバカメの電源は必ず点ける」「潜行中は映像を共有する」「不干渉を基本とし、対人トラブルは避ける」といった、基本事項を改めて念押しするアナウンスが流れる。勿論、救助隊や重傷者など、緊急性の高い人間が来れば、そっちが何よりも優先される。


「きみ、もしかして例のローマンかい?」


 順番を待っている時、後ろの一人から話し掛けられた。


「あ、はい、『例の』っていうのが『深級に潜ってた』って意味なら、たぶん僕です。どうも」

 少し迷ったが、どうせ顔も住所もバレているのだ。大人しく認める。

「応援してるよ。ああ、勿論、粘着したりはしないから安心してくれ。私も絞め落とされたくはない。入った後はすぐ離れる」

 握手を求められてしまった。ちょっと心が浮かぶような気分。

「ありがとうございます。頑張ります…!」

 そうこうしている内に俺の番が来た。

 ラポルトが怪物の大口めいて、その喉奥を晒す。

 俺はそこに、気持ち強めに踏みしめながら、入っていく。

 中には半壊、或いは全壊した木造建築が並ぶ、廃墟と言っていいような街並み。

 

 何度か見た、“人世虚ホリブル・ノブルス”の内部。


 入り口付近で待ち合わせしている数組から離れ、少し奥まった場所で、映像をネットに共有する機能を起動。


 配信開始だ。

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