第二章:高校受験ってこんなに辛いんだな…

15.告知配信って何話せばいいんだ

「い、いらっしゃいませ~……、無謀なローマンを観察するチャンネルにようこそ~…。ギャンブル狂いを見るのと同じテンションで楽しめますので、よ、よろしくどうぞ…」


『草』

『どうした急に』

『開始早々これである』

『開幕自虐』

『よ、やってる?』

『よろしく、カミザススム』

『きたああああああ!』

『生きてて良かった!』

『初めまして!』

『たのしみ』

『始まったようだな…』


 うわっ。結構な数来てる。

 始まってすぐ万に届く勢いだ。

 うわあ、え、うわあ、本当に?


「あ、あのー、なんか知らぬ間に注目度が凄い事になってるんすけど…」


『そらそうよ』

『何故注目されないと思ったのか』

『普通は10回くらいシんでるだよね』

『深級D型ソロ討伐とかいう自サツ志願者が配信してると聞いて』

『年末年始で休みが多いのもバフになってるっぽい』

『バカの顔を拝みに来ました』

『ダンジョン用ヘッドセットでブサメン誤魔化すのやめたの?』

『思ったより普通の中二って感じだな』


 容赦ねえなこいつら。

 もっとこう、労いの言葉とか無かったのか。まあ俺だって、インターネットにそんな温かさなんて、端から期待してないのだが。


「えー、改めまして、日進月歩チャンネルの、ニシン、って名乗ってたんですけど、今では誰も呼んでくれないので、本名でいきます。日魅在カミザススムです。ディーパーとして生計を立てることを目標に、日夜活動しています。現在の最終学歴は小卒です。あとローマンです」


『開き直り過ぎだろ』

『コイツ、無敵か…?』

『一番大切なところを一番軽く済ませるな』

『中学生とかうせやろ?』

『特定班曰くマジ』

『親が泣くぞ』

『最近の厨二は無謀な潜行がトレンドなんですね()』

『手の込んだ自爆だなあ』

『漏れた魔力で自爆(物理)とか出来るんだっけ』

『ローマンが光るって本当ですか?』


 や、やっと鈍化してきた……。

 結局5万人くらいが見ている。

 俺の配信を、それだけの人間が………

 あ、あんまり数字を気にし過ぎちゃダメだよな。

 いつも通り、いつも通り、いつも俺って何話してたっけ?


「雑談とか告知とか用の配信が初の試み過ぎて、勝手がまるで分からないんですが…、質問とか答えましょうか?」


 あっ!ただでさえ読みづらかった爆速コメ欄が更に加速した!

 俺のキャパを早くも逸脱しやがった!


「すいません。普通に読めません……」


『なんかもう適当に一個選べ』

『選定とか無意味だぞ』

『だから低速モードを入れろとあれ程』

『慣れてなさ過ぎる…かわいいかよ』


(((あ、ススム君。これなんかどうでしょう?)))


「え!えーと、なになに……?『パンツ何色ですk何でこれ拾ったんだよ!ボクサーの黒!」


『wwwwwwww』

『知wらwなwいwよw』

『答えるなよwww』

『助かる』

『情報感謝する、カミザススム』

『しかも種類までは聞いてねえ!』

『アカン、もうこの天然君が好きになってきたかもしれない』

『誰得情報過ぎて草』

『一部のお姉様方には需要がありそう』

『ローマンのお漏らしパンツとかいらねえって』


 赤っ恥だ!クソぉ!

 不自然になるから、大ウケしてる元凶を睨みつけることさえできないのが、なんとも恨めしい。


「あーもう!予定を前倒して告知します!明日、潜行配信をします!ちょっと装備諸々がオシャカになって、今までとは違ったアプローチを試す必要も出てきたので、戦闘スタイルがガラっと変わります!こうご期待です!」


 ヤケクソである。

 今日は体力が持ちそうにない。先に言うべき事を言っておかないと、力尽きて本題に入れない、という未来まで見えかけた。

 そこで単刀直入、迅速に先手を打ってやった。


『それ配信の最後に言うやつー!』

『段取りが甘いとかいうレベルじゃねえ!』

『素人がよ』

『まだパンツの話しかしてないけどいいのかオスガキぃ!』

『まず普段がどんなだよ』


「あ、そうですよね、元が分かりませんよね。えーと、皆さんが知っての通り、ローマンとは人間最弱です。ダンジョンの外では言わずもがな、絶えず魔力供給があるダンジョン内であっても、自前の魔力による魔法というものが使えません。コアとカートリッジ、そしてダンジョン用装備に頼るしかないのが現状です」


 そこで俺は、出来るだけ卑怯に小賢しく、正面で向き合わないような戦い方を採用してきた。

 それによって一定の成果が上がり、俺でも浅い階層なら行けるようにはなった。が、いつか行き詰まるというのも、分かっていたことではあった。3・4階層までをウロウロするにはいい。が、それより下層となると上等な魔具等が必要となり、その購入資金の為には、より深く潜らなければ手に入らない。

 つまり、無理ってことだ。


「というわけで、最深10層の到達が目標でしたが、その方法を考えることができていませんでした。浅い層を相手に、だましだましやってきた、というのが実態です」


 画期的なアイディアが思い付くわけもなく。そもそも俺に思いつけるなら、もっと頭の良い奴がもっと早く思い付けるわけで。


 が、


「ついこの前、死に直面したことで、変に閃きました。火事場の馬鹿力ですかね」


(((はいはい、『死に直面したことで』、ですね?)))

 

 一々アピールしなくても分かってるって。

 俺が天才だったわけでも、土壇場で急成長したわけでもない。

 このブレイクスルーは、彼女によってもたらされている。


 カンナが言うには俺の体質でも、戦力としてのラインに立てる、らしい。眉唾物だが、信じるしかない。

 どの道亡くしてた命である。拾ってくれた人の言われる通りに賭けるのも、悪くない、と思う。


「僕、日進月歩チャンネルの日魅在進は、宣言します!」


 そう思おうとしてるんだが、やっぱりこわい。



「これから俺は、モンスターと“戦闘”していきます!」



 だが言った。言ってやった。

 言ってしまった。

 

 今この場には、およそ5万と3000の目。

 後戻りも取り消したりも、不可能だ。


 一山当てて祀り上げられるか、

 心が挫けて信用を炎上させるか、

 

 それか、無謀が順当に祟るか。


 そのどれかだ。

 白か黒か、示すしかない。


『やめて!』

『こいつアホなん?』

『頭よわよわガチの障ガイ者はNG』

『応援してます!』

『マゾなの?』

『ガンバってね!』

『今度こそイったな』

『一人称が安定しないな』

『テンパって素が出てんじゃん』

『シにたくないなら本気でやめるべき』

『ヤケになってるなこれは』

『政府は今すぐこのバカを止めるべき、こういう奴のせいで潜行規制が強化されると思うとクソ腹立つ』

『お偉いさんみってる~?高い金払って生かしてた役立たずが無駄ジにしようとしてま~す!』

『おおやったれ!折角だし深級行ったれ!』

『こういう無能を食わせてると思うと、ローシって無駄遣いだよな』


 否が9割の賛否両論、って感じだ。

 そうだろうさ。

 次の配信では、俺の死に顔を求めた怖いもの見たさと、ローマンへの呪詛であふれかえるかもしれない。

 それでいい。

 注目度が高いうちに、派手に動かなきゃいけないんだ。

 炎上商法チックでもあるが、手段を選んではいられない。


 何故って、支払わなければならないものが、山積みだからだ。


 まずは、


(((?如何いかがしました?た見惚れてます?)))


 カンナの、

 命の恩人の要求に、応えないと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る