8.ジャイアントキリングを要求されてる? part2
D型から、目玉を確認できないがしかし、睨まれた、ように感じた。
爪が再生した右前脚もこちらに向け、そして、
背後から殺気!
と同刻に正面の白い蛇体がズームインするみたいに急来!
そうだろう、蛇とV型の攻撃が俺を挟撃、この場から動かし、そこを岩石弾で撃ち抜くつもりだ!そうするだろうとも!
俺はジャンプし、上顎を掴み、跳び箱の要領で蛇の頭を避ける!
『あ!バカ!』
『空中はマズイ!』
『むやみにジャンプはするなとあれほど』
『追い詰められ過ぎてバカな事やってら』
無防備になった俺目掛けてV型が一射!今俺を包んでいる泥は、その内に固まってあらゆる
が、
「掴んだ!」
俺は死ぬ気で蛇の上に落ちるとV型の粘弾を利用して取り付いた!蛇はすぐさま引き戻されるが俺は決して離さない!
D型が構える!
俺は懐でスロットにコアを入れて狙い澄ます!
まだ
まだ
今!
起動!
“その刃”は炎を吹き出し敵の繰り出す一撃を無理矢理押し上げた!
左肩口を切り裂かれるが表皮だけだ!固まった泥が防備になった!
「まだいける!」
もう一発起爆!今のD型の攻撃で泥が破壊され、拘束から解放された俺は宙に舞う!
今俺が使ったのは、“あっしぇん”が投げ、俺を串刺しにしかけた、あの高級魔具。俺と一緒に8層まで落ちてきており、目覚めたすぐ横に突き立っていた。彼が使っている時は槍型だったが、穂先を外してナイフや剣状にも変形可能。ダンジョンの環境は千差万別、故に汎用性こそ至高。当然、カートリッジに加工せずとも、コアを使えるようにもなっている。
折角落ちているのだから、有難く使わせてもらった。
俺が魔力を流せなくとも、コアさえあれば強力な武器だ。
『とんだあああああああ!』
『いやどうすんだこっから!』
『ろーさん逝ったああああ!』
『手持ちコア尽きたらシぞ』
『カメラ追えてねえ!』
『ガバカメくんさあ…』
『もっと寄れ!』
自由落下。今攻撃されたら、“あっしぇん”の槍をジェット代わりに、飛び回って避けるしかない。
分かるだろ?
「チャンスだ、外すなよカメさん?」
D型はまず左前脚を掲げ爪弾を発射!俺もコアをつぎ込んで避ける!
避けた先だ。避けた先が奴の直上でなきゃいけないんだ。
落ちないように、そしてD型の上から移動しないように、俺は手足を削らせながら、急所への直撃を拒否、命だけは死守する。途中でコアによる魔力シールドを発動し、頭蓋を粉砕しかねない破片を、額を削るだけで収める。
そして、リスク承知での右前脚の追加爪弾攻撃!俺が飛来した爪に囲まれ、真横にズレることができない時を狙って、
「来たな!」
本命。
その為に、奴の口が——
——開いた!
「こ」
こ
「だあああアアアアア!」
俺はケーブルの巻き取り機構を作動させ、同時に残り少ないコアのほとんどを消費し、魔力を通す!
ダンジョン潜行用万能ケーブル。
ケブラー繊維、低品質多層カーボンナノチューブ、剛鉄等を編み上げた、丈夫で頼れる逸品。カラビナとスリングも付属。
ガジェット携行用に利用して良し、高低差がある地形でザイルとして使用して良し、魔力を流す伝導線にしても良しの優れもの。
モンスターコア用スロット搭載型のハーネスと合わせることで、魔道具として活用することもできる便利アイテムだ。
それを今、三点に立てたナイフに通し、D型を中心とした、正三角形を作らせている。
そこに魔力が満ちれば、最も原始的な魔法陣の完成だ。
とは言っても、大仰だったり複雑だったり、そんな効果は発揮できない。魔素濃度が高いダンジョン内でも、せいぜい魔力的効果増幅だとか、その程度だ。
ケーブルが機械的に引っ張られたことによって、俺は斜め下方に叩きつけられるように着地、いや、墜落。
「あがああああ!!?ハッ!ハッ!ハッ!イタ!いt!い、いッ!ッてえええ!?うああ!!」
左太ももの肉が一部持っていかれたが、死ぬかと思ったくらいに痛いが、何なら立てないくらいにツラいが、それでもD型渾身の一発は、俺をバラバラにすることなく、見えぬ天井目掛けて吸い込まれていった。
「ハーッ!ハーッ!ヨ、よおし!!」
『いやヨシじゃないが』
『何を見てヨシって言ったの?』
『死ぬほど痛がった後に強がってもダサいだけで草』
『ダメみたいですね…』
何秒だ?
俺はあと何秒生きてられる?
懐のカラビナの一つから、傾斜を見る為に使ったダンジョンボールを取り外し、D型に投げつけ、両手で耳を塞ぐ。掌越しにも破壊的な破裂音。このダンジョン用に、閃光や煙幕でなく、音響型のこけおどしを持ってきたのだが、効果はどうか?うん、少し時間稼ぎになった。困惑したのかキョロキョロしてる。10秒は延ばせた。こっちを見た。が、今ので警戒したのか、慎重になっている。低く構え、左前脚を向け、よし、右の爪が戻るまで待つつもりだな。そこまでは良い。あとは、そうだよな、蛇の攻撃準備だよな。前傾姿勢だから、甲羅の上側が見える。複数の面が開いている。どこから攻撃されるか、俺が察知しづらいようにしているのだろう。よし、よし、かなりいい。ああ、俺の足がふらついているって、今気づいたか?少しだけ、弛緩したのが伝わったぞ?この状態の俺を殺すなんて、わけないって?その通り。お前は簡単に勝てる。でも、ここまで来たんだし、確実に、決めきりたいだろ?ほら、また逃がすと面倒だ。しっかり狙えよ?待て、おい待て思い切りが良過ぎる待った方が良いってぁああ——!
遂に白蛇が俺へと放たれ、
その背に開いた穴の一つに落下してきた岩石砲弾が突入!
〈アガアアアアアアアアアアア!!?〉
悶絶し、蛇も手脚も引っ込めてしまうD型!
「決まった!秘技!流星返し!」
今決めた技名!
『なに!?』
『今のなに!?』
『なんなのお!?こわい!?』
『なんだそのダサい技名!?』
『ものの見事にみんな困惑してる』
『上から降ってきてた!』
『まばたきしてたら見逃した』
「『天に
『まさか簡易魔法陣でD型の攻撃を増幅したのか?敵味方の術を見分けるなんて高度なプログラムなど組まれてない事を利用して中心で発動した魔法攻撃を漏れなく強化させたって言うのか!?』
『長文コメうざい』
『解説たすかる』
奴から放たれた弾丸は、俺の魔法陣で加速。外れた後は役目を終えたことで、本来消滅する筈だった。が、俺はさっきからコア消費度外視で、ケーブルに、魔法陣に魔力を流し続けていた。岩石弾への魔力供給は止まらず、その形は保持された。
『地面に魔法陣を設置して魔力を流したからローカルの範囲内扱いされたかのかな?バフ乗ってる?』
『撃った本人が知らない威力ってことか!』
『D型「知らん…何それ…こわ………」』
あとは重力に引っ張られ、戻ってくるのを待つだけだ。魔力を供給する魔法陣、その中心目掛けて降って来るのも、狙った通りの動きであった。蛇を出す為に甲羅を開けてくれたのは、ここ最近では珍しい幸運だ。
「趣味良いな、この吹き抜け構造……。お蔭で助かったよ……」
マジで。
これで天井の低い部屋だったら、完全に詰みだった。
〈ゴルルルウルルルル………!〉
縮こまって、魔力によってか、傷穴を塞ごうと試みるD型。だが、この機を逃すわけがない。じゃないと死ぬ。
俺は“あっしぇん”の槍の穂先のスロットに、その針に最後のコアを刺し付ける。
「喰らえやあああああ!虎の子だあああああ!」
中級ダンジョンの
それを全ツッパ!痛む左足を、全身を奮い立たせ、炎上と延焼に全振りさせた穂先を、助走をつけて傷口に投げ込む!
〈ガァァァアァァアアアワアアアアアアアアア!!〉
頭と四肢が、今度は甲羅の中から逃げ出すように、外側へと伸ばされのたうつ!
体内にナパーム弾をぶち込まれたようなものだ!生物が持つ水分程度で消火なんてできやしない!内蔵も細胞も破壊しながら燃え広がり、酸素を奪って一酸化炭素やら二酸化炭素やらを大盤振る舞い!
「すっごい効果……。腕の良いディーパーって、あんなに良い武器使ってるんだなぁ……」
素直に羨ましい。
『え、ひょっとして』
『そんな馬鹿な』
『なんかまだあるって』
『おねがい!』
『いやいやいや』
久しぶりに、コメント欄を見るだけの余裕が手に入った。
えーと、カメラは、
「え、えー、ディーパーの皆さん、深級D型攻略でお困りの方は」
ああ、あそこか。
「このように戦えば——」
——万事解決ですよ。
俺が言ったのと同時、D型の身体部位が総じて脱力。
そして、ダンジョンによる「掃除」が始まり、コア部分以外が床へと吸われていった。
『エエエエエエエエエエエエ!?』
『勝ったーーーーー!?』
『ウソダコンナコトー!?』
『おおおおおおおお!??』
『wwwwwwwww!???!?!?!』
『今めっちゃ笑ってる』
『いや・・・いや、ええ・・・?』
『確実に伝説』
『わあああああああああああああああ』
『全 米 が 泣 い た』
『威 風 堂 々』
『な ん か 書 い と け』
『また一つ世界に神話が生まれてしまった』
『チャンネル登録余裕でした』
『もうローマンとか忘れられてて草』
『ローマンだからこそ余計に偉業定期』
『誰もが死んだと思ってたのに』
俺はヨタヨタと広場の中央に近付き、コアを拾い上げる。流石、深級のD型ともなるとコアの純度が高い。これまで俺が見てきたものとは比べ物にならないくらい、ガラス玉みたいに透き通っている。
〈ガア!〉
〈ガア!ガア!〉
「おっと、お前らがいたよな」
忘れるところだった。
まだV型が5体残っている。
音響ボールがあと1個、治療用キットも持ってる。“あっしぇん”の槍の穂先は今回収したし、D型のコアもある。なんとかこいつらを振り切って、7層を脱することだって、俺になら出来るように思えた。
「来いよ……!今更てめえらなんて」
揺れる。
「?」
俺としたことが、この場面で怯えがぶり返したか?まったく——違う。これは、俺の膝が笑ってるんじゃない。
地面だ。地面が震えている。
「な!また崩落かよ!?」
この流れさっきもあったよ!
俺はケーブルを回収した後、壁際へ移動してナイフを突き立て、足下が無くなってもいいように備える。
お願いだからこれ以上の厄介事を増やさないでくれ。
俺は願った。
けれど、冷静になって考えれば、随分と暢気な話である。
良い方に進む事を願うなんて、いつからそんな楽天家になったのだろう?
いつだって、事態は悪い方に、転がっていったじゃないか。
〈ボォォォオオオオオオオ!!〉
「は?ンな!?」
目を疑った。
岩盤を突き破り、数十m級の巨体が侵入してきた。
頭部に十も二十もある眼と、太ましい輪郭から、ドデカい芋虫みたいに見える。が、胴体のあちこちに生えている鉤爪を持った腕と、長く大きく裂けた口によって、竜の成り損ないとでも言うべき、凶悪な生物であると分かった。大きさも、皮のブ厚さも、D型以上。何より、
大きく膨らんだ腹がつっかえながらも、ズルズルと
「ああ……」
感嘆とかでなく、ただ息が漏れた、それだけだった。
何が起きたかは分からないけれど、これから何が起こるのかは分かった。
化け物の腹が縦方向に開く。そこは第二の口のように、牙と奥歯を持っていた。岩壁のような臼歯群の、その一つがパカリと割れて、中からG型が一匹飛び出す。ボトリと落ちたそいつは、すぐに動き出し、俺へと狙いを定めたようだった。
産んでいる。
あの岩のような、歯のようなものはまるで——
——卵?
その想像が、正しいのであれば、
『え、A型?』
『は?なんで?』
『なんで?(全ギレ)』
『え?なんで、え?』
『えっここ7層えっ』
“
モンスターを産むモンスター。
このダンジョンにおいて上から二番目の強さ。
俺にとっては最悪の個体が、目の前に出現した。
脈絡なく、法則性を打ち破って。
ほら見たことか。
幸運とやらは、俺を見放している。
ああ、いや、見放してくれているなら、まだいい。
それどころか、趣味の悪い嫌がらせまで、余念が無いのだ。
この時俺の頭を占めていたのは、この場を切り抜ける画期的なアイディアでなく、
全部何もかも奪われた、
あの記念日の記憶。
俺が生まれた日の思い出だった。
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