8.ジャイアントキリングを要求されてる? part1

『勝てる気がしない』

『ビジョンが見えない』

『まずこいつをフィジカルでどうにかできる奴、ディーパーの中に何人いるんだよ』

『打撃特化タイプとかならなんとか…』

『深級のD型こわー・・・』

『これでこのダンジョンで最強ではないという事実』

『あの蛇がうぜえ』

『近・中・遠距離の全て持ってるのは反則ですよね?』

『本体がノロい、なので攻撃範囲と手数を盛りますね・・・?本当にやるやつがあるかバカ!』

『スピードが弱点(スピードで勝てるとは言っていない)』

『生物に砲撃能力を搭載してはいけない(戒め)』

『身体強化があれば弾丸避けられる奴もいるけど、ローマンじゃあ………』


「このおっ!」

 ガギリ!

 どうやら蛇頭は一本だけ。けれどケツだけでなく、背中からも出せるらしい。さっきから出現地点を変え、最短距離で俺を殺しに来ている。

 その一撃をフェイントによって逸らし、ついでにナイフを突き立てようとしてみるが、

「…ッ!刺さらない!」

 スロットの針にコアを刺し入れ、殺傷力を高めても、まるで歯が立たない。

 たしかにカートリッジ状に加工されていないが、そうであってもある程度の出力を実現する、そういう性能の装備を選んだ。

 それがこうも、こうも簡単に弾かれる。

 定番の弱点、目を狙おうとしたが、小さいのか、元から無いのか、見つけることができない。


 俺が持つ攻撃力では、

「殺すどころか、傷一つつけられない!」


 かと言って、逃げるのも不可能。

 7層側には3匹、8層へのラポルト側には2匹、V型が目を光らせている。奴らは俺から道を奪うだけでなく、さっきから遠巻きにちょっかいをかけてきやがる。

 泥ブレスの単発バージョンらしき攻撃。俺に当たらなくてもいいのだろう。着弾した床を踏み、強い粘性に捕らわれてしまえば、身動きが取れなくなる!

 今俺が逃げ回っている足場を悪くしつつ、次の一歩の自由を奪っているわけだ。

 時間が経つ程、俺が不利。

 数も、力も、敵に軍配。

 ダメージを与える術も無い。

 さっきバックパックを投棄した事で、最大限身軽にして、この手詰まり。


 八方どころか、上下左右360°、球面に塞がれた気分になる。


 一応、「あそこ」に近付けてはいるが、着いたところで、本当に好転するのか?

 半信半疑、じゃないな、「疑」が9割9分だ。その一縷に賭けてしまうのは、「他に無いから」、それだけの理由。


 「選択」なんていう贅沢、俺には許されてない。


 だから言える、「迷いは無い」。


 D型が俺に向かって、握手でも求めるように、右の前脚を差し出した。

 俺はそれに応える、わけもなく、入ってきたラポルトの方へ全力でスタートダッシュ!多重撃音と同時、つぶての通った感覚が左わき腹を叩く…!

 奴の指、片脚に十本くらいはあるように見える、太い爪。あれらが発射されたと、撃たれた後に理解した。

 タイミングをズラすことには成功したが、点ではなく面での攻撃。ちょっと気合を入れて鍛えた、その程度の身体能力で、全く外せるわけもない。直撃したわけでもないのに、辛い…!加熱した鉄板でも押し当てられてるみたいに、痛い……!


「なんなんだよこのダンジョンは!身体の一部を飛ばせるのが入居条件かよ!?」


 D型は次に左前脚を構え、俺へと向ける。

 すぐには撃って来ない。万全を期すため、さっき使った爪の再生を、待っているのだろう。

 俺が近接戦闘に持ち込む、その局面も想定しているんだ。

 そうだ。こいつは、リスクを潰して回るような奴だ。

 なら、


「こいつはどうだ!」

 

 俺はラポルトの前、入り際に突き立てておいたナイフに、ケーブルをもう一度通し、V型2体に背を向けて立つ。

 D型が、明らかに硬直した。

 

 やっとこさ、“ここ”に来れた甲斐がある。


『?どういうこと?なんで襲われないの?』

『V型だ!』

『今撃ったら、フレンドリーファイアでV型が負傷して、開いた出口から逃げることができるわけだ』

『それを避けたいD型は、射線上にV型が居る時に岩石弾を撃てない!』

『D型が堅実で狡猾な塩試合製造機だから逆に効くのか』

『ざまあ!撃てないねえ?』

『流れ弾飛びまくり散弾と、貫通力甚大砲撃の強力さが仇となって、それらの技は出せないってワケ』

『どっちもかしこい』


 俺はV型を人質、否、蜥蜴とかげじちにした。

 俺を狙った弾が外れ、味方に当たってしまえば、そこに活路をひらいてしまうぞ、と、そう迫ったのだ。

 単なる野生動物相手では、こんな心理戦は滅多に成立し得ない。が、知性や社会性を持ち、明らかに人間を特別に敵視する、ダンジョンモンスター達。奴ら相手なら、通用する!


 これで、なんとか、1v1サシの勝負だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る