第31話

翌日、時生は2年A組に突撃した。

ドアの近くに居た上級生が来てくれる。


「あ、あの……すみません、千田さんっていますか……」

「えっ? アイツに用? それとも呼び出し? カツアゲとかされてない? 君、一年生でしょ? 大丈夫?」


ものすごく心配されたが、誤解ですと連呼して解放してもらえた。


「あいつは今日来てないよ。駅前のゲーセンにいるんじゃない?」

「年上のオネーサンの家に入り浸ってるって噂あるぜ」

「学校にいるときは屋上にいるしな。あんまり関わらない方がいいよ」


俺だって関わりたくて関わっているんじゃない。

時生は人生で初めて、仮病を使って早退をした。




「あっあのっ!」

ゲームセンターで時生が叫ぶように話しかけると、無表情に音ゲーに興じていた千田は

「うおっ!?」

と飛び上がった。


キンパツ、ピアス、Vネックのカーディガンとだぼっとした私服、ごついスニーカー。不良にしか見えない。というか不良そのものだ。

どう見ても関わりたくない種族だ。


「んだおまえ」

千田は君が悪そうに時生を見た。


「あの。俺、千田さん……に話があって」

「っああ! ゲームオーバーになっちまったじゃねぇか! バカ、お前、これ、……最終ステージだったのに……あー、くっそ」

「あ、すみません」

「ったくよー……金魚の糞みてぇにうっとうしい奴だな」

「あの、話」


暴言にめげずに時生は話しかけると、チッと舌打ちが返ってきた。

ゲーセンのガチャガチャした騒音の中、千田は時生を階段下のベンチに連行した。


「もー、分かったからはやく言え」

「いきなりスンマセン」

「今更だろ。なんなんだオメーは俺のストーカーか」

「はい」

「はぁぁぁっ!?」


千田はドン引いていたが、構わなかった。

時生は言った。


「あなたが頷いてくれるまで、どこまでも追いかけます!」

「なッ……」

「お願いします、俺と!」


「やめろ俺はそういう趣味はない――」

「俺たちと踊って下さい!」

「……」

「……」

「は?」

「え?」

「踊る?」

「ダンス部に入って下さい」


千田は一瞬ほっとした表情になった後、時生をじろじろ見た。


「いーやーだーねー」

「そこをなんとか!」

「無理だな」

「何でですか! あんなに高く跳べるのに!」

「っ……見たんかよ」

「はい! 俺、……俺、あんたのことホントに嫌な奴だと思ったし、犯罪だと思ったけど。キンパツこわいし不良だし本気でもう金輪際関わりたくないと思ったけど」

「喧嘩うってんのか?」

「でも、あのジャンプが忘れられなかった」


時生は怯む千田の焦げ茶色の瞳を見上げた。

白に近いくらいのキンパツなのに、目はよく焦がしたキャラメルみたいに黒っぽいのが、なんだか不思議だった。


「……俺はもう踊れねぇんだよ」

「踊ってたじゃないですか」

「うるせー! 俺にかまうな」

「かまいますっ!」

「うぜぇ!」

「知ってます! でも! 俺たちにはもう貴方しかいないんだ」



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