第30話

「さっき誰と話してたんだ?」

時生の質問に、深川は軽く答えた。

「タマオくん!」

「たまお……?」

「そーそー。こないだお世話になったんだ」


深川の交友関係には恐れ入る。


(コミュ力おばけってこいつみたいなことだろうな)


マヨ先輩が、集合と声をかけてみんな集まった。



「みんなもう聞いてるかもしれないけど、戸次の怪我の話だ」

車座になって集まった面々は静まりかえった。


悠馬も、時生も、深川でさえも、マヨ先輩が何と言うか見守っていた。


「あいつは出場できない」

「えっ!? 全治三週間って話だったんじゃ……」


時生は思わず声に出していた。

ぎりぎりだけど、ぎりぎりなら間に合う。

そう、思っていた。

最後の大会だ。

振り付けも、曲も、全部マヨ先輩と戸次先輩についてきた。

思い出でも何だっていい、自分たちのありったけをぶつけるって。

そのつもりだったのに。



「全治一ヶ月だった。それも軽く見て、だ。骨の挫傷。靱帯までイッてるから、リハビリ含めたらもっとかかるかもしれないって話だ」


マヨ先輩は、すまん、と謝った。


「あいつは今日も病院に行ってる。結果が出たら電話が来るはずだけど、でも、たぶん変わらないだろう。本当は自分で話さなきゃいけないのにって気にしてた。また、お前らにも後から話しにくると思う」


時生は何と言っていいか分からなかった。


「あいつがいない間にお母さんとこ聞きに行ったんだ。きっと無茶すると思って……そしたら案の定だよ。あいつ、無理して出ようとしてた。三週間で全治なんかするわけない怪我なのに。言えよって話だよな」


マヨ先輩は泣いているのか怒っているのか分からない顔をしていた。


「出場メンバーは6人以上。グループのメンバー数が足りていなければ、大会の出場は認められない」


3年が3人、1年が3人の城聖高校のダンス部は、規定メンバーぎりぎりだった。


「すまん」

マヨ先輩はもう一度、1年3人に向かって言って、頭を下げた。


時生はマヨ先輩の二つあるつむじを眺めながら、自分にできることを考えていた。

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