第8話

 子供達をそれぞれ学校と幼稚園に送った後、私は最寄駅ではなく、カルチャーセンターにアクセスしやすい路線の駅へ自転車を走らせた。20分くらい掛かるが、今日は雨天ではないし、24時間営業の駐輪場もある。また、乗り換えなしで目的地まで一本のため、その方が楽だと考えたのだ。今日も相変わらずの真夏日で、すでに太陽は自身最大の力を誇示している。私はいつもの遮光100パーセントのつば広帽子をかぶり、同じく遮光100パーセントのアームカバーを両腕にはめ、さらに色の濃いサングラスを掛ける、という格好で対抗した。汗でじっとり蒸すけれど、遮光アイテムを装備し忘れた時のダメージの方が色んな意味できつい。私は来月、40歳になるのだ。 

 駅の近くの駐輪場に着くと、自転車を停めて鍵をかけた。帽子の中の頭皮も、アームカバーの中の腕も、脇の下も胸も背中も汗びっしょりである。駅の改札へ行くためにエレベーターで地下へ向かう。駅の構内は太陽の光を遮り、空調もあるため、少し楽になった。私は帽子とアームカバーを剥ぎ取ってトートバッグに突っ込んで、ハンカチで額の汗を押さえた。ホームの自販機で冷たい緑茶のペットボトルを買い、ゴクゴクゴク…と飲み始めた時、地下鉄がホームに滑り込んできて、風圧で湿った髪が少しなびいた。

 カルチャーセンターは、駅直結の商業ビルの7階にあった。私は賑やかな地下街から寒いくらいに空調が効いたビル内に入り、エレベーターで7階に向かった。銅版画の教室は、いくつかある部屋の内、一番奥にあった。扉の前に「銅版画 体験教室」の立て看板が置いてあった。部屋の中に入ると、すでに何人かの受講者が席について、ノートにメモをしたり飲み物を飲みながら待っていた。前方のホワイトボード前に講師と思われる男性が立っていた。彼は、

「こんにちは。そこの名簿に丸を付けてください」

と何かの準備をしながら、声を掛けてくれた。私が立っている左横に小さなテーブルがあり、その上に受講者の名簿とボールペンが一本置いてあった。私はボールペンを手に取り、上から5番目にあった自分の名前の横に丸を書いた。受講者は私を含めて5名だった。5〜60代くらいの男性が一人と、同様の年代の女性が二人(知人同士のようだ)、20代くらいの若い女性、そして私。机一台に対して一人ずつ着席するようになっていて、私はプレス機の近くの席に座った。各机にはあらかじめ新聞紙が見開きで一枚敷いてあり、その上に材料や道具がセッティングされていた。講師の男性が、  

「時間になりましたね。皆さんお揃いのようなので体験を始めます」

と告げた。

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