第6話
自分が夢を見ている事を知りながら、私は夢を見続けていた。夢の場所はどうやら水族館のようで、分厚い透明ガラスの水槽の中に、たくさんの魚がユラユラと泳いでいる。ただ、魚達は黒っぽいシルエットとして存在していて、輪郭もボヤけている。目や鱗やひれ等の細部は見分けられず、動きもなんだかぎこちなくて、子供の頃にテレビで見たコマ撮りアニメーションのようだった。懐かしいような、なんだか心細いような。色さえ分かれば、もっと華やかな雰囲気になるのに…と思いながら、無彩色の魚達が、右に進んだり左上にすーっと登ったりする様子を、私はぼんやり観察していた。魚達を観察するのに飽きてきて、何か次の展開が起こらないかと、夢の中の私は考え始めた。ストーリーを作り出したいのに、なかなか次の展開が始まらない。仕方がないので、水槽の形に沿って歩いてみることにした。水槽の表面は湾曲していて、どうやら大きな円の形になっているようだった。私はゆっくり時計回りに歩いて行った。水槽はとても大きくて、歩いても歩いても、端が無い。円形だから端が無いのは当たり前か、と思い当たって足を止めた。目の前の水槽には、やはり先程と同じように黒っぽいシルエットとしての魚達が、斜め下に降りて行ったり、くるくる回転しながら水平方向に流れて行ったりしている。魚達の泳ぎ方に規則性は無く、目の前で入り乱れるように動いていて隙間がほとんど無かった。しかし一瞬、サーッと視界が開けた時、水槽の向こう側に何かが見えた。おそらく、私が最初に立っていた場所だ。どうやら私は、ちょうど水槽の半分くらいの所まで歩いてきたようだった。
水槽の向かいには、私が居た。
私は少し混乱してしまった。今見えているのは、私?だとしたら、この私は誰だろう?
目を開けるとYの寝顔が見えて、夢か、と私はぼんやり呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます