第5話
子供達が水遊びと、母同士がおしゃべりを続ける間、太陽の位置はどんどん西に移動していった。木陰の移動に合わせて、敷いていたレジャーシートを何度も移動しなければならなかった。気がつくと、公園に来て5時間も経っていた。
私達はぼちぼち帰り支度を始めることにした。子供達に公園の敷地内に設置してある簡易シャワーを順番に浴びさせて、着替えをさせた。みんなでゴミや荷物をまとめ、レジャーシートと簡易テントを協力して畳んだ。簡易テントを畳む時、名残惜しそうに子供達がテントの中に入って、互いの身体をつついたり軽くくすぐったりして笑い合っていた。
「まだ帰りたくない」とSとT君が口々に言うので、
「5時間も遊んでたんだよ。暗くなる前にそろそろ帰らなきゃね」と私が言うと、
「えーっ!1時間しか経ってないかと思った」とT君が目を丸くして叫び声を上げた。私はそれを聞いてすごく嬉しくなってしまった。
そうか、T君の体感ではたった1時間だと思うくらい、夢中で遊べたんだね。
時間の概念を忘却するくらい何かに夢中になる感覚をふわっと思い出させてくれたT君に、ありがとうの気持ちでいっぱいになった。喉の奥が甘酸っぱいような感じがして、私は唾を飲み込んだ。
自転車置き場に置いていた自転車は、サドルやハンドルが信じられないくらい熱くなってしまっていた。今から自転車を自分の足で漕いで帰宅するという事に直面すると、さっきまでのふわふわした楽しい気持ちが、どよーんと暗くなった。だが、私達はいつだって現実と向き合って行かなければならない。母親であるという自覚と諦め、あるいは一種の悲しみが、私に決心をさせる。私達は来た時と同様、3台の自転車で一列になって、真夏日の中をそれぞれの我が家に向かって足を動かした。
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