第3話
待ち合わせはボーリング場のある大きな交差点で、到着した時にはすでに友人親子が待っていた。「おはようございます。暑いですねー」と言う相手の母も、私と同様つばの広い帽子を被っている。お互いアラフォーなので、紫外線対策は必須なのだ。Sの保育園時代の同級生T君は、小柄なSよりも更に小柄な男の子で、母の自転車の後ろに座っている。
「案内お願いしまーす」と、私は友人親子の後ろからついていく形で自転車を走らせた。隣町の公園まで水遊びをしに行くのだが、友人母は以前行った事があるらしく、案内をしてもらう流れなのだ。チラチラ後ろを振り返り、Sがちゃんと付いてきているか確認しながら、どんどん気温が上がっていく町の中を3台の自転車が進んでいく。「T、ナビってて」と、友人母は後ろに乗っているT君にスマホを渡し、道案内アプリで方向を確認するよう伝えた。T君は「次を右」「真っ直ぐ」とか言いながら、ちゃんとナビ役をやってのけていた。頭が良い男の子だ。
30分くらいで目的地の公園に着き、自転車を駐輪場に停めてロックをかける。高低差のある敷地内に、人工の川や大小の池がいくつかあるのが駐輪場から見下ろせた。人工川の上流に2歳くらいの男の子が居て、母親とおもちゃの船を水面に付けて遊んでいる。SとYは「早く行こう!」「あっちにも川がある!」など、すでに興奮が収まらない様子で笑顔が溢れている。T君もナビ役という大役の荷が降りたのが、自然と笑顔になっている。
私達は大きな木の下の日陰になっている場所にレジャーシートを敷いて、風でめくれないようにカバンなどの荷物を重し代わりに置いた。前もって打ち合わせは特にしていなかったが、3人の子供達はすでに洋服の下に水着を着ている。靴を脱いでレジャーシートに上がり、競うように服を脱いだらあっという間に水着姿になった。母というのは、なぜこんなにもレベルが高いのか。「段取り」という名の競技があるなら、子育て中の親に勝るものはないだろう。各業界、各職種においても、この技能は実に重宝されることが想像にかたくない。
「走っちゃダメ!滑るよ!」
得意の危険予知能力を発揮して、私は声を張った。水着になった子供達が、洋服を脱ぎ捨てて人工池に向かって駆け出して行く。小学生のSとT君は水陸両用のサンダルを履いて、水の中にジャブジャブと勢いよく入って行く。T君が持って来た数種類の水鉄砲に水を入れて、互いに撃ち合っている。Yは人工池のそばで、縁から溢れた水が流れてくるのを触ったり足でバシャバシャと散らしたりして、感触を確かめている。
子供達の水遊びが軌道に乗ったのを見極めると、母2人は日陰に敷いたレジャーシートに戻った。この位置からも水遊び場がだいたい視野に入るから、監視とお喋りを同時に楽しめる。
「仕事は最近どう?」
とT君のお母さんが聞いてくる。
「疲れるね〜。今は少し楽になってきたけど」
私は今年の春に新しい職場に異動したばかりで、やっとひと通り慣れてきたところなのだ。プリンター用紙の補充の仕方とか、自席のペン立てのベストポジション探しとか。
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