第2話

午前6時半、iPhoneからミセスグリーンアップルの「インザモーニング」のギター音が鳴る。音楽を止めるために身体を起こし、もう一度バタンと布団に仰向けにダイブした。カーテンから明るい外の光が透けていて、天気予報通り、真夏日の始まりであることを確信させた。好きな音楽を目覚まし音に設定したはずなのに、わずかでも朝の時間を1人で味わうために、ボーカルが歌い始める前に音楽を止める羽目になっている。夫が隣の部屋で起きているらしいゴソゴソした音と、奥の台所から聞こえる冷蔵庫の音が混ざる。目を閉じて、なんとか窓の外の世界の状況に耳をすませようとする。みーみー、ぶろぉぉぉぉ、ガラガラガラ、バン。真夏の日の世界が今日も動いている。


布団から起き上がり、台所でまず電子ポットをセットする。お湯が沸く間にトイレと歯磨きを済ませる。台所に戻り、インスタントのドリップコーヒーを作る。ミルクや砂糖は入れない。コーヒーを飲む事で脳が目覚める感覚があるし、一日を始めるための身体のスイッチを入れることができる。基本的にコーヒーは一日一杯しか飲まないから、私の身体はとても深く熱心にコーヒーを求めている。コーヒーを飲むために起きているし、早くコーヒーが飲みたいから眠りについている。起きるために眠るのだ。

子供が起きる前に、洗顔とスキンケアを終わらせておくのが理想的である。無印良品のヘアバンドで髪の毛をまとめ、洗顔し、シートパックを貼り付ける。夜は入浴後にパックを付けた顔を子供達に見せながは「オバケだよ〜」とひとしきりふざけ合うのが恒例だが、まだ子供達は夢の世界にいるので、パックをしたまま頭皮のマッサージを行う。スキンケアが完了した頃、子供を起こし始める。寝ぼけている子供の脇の下に手を入れて支えながら、トイレに行かせる。着替えをさせて、朝ごはんを食べさせる。子供達がテレビを見ながら朝食を食べている間に、自分の化粧と着替えを素早く済ませる。夫は仕事だから、子供達が朝食をまだ食べ終わらないうちに1人で出かけて行った。私が「いってらっしゃい」と言うと「行ってきます」と返す。他者との同居において、挨拶は何よりも重要だとだと思っている。


支度が終わり玄関を開けると、コンクリートの地面が灼熱の太陽に照らされていて、反射する黄色い光に刺されて、気圧されそうになった。私はサングラスを掛け、Yを電動自転車のチャイルドシートに乗せてヘルメットを被せた。Sはもう自分の自転車があるので、埃除けのカバーを外してヘルメットを被らせた。2台の自転車で集合場所へ向かう。

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