昔から山にいるモノ

ワシュウ

短編 山に入ったら…

これは私が幼い頃に経験した事

廃村一歩手前のめっちゃ過疎ってる山奥の村に住んでいた。

某小説の舞台になった村で、漫画化、アニメ化、映画化して今では道路も村も整地され観光地になって人も増えた


まだ小学校に上がる前のこと

山には何かがいると言われてたけど、でも当時は言う事を聞かない子の為の嘘だって思ってたし、普通に迷子になったり熊や野犬が出るから注意程度の認識だった。


だけどその当時、何か事件?事故?みたいな事があって大人たちがヒソヒソと何かを話してたのを覚えてる。私は知らなかったたけど失踪した人が何人もいたらしい



山をちょっと奥に入った所に畑があって、直射日光を嫌う植物や木を育てていた。

村の細い産業だったんだけど、ちょっとレアな食材で某大手企業が村に来てその山の畑を広げて、乾燥、発酵、製粉加工するための大きな工場を建てた。


村の人がたくさん雇われて、僕の父さんも前の仕事を辞めてそこの工場で働いていた。

でもある日、本当に突然、工場のオーナーがこの村から手を引くって、本社から来た社員を連れて引き上げてしまった。


大企業が引き上げたと噂が回るのは早かった。村に配達に来ていた移動型スーパーが来なくなった。

村長は薬や服や米や塩なんかを買えなくなったって頭を抱えていた。工場は村長が責任者になって続けるみたいだった。


父「ちょっと山の中を見てくる。そろそろ次の作付けをしなくてはならないのに、みんな変な噂のせいで行きたがらないんだ」


「父さんやめようよ!山には何かいるんでしょ?」


「みんな噂に惑わされすぎだ。

工場の元オーナーも言っていただろ?採るばかりでは安定しない、植えていかなければいずれ取り尽くしてしまうと。よそ者が来て根こそぎ奪う前に畑を作って管理しろと言ってたじゃないか。

オーナーが心配してたように、最近ではよそ者が村に入り込んで山を荒らしたって……まさか、そのよそ者が流した噂なのでは?

村長と話してくる、お前たちはここにいなさい。イサク、弟達を守るんだ」


僕にはまだ幼い妹と弟がいる


弟(ジロウ)「兄ちゃん、父ちゃんはどこ行っちゃうの?」


妹(マナ)「父さんは山へ行くんでしょ?カゴとナイフを持っていったわ」


僕の母さんはもういない。

父さんが新しい女の人を連れてきて一緒に暮らすようになって弟妹が生まれた。


継母「私も仕事があるから、あなた達も教室に行ってなさい」


僕らは工場を建てた奴らが村の中に作った託児部屋に押し込まれる。

企業の人達がいた時は、昼ご飯が出たり保育士が絵本を読んでくれて楽しかったけど一緒に引き上げてしまった。

大人がいなくなったのに、ここに預けられる。今では大問題だけど山奥の村だと普通にある事だ。


隣の家の太一と陽二の兄弟が取り合いの喧嘩して絵本を破ってしまった。

みんなの書き取りの見本だったのに…

僕は文字表も覚えてしまったし、計算問題も年長組には簡単すぎて教室でやることがなかった。

年少組の面倒を見るのはとても退屈でつまらない。

父さんの手伝いにまた山へ行きたいなぁ

当然お腹も空く、保育士がいなくなって昼ご飯も出なくなった。


マナ「お兄ちゃんジロウがいなくなったの…」


「ちゃんと見てろって言ったのに!」


マナ「ごめんなさい、だって何度も同じ事を聞かれてうるさかったから無視したの」


「どうせ家に帰ってるだろ?」


マナ「工場に行ったんじゃない?あそこはまだ昼食が出るって母さんが言ってたから」


太一「はぁ?俺たちが飢えてるのに大人は食ってんのかよ!」


陽二「大人ばっかりずりぃよな!行くぞお前ら!」


「怒られるぞ!やめろよ」


陽二「ふん!真面目のイーサンはお留守番して飢え死にしな!足掻いたやつだけが生き残る!

偉いお坊さんだって生き足掻けって言ってただろ?」(※イーサン=イサクのこと)


「偉いお坊さんは、大人の言う事を良く聞いてしっかり勉強しろって言ってたんだよ!」


工場を建てる時に地鎮祭?みたいな事をするのに外から呼んだ偉い人で、ほんの少しだけど村にいて、僕らに面白い昔話しとか怖い話しをしてくれてた


結局みんなお腹が空いたから工場へ向かった

工場は村からほんの少しだけ離れた場所にあり、山の手前の開けた所に建てられた


当たり前だけど大人たちに怒られて邪険にされだけど、太一と陽二が飢え死にするぅーお腹すいたーって騒いだから食堂に呼ばれてスープをもらえた。

そこでも山の話しをしていた


太一「なぁ本当かよ」

陽二「でも見たやつもいるんだろ?山でガルルルって獣の唸り声を聞いてすっ飛んで帰ってきたやつもいたらしい」


「僕の父さんは作付けをしに行くって言ってた…」


陽二「今頃は山の化け物に食べられてるかもな?」

太一「ゲロゲロ〜アハハ」


「お前らの親父も食われたらいいんだ!」


陽二「なんだと!このっ」


「痛っ!やったな!このこの!」


太一「おーい辞めっ痛っ!このっ!」


マナ「お兄ちゃんたちヤメてよ、ジロウがやっぱりいないの!……父さんを探しに山に入ったのかも…私がちゃんと見てなかったから、お兄ちゃんどうしよう」


「仕方ない……大人たちに知らせる」


大人達に言おうと思って食堂から出ると

「大変だ!軍隊が来たんだ!ここを奪いに来たんだ!」

「なんてこと!あたしらはどうすればいいのよ!」

「オーナーが手を引いたわけがわかった、ここは兵士たちがいつでも好きに潰せるんた」

「全て奪われちまう!」

「自分たちを守るために戦おう!」

「バカが殺されちまうよ!とっとと逃げるんだ!」


慌てふためく大人たちの異様な様子が怖かった。

みんな焦ってバタバタして僕らの話を聞こうとしなかった。

後で知ったことだけど、不便な村だから強制退去させて小学校のある町に移住させようとしてたらしい。


マナ「あっお母さん、お母さん!大変よジロウがいなくなったの!」


おばさんは僕を殴ってジロウがいなくなったのはお前が見てなかったからだと、役に立たないクズと罵った

妹は震えて泣いてて本当のことを言わない。

年長と年少でテーブルを分けてるから本当ならアナが見てないといけなかったんだ。


近くにいたおじさんが殴るおばさんを止めてくれた

「そんなことしとる場合か、お前さんも自分の子連れて早く逃げるんだよ」


「ジロウがいなくなったのはこいつのせいよ!」


「……あんま言いたくねぇが、この坊主の母親を殺したのはアンタだろ?因果じゃないさね?」


「違うわ!あれは勝手にあの女がいなくなったのよ!アタシじゃないわ!」


「もういい。イサクお前の父ちゃんはどこさ行った?」


「村長さんとこ行くって…それから山に作付けに」


「イサクの父親と鈴木さんのとこは苗を育てるよう直接言われてたからな…作付け行きよったか」


「マナ、ここで待ってなさい!いざとなったら山に逃げるのよ!山の中にも休憩小屋があるから、多分みんなそこに逃げるわ」


マナ「お母さんはどうするの?」


「村長さんとこ行ってお父さんを探しに行くわ!待ってるのよ?いいわね?」


おばさんは僕をじろりと睨んで走り去った

おばさんは僕のお母さんを殺したの?


マナ「お兄ちゃん…」


「寄るなよ、お前も誰かを殺して奪う人間になるんだ!…おばさんと顔がそっくりだから」


マナ「なっ!お兄ちゃんのバカ!うぇーん!お母さんは人殺しじゃないわ!うえーん」


マナが泣いて飛び出してしまった。


太一「おい!食堂から出るなって!おいっ……いいのか?マナが泣いて出ていったぞ」


陽二「早く追いかけろ!」


以外にも太一と陽二がマナを追いかけた。

僕もつられて走った


マナは僕らが追いかけてるのを振り返ると、止まるどころかさらに走った。


太一「おい!待てよー!」

陽二「止まれぇ!」


2人がハァハァしながら必死で追いかける

走ってる時の顔が不細工過ぎない?うわぁ


「マナはお前ら2人が怖いから止まらないんじゃないか?」


太一「何だとー!ハァハァ」

陽二「ハァハァ、何でお前は余裕なんだよ!もっと早く走れるなら捕まえてこいよ!」


マナは山に入ってしまった。

山には何かがいるのに!僕らはもう必死に叫んで追いかけた!早く止めないと!

ガサガサと見慣れた山に入ったのに雰囲気がいつもと違った。

でもそんな事気にしないように、考えないように必死で走った。


太一「ハァハァなぁ…さっき食堂で昼飯済ませたよな?なんでこんな暗いんだ?」


陽二「ハァハァ怖いこと言うなよ…マナー!ハァハァ…バカヤロー!!戻れぇ!」


いつもと違うと2人も感じてるようだった。

マナのせいで僕らまで山に入るなんて…


太一「何で喧嘩したかは知らねぇ、けど妹は泣かすな!」


「……弟は泣かせてもいいのかよ?カッコつけてるつもりか知らないけど凄い顔!うわぁ」


太一「ゼェゼェ何だとぉ!」


陽二「弟も泣かすなよ!イーサン、お前は妹弟に冷たいぞ!ハァハァ」


「別に普通だよ…ただ家では2人よりよりご飯が少ない。

父さんがいないところではおばさんは無視するか睨むか、たまにつねる。

僕の母さんの荷物も黙って捨てちゃうし…

工場が建つ前までは父さんと山に一緒に入ってたのに大人たちだけで行くようになった。あの家にいたくない。」


陽二はうつむいて「……うん」しか言わなかった。


太一「…うちの母ちゃんが言ってた、お前ンとこのおばさんは可哀想な人だって」


「どういう意味か知らないけど、おばさんの事はもうどうでもいい。僕は文字がもっと読めるようになったら街の企業で働く!もっと大きな街に出たい」


太一「お前、村を出るのか?」


陽二「金持ち大企業がせっかく立派な工場を建てたのに?」


「でも、軍が来てるんだろ?どうせ全て略奪されるさ……ってハッ!話に夢中で完全に迷子になった!!

アナー出てこーい」


山の木々を見上げる、気がついたらまだ昼過ぎだと言うのに空が真っ暗だった


"キャァァァ!お兄ちゃーん"


「マナァ!!」

後ろの方から叫び声が聞こえる、どうやら話に夢中で追い抜いて走ってたらしい


太一「動くなっ野犬だ!囲まれてるっ!」

陽二「何だ?うわぁぁぁ!!化け物だぁ」


野犬のような唸り声を上げてるけど、よく見ると口から赤い肉を滴らせていて脇腹から肋骨が見えてる!

耳は食いちぎられたようにちぎれていた


僕は走っていた。

だってマナが呼んでいたから

「マナァ!マナァ!マナァ!ウゥゥ……グスッ」


声のした方へ、どこをどう走ったか知らないけど、少し開けた所に野犬に囲まれたマナが服を引っ張られていた!

僕はそのへんの棒を拾って無我夢中で飛び出した!


「お兄ちゃーん!」


「マナァ!無事か?噛まれてないか?」

ブンブン振り回して野犬を牽制してアナの所に向う

服を少し破かれただけで何ともなかった…ホッ



「早く工場に戻ろう!家より頑丈そうだし、食べ物もある。あっ山の中の休憩小屋の方が近い!急いで逃げるぞ!」


太一「うわぁぁ!待ってぇ!イーサン早すぎる!」

陽二「ま"っでぇ〜おいてがないでよぅ!ぶぇぇん!」


「山の休憩小屋に急げ!早く!

シッシッあっちいけ!シッシッ急いで逃げろ!走れ!」


普段と様子が違う山の中を無我夢中で走った。

野犬が追いかけてくるし、岩陰や木の陰から得体の知れない何かがこっちを覗いていた。

得体の知らない何か、そう表現するしかない何かの気配が辺りを漂う…とても怖かった。

野犬とは違う得体の知れない恐怖が形を作ってこっちを見てる


みんな言わないけど、野犬とは違う所をキョロキョロ見ていた。

どこをどう走ったのかわからなかったけど、開けた場所に出てた。前に一度だけ父さんと来た休憩小屋が目に入った。

小さな畑と手押し井戸のある休憩小屋にたどり着いた!

周りは暗かったのに休憩小屋は明るかった。誰かいるかもしれない

金持ち達が山の中に優雅に休憩小屋なんて作って馬鹿じゃないかと思ってたけど、野犬に追われて飛び込むとは思いもしなかった。


ドンドンドンドン!

「たすけてぇ!野犬に追われてるんだ!開けてぇー!」

太一「たすけてぇ」

陽二「うぇーん!開けてぇ」

マナ「キャァァァ早く開けてぇ!」


ドアが開くと父さんと鈴木さんがいた。


鈴木「早く入れ!!」


僕らは開いた扉になだれ込んだ

父さん達はやっぱり作付けしに来て、ここで休憩してたんだな。


鈴木「もう大丈夫じゃよ、ここの建物は頑丈にできとる!けど窓には近づいてはならんぞ?」


父「野犬か?今日は山の様子がおかしかったんだ。鳥や動物の気配が全く無かったし、空が急に暗くなったが…それとは別に野犬の群れが来ていたんだなハァ」


マナ「父さん!うわぁぁぁん!怖かったァァ!」


ジロウ「姉ちゃん!」


アナ「ジロウの馬鹿!なんで勝手にいなくなるのよ!バカバカ!あんたのせいでお兄ちゃんが母さんにぶたれたのよ!!アタシが悪いのに!」


ジロウ「兄ちゃん姉ちゃんごめん。父ちゃんに会いたかったから」


鈴木「坊主が山の手前でうろついてたんだ。託児部屋は嫌だと聞かんかってな連れて来たんだ」


太一「ハァハァ…水くれよ…」

陽二「ハァハァもしかして水は外?」


鈴木さんが部屋の中にも水くみポンプがあると言って戸棚から木のコップを人数分並べてくれた。

冷たくて新鮮でほんのり甘い美味しい水が出てきた。


鈴木「山の中の水は冷たくて美味かろう?」


それから燻製肉や、ここを建てた金持ち達の残していった小麦や材料で父さんが薄いパンを焼いてくれた。


「あっ!!大変だ!」


父「なんだ?どうした!!」


「軍がこっちに向かってるんだ!工場を奪いに来たって工場の大人たちが大騒ぎしてたんだ!」


太一「そうだ!軍が来てるんだった!」

陽二「野犬に追われて忘れてたな…もう工場は占拠されてるかな?村は…母ちゃんは?」


父「待て鈴木さん!外を見ろ野犬がまだいる!

俺たちが出てくるのを待ってるのかもしれない」


鈴木「俺の家族はあの村だ!くっ」


アナ「みんな工場に籠もるつもりみたいだけど、いざとなったらここを目指すって母さんが…」


鈴木「野犬がいるのにたどり着けるか?外で火を焚くぞ!野犬が近寄れないようにするんだ!」


「山の中がいつもと違うから迷うと思う…煙が見えたら目印になるよ」



父さんと鈴木さんが松明を作って外に出た。

焚き木用の薪を燃やしていく、それに緑の葉や折った枝を混ぜて煙を出していく


僕らは部屋の中から見ていた。 

野犬が遠巻きに木の陰からこちらを見ているのがわかった。

だって暗闇に光る目がいくつもみえたから


アナ「怖いよぅ…母さんは無事かな」

ジロウ「姉ちゃん…」


"ズシィィン…ゴゴゴゴゴ―……"


遠くで何か大きな地鳴りみたいな音がした…ゾクゾクと背中が震えた



それからすぐに山の中から野犬に追いかけられて数人が走ってきた。

でもみんな様子がおかしい、ガタガタ震えて青ざめた顔をしてる


「あれは野犬じゃねぇ化け物だった」

「口に何かの肉を…ポタポタって血が…」

「どう見ても腹が破けてるのに走ってきた…化け物だ!」


大人たちが恐怖に震えて必死に訴えかけてきた、その姿が異様でとても怖かった。

何か得体のしれない化け物が山を彷徨ってるなんて…もう山から下りられないかも?僕らも怖くなった。


みんな木の間から煙が見えて必死にこっちに走ってきたみたい。その中に太一と陽二の父親のもいた


太一「父ちゃん!」

「お前らここにおったんか!心配かけやがってぇ!バカタレがぁ!」


太一と陽二はゲンコツもらってた。泣きながら笑ってて3人は酷い顔をしていた。


鈴木「村の様子はどうなってる?」


「軍が来るってみんな大慌てでな!!荷物抱えて村の外に逃げようとするやつや、工場に籠もるやつ、山に逃げ込んだ奴もいたが…野犬みたいな化物(バケモン)がいるじゃねーか!」



それからポツポツと休憩小屋を目指してくる人らがいて、その中の1人が「ついに軍隊が来たんだ!!」って叫んだ。

工場に籠もっていたけど軍隊を見て怖くなって山に走ってきたらしい。

血だらけの野犬に追いかけられて、何かがウロウロしてて追いかけてくるって。


鈴木「あ、誰か襲われてる!」


窓から見えたその人は、あちこち転けたのか全身擦り傷だらけの血だらけでフラフラと走ってくる。

大人たちが棒や松明を振り回して野犬からその人を助けに行った。

あんなボロボロで走ってよく化け物に食われなかったな…


その人はみんなをみて安心したのか倒れ込んで動かなくなった。

休憩小屋は広い部屋だけど、これだけ集まれば少し狭く感じる。けど、今は外が怖いから人の中にいて安心したい。


「うわぁぁぁぁぁ!?あああああ―…!」

倒れて気絶してた人が突然叫び声をあげた。

バタバタと暴れてドアを開けて出ていこうとして、大人たちが必死で止めた。


「佐藤さん何があった!」

「どうしたいきなり!」

「落ち着け!」


佐藤「ああああああ!!」


言葉にならない恐怖

みんなその恐ろしい光景をただ固まって見ていた


誰かがコップの水をバシャンとかけた。


佐藤「………ハッ!ここは?」


「落ち着いたか?ここは休憩小屋だ

みんなここに逃げてきたんだ、軍が来たんだろ?」


みんなが一番聞きたいことをその人が聞いた


「……佐藤さんのその様子じゃ、村にいたやつらは軍に皆殺しか?」


佐藤は周りを見てみんながいることにようやく気付いて、ホッとしてから水をガブガブ飲み始めた。



「落ち着いたか?……何があったか話せるか?」


佐藤「……軍も来たんだ…そして工場を明け渡せっていきなり銃を突きつけてきたんだ。

村長が出てったんだけど、すぐに拘束された。でも違うんだよ…

化け物だ、出たんだよ化け物!化物の親玉が……うわぁぁぁぁぁ!

頭がたくさんあったんだ!巨大な頭がたくさんあったんだ!

人を丸呑みしそうなデカい口の化け物が!!ひ、光る目が!目が光ったんだ、目を見たら駄目だって誰かが言ったんだ!!

でも目を合わせたやつがいて…い、い、い、イシィ!石!石だ!石にされたんだよ!

軍のやつらも石にされてたっ!バラバラになって村人を押しのけて逃げたんだ!ヒィィ!

みんな石にされて殺されちまうよ!嫌だぁ石にされたくねぇ!」



誰も何も言えなかった…



マナ「母さんは?……母さんも石にされたの?」


いつの間にか隣に来て服を引っ張ってたマナが震える声でポツリとつぶやいた。


「分からねぇ……俺だって必死で逃げたんだ。でもどこに逃げても一緒だ、だって工場よりデカかったんだ!あああああ!!」


「そ、そんな嘘信じねぇ!」

「そうだ!ふざけるなよ!」

「俺の妻と子は無事なのか!うわぁぁぁ!」


怒鳴り散らす大人たちが怖かった。

それからみんな喚き散らして恐怖に飲まれた。


鈴木「みんな落ち着け!朝になったら俺は村に戻る…手遅れかもしれんが、隠れてる人がいるかもしれないだろ?」


佐藤「お前らは見てないからそう言えるんだ!体の片側半分が、い、い石になって這って逃げてたやつがいたんだよぉ!嫌だぁ!あぁはなりたくねぇ!

それならここにずっと隠れてる!俺はあんな死に方したくねぇ!

神の怒りに触れたんだ!邪神が顕現したんだ!この村は終わりなんだよ!」ガクガクブルブル


またシーンと静まり返った


「「うわぁぁぁんえぇーん!怖いよぅ」」


太一と陽二とマナとジロウが耐えきれずに声を出して泣いた、僕も顔が熱くなって目から涙が溢れた。

想像しただけでジロウと陽二は漏らしたみたいだ


父さん達が僕らを抱きしめて必死に落ち着かせようとする。

鈴木さんがお湯を沸かして干肉(ジャーキー)を刻んで、すぐそこの畑の野菜を採ってきてくれてスープを作ってくれた。

金持ちの小屋には(当時は)貴重だった塩壷が置いてあった。


鈴木「俺たちを見捨てて工場ごと手放した奴らの忘れ物だから遠慮はいらねぇ」とたっぷり塩をいれていた。


根菜は生煮えだったけど美味しかった。

大人たちも食べて落ち着いたのか、夜が明けたら見に行こうと話はまとまった

まだ山で彷徨ってる人がいるかもしれないと話してた。

星も見えないほど空が暗くて、山に漂う淀んだ気配が気持ち悪かった。

みんないつもと違う山が怖かったと思う…


どれくらいたったか、村の方の空に光がさした

みんな明るくなった外を見るために窓に群がった


「野犬が消えてる!」


外にみんなで出て、向こうの光る空を見る


マナ「何がおこってるの?」


気になる大人たちが数人、朝を待たずに見に行くと言って松明を持って小屋のナイフを持って準備しだした。

すると暗かった空がキラキラ光ったと思ったら、暗雲が晴れて月が見えるようになった


偉いお坊さん(とお付の人)が僕らの様子を見に来てくれたんだ。

何故か僕らは助かったと安堵した。


高僧「皆の者無事か?✕✕✕✕様が村に降りていたんじゃ」


偉いお坊さんの話を要約すると

✕✕✕✕様と言う山の何かが強すぎて、地鎮祭の時に何日もかけて封印したけど完全ではなかった。

工場を建てる場所をせめて村の中にするように提案したけど、狭い村の中に大きな工場は建てられなく妥協してあそこに建てたらしい。

山のタブーみたいなのがあって(※子供は教えてもらえなかった)よそ者が密猟目的で来て山を荒らしてしまったことでタブーを破ったらしい。


佐藤「石になった皆はどうしたんです?」


付き人「は?石に?!何のことです?

あぁ、祟りの触りを受けて悪い夢を見たんですよ」


佐藤がフラフラ歩いて高僧にすがりついた

高僧は肩を抱く佐藤に酒?みたいなのを飲ませブツブツ御経を唱えて、背中をバンバン叩いていた。

佐藤さんの顔色が良くなったのがひと目でわかった。どうやら何かに祟られていたらしい


高僧「もう大丈夫じゃ。…お主らはあの井戸の水を飲んだのか?冷たくて美味い水に感じたであろう?そのおかげで多少楽だったはずじゃ。

ここの水は✕✕✕✕様の加護があるのだ、飲むと少しだが落ち着くだろう?

そなたはそれで助かったのだ、悪夢から目覚める事が出来たのだ」


佐藤「あ、あれは悪夢だったのですか?村は本当に助かったのですね??うわぁぁぁん」


✕✕✕✕様はタブーを破ったから村を襲ったけど、山の僕らの事は助けてくれてるらしい。

当時はあまり理解出来なかったけど、自分を祀る山の民は守るけどタブーを犯したものには容赦しないとかそんな感じだったと思う。

野犬が小屋に近づかないのは、この小屋を建てる時に作った神棚のお陰だと言う。

父さんが後で教えてくれたけど、神棚にはお高いお酒がお供えされていた


マナ「母さんは?無事だったの?」


高僧「……私が村に行くまでに既に何人か逃げた人もいたのだ、まだ戻ってない者もいると聞く。村まで送っていこう」


山の中を高僧を先頭にして歩いていく。

工場の前の開けた場所に人が集まっていて、軍服の人も混ざっていた。

小屋にいた大人たちが走って行って家族の無事を確かめていた。

けど、そこにアナの母さんはいなかった。

村から逃げたんだろうって、そのうち帰って来るだろ。


工場に残っていた子ども達が僕らを見つけて走ってきた。


「お前らどこにいたんだよ、心配したんだからな」

「こっちは大変だったのよ!」


そこで見覚えのある人が工場の前の開けた所で炊出しを手伝っていた。


「美人の保育士マリさん覚えてるだろ?偉いお坊さんと結婚したんだって!」

太一「坊主は結婚できるの?」

陽二「キンヨク生活じゃなかったのかよ」


いつの間にそういう関係に?

当時は、なんかちょっとショックだった。


工場を建てた某大企業の金持ち野郎が偉いお坊さんに諭されて一緒に様子を見に来てたらしい。

なんか怪異が続いて工場長(オーナー)がノイローゼになって後任が来る前に勝手に引き上げたって説明だったと思う。

金持ち野郎が村の惨状を知って無料で炊出しをしてくれたんだって。

金持ちは金にも心にも余裕があるんだな。


そして、軍隊の隊長から偉い順に失踪して平の隊員だけが残っていた。金持ち野郎が引き上げる時に一緒にみんなお帰りになった。


マナ「工場の後任はあの偉いお坊さんがいいなぁ

そしたらマリ先生も一緒に残るんでしょ?」


大人の事情で偉いお坊さんは後任にならなかった…当然マリ先生も一緒に帰った。僕らは見送りでたくさん泣いた。



後日、村長が村人を集めて話してくれた事だけど


あの✕✕✕✕様は、大昔からこの地に眠る土地神のようなモノ

この地は、土地の気のようなものが貯まりやすい場所で、人が住んで動いて流して行くほうが良い


社を建てて、一年に一度で良いからお高いお酒をお供えして祀れば、町くらい人が集まれば自然とこの村を守ってくれる存在に至るだろうと

村長の家には社を建てるまで預かってる絵があった


よく物には魂が宿ると言われてるけど、それとはちょっと違って何ていうか、絵に閉じ込める?みたいな説明だったと思う。

ここらへんは説明が専門的で難しくて理解できなくて覚えきれなかった。

絵に描いて✕✕✕✕様をみんなに見せることで悪いイメージって言うか、悪い念が残らないように美化して描いたとかだったと思う。


観光地化して常に開放されてる本殿に今も飾られてる、高僧が描いた✕✕✕✕様の絵は、美人のマリ先生にちょっと似てる山(女)神だった


あの偉いお坊さんは神絵師だと思う

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