新しい依頼II

 俺たちは座って話せる場所を探し、ハンバーガーショップに入った。

 ここは関東にしかないチェーンの店だった。

 外国人の店員は何語かわからない単語を混ぜなら注文を聞いてきた。


 俺は男に金がないと言うと、ダブルパテのバーガーセット、それと飲み物はコーヒーを代わりに頼んでくれた。

 男はコーヒーだけを頼んでいた。

 ターゲットに金を払わせしばらく待つと、店員の女の子はとてもかわいい笑顔で食べ物を渡してくれた。

 トレイの上にはバーガーとポテト、そしてコーヒーが三つ並んだ。

 彼女は俺がセットにコーヒーを追加したと思ったらしい。でも、かわいいから許した。

 俺たちは店の小さなテーブルに高校生のカップルみたいに向かい合って席に座った。


「私はハーランだ」


「山羊谷ではないのか?」


「ハーラン、私の名だよ。君が私ではない男の名で、私を中傷するのが我慢できなくなってね」


 山羊谷のなかの男がそう俺に真相を伝えた。


「見てくれないか」、男はそう言ってテーブルの上になにかを乗せた。


 見た目はちいさな琥珀のように見える。

 しかし、それがなにか俺は知っている、魔石だ。

 魔石は魔力を使い続けると小さくなっていく。

 男のそれはサイコロぐらいの大きさになって、いまにも魔力が切れそうだった。


「もうこの大きさになってしまったよ」


 男の魂は五百年前から来た魔術師だった。

 魔術師は街道を早く走る馬車の研究していた。

 国の資産を浪費しても馬車の研究はなかなかうまくいかない。

 さらには、大きな事故を起こしてしまい研究を断念しなければならなくなる。

 彼は死の間際、国の魔石を使いこみ、禁忌である転生の術式を使う。

 そしてこの時代の魔石を持っていたこの男に偶然、魂だけが転生する。

 魔力が引かれ合うことは知られている。

 山羊谷自身が持っていた魔石に魂が引かれたのだろう。


「お前は、転生者なのか」


「そうだ。逃げ出して、転生した先が無能な魔術師とは運がない」


 男は自傷気味に笑って、小さくなった魔石を見つめていた。


「私の魂の時間はもう長くない。どうか願いを叶えて欲しい。この男が持っているすべての金を君にやる」


 転生者は俺に新しい依頼をしてきた。

 依頼を受けてやってもいいかと思った。

 決して「すべての金を君にやる」につられたわけではなかった。

 いや、少しはつられた。でも、話してみるといい男だった。バーガーおごってくれたし。


 男の夢は「自分で世界一早い馬車を運転したい」だった。

 男の肉体の山羊谷は免許がなく、車を持っていなかった。

 どうしたらいいものかと店を出た。

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