山羊谷蓮を探せ

 テレビ局の出口には人だかりができていた。

 これが追っかけというやつなのか?

 待っているとタクシーが出てきた。車をのぞき込む。

 彼のファンだろう、キャーキャーと叫んでいた。

 そこに山羊谷が乗っているらしい。

 車は青信号の交差点を抜け、遠くへ行ってしまった。


 ここまで来たけど、次はどうしたらいいのか?

 見失ってしまって、俺はなにをしているのか? と自問する。

 隣の女の人がターゲットの名を口にしていた。

 俺は彼女たちに接触した。

 ファンのふりをし「ボクもファンなの、教えてぇ」と甘えて聞いた。

 得られた情報ではどうも夜のラジオ番組に出るらしかった。

 スマートフォンのラジオアプリで出演者を確認した。

 確かに男は出ていた。

 ラジオ局までゆっくり歩いていくことにした。

 どうせまだ時間はある。


 俺はラジオを聴きながら、男がラジオ局から出てくるのを待った。

 男が局から出てきた。

 また車に乗られたらまずいと思いながら後ろをつけると、男はひとりで駅のほうへ歩いていった。

 俺は男のあとを追った。


 男はときおり止まり、路面店をガラスすごしに眺めていた。そしてまた歩きだす。

 何度かそれを繰り返すと、いきなりこちらを振り返った。


「なにか御用ですか? ずっと私のあとをつけていますね」


「ええ、あなたのファンなので」


 適当なことを言って男に近づいた。

 一応念のため、左のポケットのなかに入れておいたゴルフボール大の魔石を握りしめた。

 この男からは微かにだが魔力を感じた。

 試しにいつものをやってみることにする。


 左手で魔石から力を受け取り、右手で相手の胸めがけて魔力を放つ。

 他人から見たら、やからが胸を手で押しているようにしかみえない。

 男は手を伸ばし魔力を打ち消した。


「やめてください、警察を呼びますよ」


「やるのか、コラァ!」


 もし、これが物語なら俺は主人公に絡んでいるハグレ者だ。

 なんで俺が悪者みたいになっているんだ。


 俺は連続して魔力を男に打った。男はそれをことごとく打ち消した。

 これを他人がみたら大の大人が街中で、「せっせっせーのよいよいよい」をしているようにしか見えない。

 夜の繁華街に手のひらがペチペチと当たる音が鳴り響く。

 人だかりができる。

 ペチペチ、ペチペチ。

 近にある高校の生徒だろうか、笑いながら俺たちの写真を撮っている。

 スマートフォンに棒を取り付けて撮影を始める外国人まで現れた。

 ペチペチ、ペチペチ。

 俺は人には普段言えないような身体的な部位に関する罵詈雑言ばりぞうごんを男に発した。

 そして、ペチペチ、ペチペチ。


「もう、やめてください」、男は泣きそうな声だった。


「へへへ、ここでもっと大声を上げてもいいんだぜ。ふたりで警察のやっかいになるか。そして、出てきたら警察署の裏にある、あのこぎたない立ち食い蕎麦屋に行こうじゃないか。ハハハ」


 俺は完全に悪者になっていた。

 男はしばらくだまったあとに「わかった、言うことを聞く」と素直になった。

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