第5話 夏の終わり の テニスコート

直美と初めて会ったのは 夏の終わり の テニスコートだった。そこは高原にある別荘地で最近開拓された場所だった。周りにはできたばかりの 別荘がたくさんあった。僕たちは別荘にも高原にも関係なく出会いの場として ここを使っていた。直美は目立つ存在だった。圧倒的に若く可愛らしかった。隣に同じウェアを着た会社の同僚が立っていたが 、同じウェアだと気がつくまでにはかなりの時間がかかった。それほどまでに彼女は可愛らしく魅力的だった。僕にとって隣に立っている同僚が誰でも興味がなかった。僕は彼女の方をコートに誘ってボールを打ち出した。

「ラケット めちゃくちゃ綺麗だね。もしかして新品?」

「昨日友達と、ロフトに買いに行ったの。」

もしかしてこれもと、僕は彼女のウェアを指さした。

「うんと彼女は頷いた。」

僕はその時隣にいる女性も同じウェアを着ていることに気がついた。同僚ってこの子のことだったんだ。

女性と話をするのはあまり得意ではなかった。相手が初めて会った女性ならなおさらだ。しかし、話す内容をわざわざ考える必要はなかった。コートで体を動かしていれば自然に話題はできた。要するに相手を褒めるかけなすかどちらかにすれば良かった。僕は彼女の同僚の方は 褒めて、彼女の方は 2回か 3回に1度はけなした。その方が受けが良かった。何事も単調なのはダメだ。人は変化を好む生き物だ。高校が女子校だったので卒業した彼女はすぐに相手を探そうとした。しかし、就職先はアパレルで女性ばかりが多く、男性社員は少なかった。人間困った時は誰しも同じ道をたどるもので、先輩に聞き社会人の出会いの場であるこの同好会に入った。そして彼女は三河の高原で行われているテニス同好会の合宿に来たわけだ。この世にはそれほど変わったものとか特別なものは存在しないと思っていい。みんな結構普通のやり方で、当たり前の方法で出会っているのだ。そして恋に落ち、結婚するという順番だ。これがごく普通のやり方だ。そしてそれでたくさんだ。人と違っている必要なんて全くない。むしろ人と同じで全く無個性の方が望ましいぐらいだ。変わっている必要はない、人と同じで全く普通の人がいい。恋の相手なら。僕は普通の OL と付き合って、普通に恋をした。それは素晴らしい経験だった。みんなと同じように 普通に楽しかった。叶うものならあんな 恋をもう一度してみたい。

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ある作家の 一生 瀬戸はや @hase-yasu

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