24.さあ思い付くもの全部やろう

「離れてろニーナ!」

「リットくん! あの男の職業ジョブは重騎士です!!」


 ニーナのナイスアドバイスを耳に入れながら駆ける。

 重騎士。確か戦士から派生する巨大な武器を敏捷デメリット無しで使える職業ジョブだ。あのバランス悪そうな大鎌を軽々と振り回せてるのはそういう事か。


大見得おおみえ切っておいてなんだその貧相な武器は! かっこつけておいて一撃で終わるんじゃねえぞ糞ガキぃ!!」

「見た事あるだろ! 初心者用短剣だこの野郎!!」


 俺の勢いを削ぐような袈裟斬り。大鎌で繰り出されると大迫力だ。

 そこに突っ込んでいくほど初心者だと思われたのか単調で大振りな攻撃に俺は一旦、足を止めてその大振りの終わりをついて懐へと飛び込む。クドラクが俺にぶちぎれながらも油断しているから出来た事だ。

 そりゃそうだろう。クドラクは初心者を狩りまくっていたプレイヤーキラー、俺に負けるなんて思うわけがない。

 だからこそ初撃は読みやすい。大振りかスキルぶっぱのどっちかだ。


「戦士職業ジョブか! 重騎士を相手にするセオリーは知っているようだが……トライグラニアからって事は精々レベルは35程度だろぉ!? レベル67の俺に近付いてどうにかなんのか糞ガキよぉ!!」

「なんだよ26差か! 敬語でも使おうかクドラクさん!?」

「煽りにしか聞こえねえよ糞が!」


 初心者用短剣で斬り付けるがクドラクの装備しているコートに刃を阻まれる。

 だがエタブルにはゼロダメージは存在しない。当たれば装備の耐久値かHPのどちらかは絶対に削れる。

 恐らく装備の耐久値しか削れていないだろうが、誰が何と言おうとも俺の先制だ。まずはこれが出来なければ話にならない。


 今のエタブルの上位層のレベルは平均70と聞いている。このクドラクの言うレベルが本当ならその上位層の一人だろう。

 俺は高レベルプレイヤーの動きなんて見たことがないし、PvPも初めてだ。もし敏捷のステータス差で攻撃を当てる事すらできないという事態になれば流石に逃げるしかできない。

 レベル差という現実は変わらない。だがつい笑みが零れてしまう。


「はははは! いけるいける!!」

「何を……にやにやしてんだ! HPを削ってから言え!」


 クドラクがもう一度大振り。俺がよほど気に食わないのか怒りのまま振るっている感じだ。

 懐にいるおかげで最初よりも避けやすい。だがその隙に打ち込めるダメージがあまりに小さい。

 二度斬り付けるが、やはりコートに阻まれる。耐久の高そうな装備ではないが、それでも装備の質の問題だろう。俺の初心者用短剣は三回目の攻撃で砕け散る。


「馬鹿が! そんな記念品ぶんまわしてるからだ!!」


 クドラクは俺の武器が壊れたのを嬉しそうにしながら大鎌を振るう。

 大鎌を短く持っての斬り上げ。レベルに任せてただ大鎌をぶんぶん振るう男ではないらしい。

 だが、油断しているのは変わらないみたいだな。俺がここに来るまで何をしていたか・・・・・・・もう忘れたらしい!


「羨ましい長身だな!!」

「んだ、ご、の!?」


 俺はクドラクに抱きつ……もとい掴まり、よじ登るように足を蹴り、肩を蹴る。

 ダメージを与えられている様子は無いがどうでもいい。樹上からぶら下がっている巨大な蔓へと跳びあがって掴む。

 クドラクの大鎌はまたしても空を切り、俺のほうを見上げた。


「なんだてめえ! やる気あんのか!?」

「何言ってんだやる気満々だよ! それよりいいのか? よそ見注意だ。レベル67の実力見せてくれよ、先輩」

「あ!? 何言って――」


 言い終わる前に、クドラクの背後から突進してくるモンスターに衝突されて、その勢いで地面に投げ出された。ダメージ表記は1と2とレベル差の問題で大して効いてはないだろうが、地面に投げ出されたクドラクに更に迫る影がある。


「んだと!?」


 クドラクを襲うのは「弱肉強肉の大森林アライブフォレスト」のモンスター達。

 モスブルホーン、スタンプボア、アバンドゥンレックス……それぞれ緑色で擬態能力のある牛型モンスター、足が肥大化した猪型モンスター、そしてどう見ても緑色の恐竜の三体だ。

 三体とも人間よりも大きいながらこの大森林を駆けているモンスター達が一斉にクドラクに襲い掛かる。

 その三体だけではなく、後続にも何体かクドラクに向かって突進してくるモンスター達がいる。


「うっとうしい! 何でこんなに――!」


 蔓にぶら下がりながらモンスター達を対処するクドラクを見下ろしながら俺はついにやける。

 あっはっはっは。何でだろうなぁ。

 クドラクは俺がにやついているのを見たからか、何故モンスター達が集まったのか気付いたようだった。


「てめえ! あのアホみたいな雄叫びはモンスター集めてくる為だな!?」

「あ、気付いた?」

「なあにが男のたしなみだ! 思い切り小細工じゃねえか!!」


 男のたしなみなのは本当のはずだ。賀茂先生に蔓で移動するときはそうするって子供の頃にアニメを見せられたからな。

 けど、俺があの雄叫びを上げながらここに来たのはただかっこいいからではないのも本当だ。ニーナと出会う前に霞みの森で狩りをしていた時の失敗を今度は活かさせてもらったというわけだ。

 そしてアクティブモンスターの注目ヘイトは攻撃を加えてない場合、一番近い奴に向く。

 俺は蔓に掴まっていてクドラクは地面にいたまま。モンスターがどっちを狙うかなんて誰かに聞くまでもない。


「初心者の癖に妙な発想ばっかしやがって……!」


 クドラクは俺に文句をギャーギャー言いながら大鎌を構えて、


「『死の鎌の円舞デスサイズワルツ』!!」


 そのままスキルを発動。

 大鎌の巨大さとリーチによる回転斬りで周囲のモンスターのHPが全て刈り取られる。重騎士の名にそぐわぬ派手な攻撃で、首や心臓狙いの致命の一撃クリティカルでもないのにほとんど一撃。

 レベル差がこれだけ違うとこうなるのか。恐い恐い。

 モンスターの死体がそこらに散らばり、クドラクは俺のほうをぎろりと睨む。


「『魔女の断頭ウィッチサイズ』!」

「うおお!?」


 その睨んだ視線が飛んできたかのようにスキルが放たれる。

 俺は蔓を揺らしながら手放して地面に急降下。

 華麗な着地もとい華麗な激突! ダメージは3! 取っててよかった(落下耐性)スキル!


「ふざけてんのかわからねえ野郎だ! 俺をおちょくるためだけに現れたのか!?」

「何言ってんだ大真面目だ! その証拠にあんたはレベル34の初心者に手玉にとられてんだろ!? 電脳神秘師ニューゲートのニーナを放っておいてよ!」


 俺の発言の意味を察したのかクドラクは何かを確認するように耳に手を当てる。

 やっぱりプレイヤーの位置を確認するアイテムかスキルがあるな。

 ま、確認しなくったってニーナは近くにいるんだけどな。


「はっ……驚かせやがって。まだそこにいるじゃねえか……!」


 クドラクに視線を向けられ、近くの樹上に隠れてたニーナががざっと葉を揺らす。どう逃げても位置がばれるならこれでますます逃げるって選択肢は無くなったわけだ。

 ニーナを助けるだけならニーナを全速力で逃がすって方向でも別に良かったが、これで倒すしかないってわかった。

 よかった、安心したよ。それなら……余力とかアイテムの余裕とか気にしないで思い切りやっていいわけだ!


「安心したかプレイヤーキラー? なら楽しもうぜ」

「あ……?」


 クドラクの前に出ながら、俺はインベントリの中身を辺りにばら撒く。

 ああ、重かった。いつもインベントリを一杯にしてると妙に疲れるんだよな。

 今まではやる意味も必要も無かったけど、思い切りやれるんならやっちまおう。


「一度本気でやってみたかったんだよな、これ」

「何のつもりだ……? 初心者らしくミスでもしたか……?」


 キョロキョロと辺りに散らばった俺のアイテムを見るクドラク。

 インベントリの中身をばら撒くのは初心者だとあるあるらしい。慌ててたニーナもアルチーノさんの前でやった事がある。

 でも、俺のこれはわざとだ。


「ミスじゃないさ殺人鬼。これが俺の戦い方だ」


 ステータス画面を開いて、何に振るのか迷っていたボーナスポイントを敏捷に全振り。

 周りのモンスターの死体を見れば、今からどれだけ耐久に振った所で無駄なのは目に見えている。

 敏捷はプレイヤーのスピードが極端に上がるわけじゃない。大事なのはアイテムの使用速度や扱い。こっからは本当に手数勝負だ。


「死神なら俺の首を刈り取ってみろよ。こちとら意地悪な神様に首から下を持ってかれた経験はもうあるんでね。俺が恐いからって逃げるなよ?」


 最後に忘れずクドラクを挑発する。後の作戦・・・・もあって逃げられたら全てがパーだ。

 さあ思い切りやろう。思い切り生きよう。

 ああ、楽しくて仕方ない。ここだったらなんでもやれる。

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